研究課題
基盤研究(A)
エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンを増殖に必要とするため枯渇療法で寛解するが、高い頻度で再発する。この再発乳がんにはエストロゲン投与療法が有効である。これらの過程では、核内長鎖ノンコーディングRNAエレノアによる遺伝子の発現制御が重要な役割を果たす。本研究では、エレノア-タンパク質-ゲノムDNAの3者複合体による分子濃縮体形成とその意義を明らかにする。また、前立腺がんとの関連の解明に取り組む。
エストロゲン受容体(ER)陽性型乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンを枯渇する治療法で寛解するが、治療抵抗性を獲得して再発する頻度が高いことが問題である。ER陽性再発乳がんでは、長鎖ノンコーディングRNAエレノアが高発現して核内に分子濃縮体を形成し、ゲノムの高次構造を制御して近隣遺伝子の転写を活性化する。臨床検体の解析により、エレノアが術後5年を経てなお再発する晩期再発に関わること、その過程で乳がん幹細胞を維持することなどが明らかになっている。従ってエレノアは診断マーカーと治療標的候補として有力であり、さらなる分子メカニズムの解明と、重要な概念を確立することが必要である。興味深いことに、別のホルモン依存性がんである前立腺がんにおいてもホルモンを枯渇する内分泌療法中に再発する、また晩期再発の頻度が高いことなど、乳がんと同様の現象がみられ、共通する基本的な分子機序の存在が想定される。本研究では、再発乳がんにおけるエレノアノンコーディングRNAが司る核・クロマチン制御のメカニズムの詳細を明らかにすること、その普遍性を検証するために前立腺がんにおいて同様の機序が存在するかを検証することを目的とする。ホルモン依存性がんの根本的で新しい治療の可能性に繋げる。本年度は、エレノアに結合するゲノムDNAとタンパク質の同定につとめた。
2: おおむね順調に進展している
下記の研究を行った。(1)エレノアRNA-タンパク質-ゲノムDNA複合体の解析:エレノアRNAと転写コアクチベーター、さらにスーパーエンハンサー配列との3者複合体について調べた。エレノアをLNA (locked nucleic acid)でノックダウンしたところ、コアクチベーターのスーパーエンハンサーへの結合が低下した。またコアクチベーターの特異的阻害在あるいはLNAで阻害ししたところ、エレノアのスーパーエンハンサーへの結合が低下した。(2)個体におけるエレノア機能の検証:エレノアRNAとタンパク質複合体の腫瘍における意義を、個体レベル(移植マウス)で検証した。レシピエントマウスとして、エストロゲン枯渇療法を模すために、卵巣を除去した雌マウスヌードマウスを準備した。これにLTED細胞を移植したところ、オリジナルであるER陽性乳がん細胞株(MCF7またはHCC1428)の移植に比べて腫瘍形成能が高いことを認めた。(3)前立腺がんの再発にかかわるノンコーディングRNAの同定と解析:ホルモン枯渇療法に耐性となった再発前立腺がんのモデル細胞を樹立することを検討した。ヒト前立腺がん株LNCaPを培養し、ホルモン枯渇した条件下で長期(2-3ヶ月)培養することを検討した。AR(アンドロゲン受容体)を高発現してホルモン非依存的に増殖できる細胞を(LTAD)の確立を目指した。LNCaP細胞において、AR遺伝子座由来のRNAをFISHにて確認した。
(1)エレノアRNA-タンパク質-ゲノムDNA複合体の解析:ひきつづきエレノア-コアクチベーター-スーパーエンハンサー複合体の詳細を解明する。エレノアをLNA (locked nucleic acid)でノックダウンした際のコアクチベーター-スーパーエンハンサーへの結合への影響、逆にコアクチベーターを特異的阻害在JQ1あるいはLNAで阻害した時のエレノアのスーパーエンハンサーへの結合やエレノアクラウド形成への影響を調べる。エレノアクラウドの全構成因子を同定するために、ChIRP-MS(質量分析)を行う。必要に応じてCRISPR-dCAS9を用いた、CARPID法(CRISPR-Assisted RNA-Protein Interaction Detection)も検討する。(2)個体におけるエレノア機能の検証:ひきつづき、エレノアRNAとタンパク質複合体の腫瘍における意義を理解するために、移植マウスを用いた解析をすすめる。LTED細胞移植マウスに対して、エレノアの阻害剤であるエストロゲン、レスベラトロール、コアクチベーターの阻害剤を投与して腫瘍サイズを測定し、腫瘍組織を取り出し、薄切切片を作成し、ヘマトキシリン-エオシン染色、免疫染色、FISH解析を行い、腫瘍形成、ESR1遺伝子とCD44遺伝子の発現への影響を調べる。(3)前立腺がんの再発にかかわるノンコーディングRNAの同定と解析:ひきつづき、ホルモン枯渇療法に耐性となった再発前立腺がんのモデル細胞(LTAD:long term androgen deprivation)をLnCaP細胞から樹立することを試みる。LTAD細胞でノンコーディングRNAの転写を伴ってmRNAの転写が活性化する遺伝子群を抽出することを検討する。並行して、前立腺がんのホルモン投与療法の可能性を検討する。LTAD細胞にアンドロゲン/テストステロンで処理して、アポトーシスが誘導されるか、どのような条件下で誘導されるかを調べる。
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