クロザピンは治療抵抗性統合失調症に対して唯一効果が示されている薬物である。しかし、無顆粒球症などの致命的な副作用が発現することから、その導入には慎重を要する。現在綿密な検査計画の上でクロザピンを使用することが義務付けられているが、一部の患者では依然副作用の発見が遅れる。 クロザピンは多元受容体作用抗精神病薬に分類され、様々な受容体に作用するため副作用発現の分子メカニズムは複雑であり、十分に解明されていない。クロザピンを有効かつ安全に使用するためには副作用発現の機序の解明と、副作用発現を予測するバイオマーカーの発見は急務である。 そこで本研究では九州大学病院精神科神経科に通院する患者のうち、クロザピンを内服中の患者30名を対象とし、LC-MS/MSを用いてクロザピン及び複数の活性代謝物血中濃度の測定とメタボローム解析を行う計画を立てた。しかし、該当疾患の患者の臨床研究へのリクルートに難渋した。そのため、研究期間において統計解析を実施するのに十分な母数を収集することができなかった。 そこで、クロザピンの副作用の中で特に問題となる好中球減少症についてHL-60細胞を用いて、その機序の解明を試みた。HL-60細胞に対してクロザピンを曝露させて細胞死の誘導を行った。細胞死の誘導条件で処理を行った細胞を経時的にサンプリングしていき、タイムコースにメタボローム解析を行った。いくつかの候補バイオマーカーを検出した。今後はこれら候補バイオマーカーが関与する細胞死の機序を解明し、臨床検体での検証を行っていく予定である。
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