研究課題/領域番号 |
23H00513
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分63:環境解析評価およびその関連分野
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
菅原 敏 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (80282151)
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研究分担者 |
梅澤 拓 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球システム領域, 主任研究員 (00570508)
後藤 大輔 国立極地研究所, 先端研究推進系, 助教 (10626386)
森本 真司 東北大学, 理学研究科, 教授 (30270424)
豊田 栄 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30313357)
石戸谷 重之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究グループ長 (70374907)
丹羽 洋介 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球システム領域, 主任研究員 (70588318)
石島 健太郎 気象庁気象研究所, 気候・環境研究部, 主任研究官 (90399494)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
46,800千円 (直接経費: 36,000千円、間接経費: 10,800千円)
2024年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
2023年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
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キーワード | 成層圏大気年齢 / 重力分離 / ブリューワー・ドブソン循環 / 成層圏大気サンプリング / ブリューワードブンソン循環 / 大気の重力分離 / 大気の平均年齢 / 成層圏大気の年齢 |
研究開始時の研究の概要 |
大気球を用いた日本上空の成層圏大気直接採取実験を実施し、多種の気体成分の濃度や同位体の成層圏における鉛直分布を明らかにする。さらに、過去の成層圏大気試料の分析を行い、新たな気球実験で得られる最新の大気試料の解析結果を組み合わせ、長期データセットを構築する。複数の気体成分から成層圏大気の年齢の変動を明らかにするとともに、成層圏大気組成の重力分離の長期変化を高精度で推定し、数値モデルと組み合わせることで、複数の手法によって成層圏の大循環の長期変化を評価する。また、メタンと一酸化二窒素の濃度および同位体の変動と大気年齢や重力分離の解析から、それらの消滅反応の長期変化を明らかにする。
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研究実績の概要 |
研究初年度である令和5年度は、令和6年度の夏に予定されている大気球を用いた成層圏大気サンプリング実験のために、主に実験システムの構築と実験準備作業を中心に進め、順調な成果が得られた。新しいシステムの特徴は、従来のモーター駆動バルブを短時間で操作可能な空圧バルブに変更した点である。システムの新しい制御回路を設計・製作し、地上における模擬試験を多数回繰り返し、十分な信頼性があることを確認した。11月には宇宙科学研究所大気球シンポジウムにて、次年度国内実験への応募と、サンプリングシステム構築の進捗状況を報告した。その審査の結果、本研究の実験は次年度国内実験として採択され、かつ、その優先度も高いとの評価を得るに至った。 過去の実験で得られているアーカイブサンプルの分析も予定通りに進めた。特に、国立環境研究所によって複数の年のアーカイブサンプルのハロカーボン類18種類の濃度の分析に成功した。その中の複数の成分については、成層圏での平均寿命や分析精度などの検討から、平均年齢の推定に適していることが明らかになった。また、宮城教育大によるSF6のアーカイブ分析も実施し、40年間をカバーするデータが蓄積されつつある。 重力分離の研究は大気酸素同位体のドール・森田効果(DME)の解明にも寄与する可能性が見出された。成層圏観測の結果、大気の主成分である酸素についても成層圏において異なる質量数によって重力分離が起こることが知られていたが、成層圏では光化学過程によって酸素の非質量依存型の同位体分別が起きることで、大気の循環に伴って成層圏から対流圏に戻ってくる酸素は、対流圏の18Oを希釈するはたらきをもつ。本研究では、成層圏と対流圏間の大気交換を考慮した新しい全球ボックスモデルを開発し、DMEに対する成層圏の役割について考察した。この研究成果は論文としてまとめられ、電子ジャーナルに投稿された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和6年度の夏に実施する予定の大気球実験の準備作業は、概ね順調に進展している。令和5年度の研究費は、当初の計画通りに、主に大気球実験の準備のための物品購入に充てられた。特に、成層圏大気サンプルの保存容器は、大気球実験で得られたサンプルを今後数十年間にわたって長期に保存するためのものであり、事前の洗浄や内面処理を予定通り進めることができた。また、ゴンドラ製作のためにアルミアングルやネジ類を購入し、設計どおりに製作することができた。12月に実験装置の総合試験を実施し、サンプリング流量調整の方法や、回路の動作に関する幾つかの課題が判明したため、それらの要素試験を重ね、3月に実施した2回目の総合試験までに問題を解決した。大気球実験を実施するためには、宇宙科学研究所との緊密な協力が不可欠であり、大学共同利用研究の枠組みを活用して、実験実施の手続きを順調に進めている。大気球実験に応募し、宇宙科学研究所の審査を受け、成層圏大気サンプリング実験は次年度国内実験として採択され、かつ、その優先度も高いとの評価を得ることができた。さらに、実験の安全審査も受け、システム全体について特に問題がないことも確認されている。 過去の気球実験で得られたアーカイブサンプルの分析も概ね順調に進展している。特に、ハロカーボン類の分析によって、新たにCFCs、HCFCs、PFCsなどの18種類もの成分濃度の高度プロファイルを明らかにすることができた。この中で成層圏における平均寿命が比較的長い成分については、当初からハロカーボン年齢を推定することが可能であると予想していたが、期待通りに複数成分濃度から平均年齢を推定できる見込みであることがわかった。現在、この結果は論文としてまとめつつある。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度の夏の大気球実験を成功させるために、さらに準備作業を推進する。5月には宇宙科学研究所相模原キャンパスにて、物資発送前の総合試験を実施し、気球工学グループの支援を受けながら、最終噛み合わせ試験を実施する。また、液体ヘリウムなどの冷媒の購入および輸送の手段を検討し、気球実験に確実に使用できるよう手配を進める。5月の総合試験に向けて、試料容器、液体ヘリウムデュワー、トランスファーチューブ、サンプル分析用継手部品などの真空系の排気を実施する。大気球実験が成功した場合には、当初の計画どおりにアーカイブサンプルの分取と各種気体の分析を進める。多成分の気体分析を行う場合には、試料容器から気体を取り出す際のコンタミネーションを防ぐだけでなく、ごくわずかな気体成分や同位体の分別も避けなければならない。そのため、サンプルの分割を行う前に、分別効果の影響を受けやすい大気主成分の同位体分析・重力分離のための分析を最初に産総研にて実施する。その後に、東北大においてアーカイブサンプルの分取と温室効果気体濃度の基本解析を実施する。その後、さらにハロカーボン類の濃度、各種成分の同位体、希ガス同位体などのためのサンプル配分を行う。同時に、過去のアーカイブサンプルの中で、未分析のものの分析を加速させ、六フッ化硫黄やハロカーボン類の長期変動を明らかにし、平均年齢の長期変動の解明につなげる。さらにNICAM、MRI-CCM2、WACCMなどの3次元モデルや、2次元モデルのSOCRATESを用いて、観測された二酸化炭素濃度の鉛直分布や、重力分離と平均年齢のシミュレーションを加速させる。
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