研究課題
奨励研究
悪性リンパ腫の標準治療には、ビンクリスチン(VCR)を含む多剤併用療法が用いられている。VCRは肝臓内でチトクロムP450(CYP)3A5により代謝される。CYP3A5遺伝子には活性に影響を及ぼす一塩基多型が存在し、小児ではCYP3A5遺伝子多型がVCRの薬物血中濃度時間曲線下面積(AUC)を上昇させることが報告されている。しかし、成人患者においてCYP3A5の遺伝子多型がVCRのAUCに及ぼす影響については明らかとなっていない。本研究では、成人悪性リンパ腫患者において、CYP3A5遺伝子多型がVCRの薬物動態に及ぼす影響について母集団薬物動態解析の手法を用いて解析を行う。
ビンクリスチン(VCR)による末梢神経障害は用量依存的であるため、用量制限毒性が設けられている。VCRは主にCYP3A5により代謝されるが、本代謝酵素には遺伝子多型が存在し、*3アレルをホモ接合体で有する場合は、機能的タンパクが発現しない。本研究では、母集団薬物動態解析の手法を用いてVCR薬物動態予測モデルを構築し、CYP3A5*3遺伝子多型が成人びまん性大細胞性B細胞リンパ腫患者の個別化投与設計において有用な指標となり得るか検討を行った。
母集団薬物動態解析の結果、VCRクリアランスの共変量としてCYP3A5*3/*3が抽出された。最終モデルの母集団薬物動態モデルの母集団薬物動態パラメータは1000回のブートストラップ解析により得られた中央値と近似しており、構築したモデルの頑健性が示された。本結果により、CYP3A5*3/*3患者ではVCRの体内曝露量が増加するため、VCRの投与量を減量する必要性が示唆された。本研究結果は、VCRにおける用量依存的な副作用である末梢神経障害を回避しつつ、最大投与量を維持するための個別化投与設計に資すると考えられる。
すべて 2023
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Cancer Chemother Pharmacol
巻: 92 号: 5 ページ: 391-398
10.1007/s00280-023-04580-1