研究課題/領域番号 |
23H00506
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分62:応用情報学およびその関連分野
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
中茎 隆 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (30435664)
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研究分担者 |
堀 豊 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (10778591)
村山 恵司 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70779595)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
47,060千円 (直接経費: 36,200千円、間接経費: 10,860千円)
2024年度: 10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
2023年度: 14,820千円 (直接経費: 11,400千円、間接経費: 3,420千円)
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キーワード | DNAコンピューティング / ニューラルネットワーク / 人工核酸 / マイクロ流体デバイス / 分子通信 |
研究開始時の研究の概要 |
生物の脳神経ネットワークにおける情報処理をアルゴリズムとして抽出した「ニューラルネットワーク」は,ネットワーク内の「重み」を巧みに調節することで,様々な入出力関係を持つ関数を学習により獲得することができる。本研究では,DNAコンピューティングの理論と技術を発展させ,反応拡散系として分子的に実装されたニューラルネットワークシステムを開発し,マイクロ流体デバイスにて実験レベルで検証する。
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研究実績の概要 |
本研究では,反応拡散系として分子的に実装されたニューラルネットワーク(分子ニューラルネットワーク)を開発する。内部に化学反応回路溶液を内包した人工カプセル(分子ニューロン)をネットワークの基本単位とし,3つの研究課題に取り組む。 (1)分子ニューロンのソフトウェア:ニューラルネットワーク演算をDNA反応系(DNA回路)として実装すべく,基礎検討を行った。複数チャンネルからの分子シグナルを統合し,学習条件において重みが更新されるための基本機構を考案した。また,重みの更新処理を実現するための直交した情報処理系構築を目的とし,人工核酸D-aTNA及びSNAの鎖交換反応における鎖長の影響や反応速度の解析を行った。その結果,天然核酸と人工核酸では二重鎖の安定性が異なるため,鎖交換の反応挙動が大きく異なることが明らかとなった。また,D-aTNAとDNAは十分な直交性を有していること,そしてSNAをmediatorとすることでD-aTNAとDNA間の情報伝達が可能であることを実証した。 (2)分子ニューラルネットワークのハードウェア:分子ニューラルネットワークの幾何学構造をウェット実験系として実現するためのマイクロ流体デバイスの基礎検討を行った。特に,国際共同研究者からの協力を得て,基礎検討用デバイスを製作した。 (3)分子ニューロン間の分子通信技術:分子拡散によって分子シグナル波形が平滑化されるため,通信路環境の最適化が必要である。今年度は,分子通信路を拡散方程式でモデル化し,分子拡散により生じるシグナルの歪みの特性を,拡散方程式の周波数伝達関数に基づき解析するための制御理論的な枠組みを構築した。その枠組みを利用して通信距離や拡散係数等の系のパラメタに対する分子ニューロン間通信のシグナル歪みの大きさを明らかにした。これらの成果を取りまとめ,国際会議での発表と原著論文の執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)分子ニューロンのソフトウェア:重みの更新を行うモジュールとして,外部回路との接続に対して高いモジュール性を有するDNA回路の設計法を考案し,査読付国際会議論文として発表した。複数の入力チャンネルからの分子シグナルを統合しながら適切な出力応答を生成する反応系も設計することができた。また,スケーラブルなDNA回路設計を実現するために,DNA鎖の定常応答値(濃度量)をシグナルとするのではなく,過渡応答値(濃度変化量)をシグナルとする新たな回路設計法について実証実験系を構築した。一方で,誤差逆伝播法のDNA回路への実装については,基本設計を継続しており,人工核酸を活用した設計法の模索を続けている。ただし,DNAの機能拡張という観点では,誤差逆伝播処理に必要な,人工核酸D-aTNA及びSNAの鎖交換反応に関わる新たな知見を得ることができただけでなく,DNAで構成される順方向の反応系(加算処理・閾値処理)と,D-aTNAで構成される逆方向の反応系(誤差逆伝播処理)の間の情報の橋渡しを,SNAで実現できることが確認できた。 (2)分子ニューラルネットワークのハードウェア:分子ニューラルネットワークの幾何学構造をウェット実験系として実現するためのマイクロ流体デバイスの基礎検討用デバイスを製作し,分子ニューロンを模したビーズを流路内に流し,トラップすることに成功した。 (3)分子ニューロン間の分子通信技術:分子拡散によるロバストな通信を実現する上で欠かせない分子通信路の数理モデルやその特性の解析法に関する汎用的な理論的基盤を確立することができた。これにより,当初の予定通り,マイクロ流体デバイスにおける分子ニューロンの通信を体系的に最適化する準備が整った。 以上の成果は適宜適切なタイミングで,学術論文,国際会議論文,口頭,ポスター発表等で発表された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画,および,今年度の研究の進捗状況を鑑み,設定している3つの研究課題についての今後の推進方策をまとめる。 (1)分子ニューロンのソフトウェア:誤差逆伝播法,あるいは,重みの更新に必要な情報処理を実装したDNA回路の設計を推進する。特に,スケーラブルな設計を担保するロバストなDNA回路の設計法(ハイパスフィルタ回路)の実証実験を完了させ,分子ニューロンのソフトウェア設計法の確立を目指す。また,情報処理系の構築に向け,人工核酸D-aTNA及びSNAの鎖交換反応を様々な配列で検討することにより,系の緻密な設計に必要なパラメータを求める。まずは蛍光色素を利用したモデル系を設計し,求めたパラメータの妥当性の検証を行うとともに,実際の情報処理系の構築を目指す。 (2)分子ニューラルネットワークのハードウェア:今年度は,分子ニューラルネットワークの幾何学構造をウェット実験系として実現するためのマイクロ流体デバイスの基礎検討用デバイスを製作したが,分子ニューロン間の距離,反応溶液を流すためのインレット,アウトレットの最適化,さらには,MEMS工程の最適化を行う。分子ニューロンが効率良くトラップ構造に捕捉されるよう設計の改良を推進する。 (3)分子ニューロン間の分子通信技術:今年度に得られた分子通信路の解析法を,マイクロ流体デバイス中で動作する分子ニューラルネットワークの具体的な設計に応用する。特に,拡散通信において受信分子ニューロンの発火に必要な通信距離や流速等の条件等を定め,流体デバイス中の分子ニューロンのトラップ間隔の設計,およびシグナル流速の調節機構の開発を推進する。
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