研究課題/領域番号 |
23H05407
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研究種目 |
特別推進研究
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
山本 尚 中部大学, ペプチド研究センター, 卓越教授 (20026298)
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研究分担者 |
早川 禎宏 株式会社島津製作所, その他部局等, 部長級 (50395414)
満田 勝 中部大学, 先端研究センター, 特任教授 (60964856)
服部 倫弘 中部大学, 先端研究センター, 特任准教授 (80880442)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
560,170千円 (直接経費: 430,900千円、間接経費: 129,270千円)
2024年度: 96,070千円 (直接経費: 73,900千円、間接経費: 22,170千円)
2023年度: 175,890千円 (直接経費: 135,300千円、間接経費: 40,590千円)
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キーワード | Two by Two 法 / スーパー・シリル保護基 / 収束型合成 / ジケトピペラジン / ペプチド一挙合成 / スーパーシリル保護基 / ペプチド鎖の結合反応 |
研究開始時の研究の概要 |
ペプチドは中分子創薬のターゲットとして重要性が高まっている。本研究は、大量合成が困難な従来の固相ペプチド合成に代わる革新的な合成法を提案し、ペプチド創薬の実現を目指している。具体的には、Bocジケトピペラジン法に基づくペプチドの新規液相合成法を確立し、収束型合成手法を組み合わせて大規模合成可能な手法へと展開する。さらに、論理的な創薬探索法を完成させ、社会実装に向けたペプチド合成を実現する。
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研究実績の概要 |
モノBocジケトピペラジンを使用するペプチド合成(以下Two by Two法)は一挙にジペプチド単位で伸長することが可能であり、従来のペプチド合成の効率化に直結する本研究の最重要課題である。まずはこの手法の一般性獲得に向けた検証をするに当たって、あらゆるアミノ酸の組み合わせによるモノBocジケトピペラジンを効率よく合成する手法を確立することが急務であったため、重点的に検討した。その結果、無保護のジケトピペラジンに対する位置選択的なBoc化法を確立した。一方で、この手法では適用できるアミノ酸の種類に制限があったため、一般的合成法として5工程での合成を確立し、また同時にこれまでの当研究室で開発してきた手法を用いた3工程での合成ルートも確立した。またそれぞれの方法で、グラムスケール検討での耐久性を確認した。 長鎖ペプチド合成に向けて有機溶媒に対する溶解性は改善すべき必須の課題である。ケイ素化は化合物の極性を低下させ、有機溶媒への溶解性を改善可能な手法であるが、我々はケイ素同士が結合したスーパー・シリル基を使用するTAGに注目した。いくつかのスーパー・シリル基を有するTAGを調製し、アミノ酸に装着したところ、大幅な低極性化に成功するとともに10ペプチドでも油状形態を保つことが可能であることを明らかにした。これにより有機溶媒に対する溶解性について一切の問題を解消することができた。 従来のペプチド合成では保護脱保護工程を常に必要とするため多くの工程数と処理溶媒を始めとる甚大な廃棄物の産出が問題視されている。我々は二種類のケイ素化試薬を活用することによりN末端とC末端ともに保護基を有さないアミノ酸同士の縮合反応に成功した。またここで調製したシラサイクリック化合物を使用して収束型合成を検討し、縮合剤を使用しないペプチド両末端伸長が高収率で進行する条件を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、2023年度に目標として立案した計画はほぼ到達している。 ジケトピペラジンを用いたTwo by Two法の確立では、現在反応の最適条件探索を終え、基質の一般性を確認している段階である。アミノ酸は多種多様な官能基を有しているため、反応条件に対してアミノ酸種に依存した得手不得手が存在する。無保護ジケトピペラジンからモノBocジケトピペラジンへの変換反応もアルミニウム試薬とケイ素化試薬を両立して位置選択的な官能基化に成功したが、グリシンもしくはアラニンをペアとする組み合わせに限定されてしまった。そのため次年度以降は単一の反応条件開発に注力するばかりでなく、複数の反応開発に展開して、どのような状況になっても目標に到達するよう、手筈を整える。以上の点から、ジケトピペラジンの研究テーマについては一年目でモノBocジケトピペラジン調製とその伸長反応条件を確立することができたため、一定以上の成果を挙げることができたが、次年度に向けた課題も明確となったため、今後一般性獲得に向けた万能のモノBocジケトピペラジン調製法の検討に重点を置いて検討進めていく。 TAG調製ではその合成と適用検討まで終結しており、到達目標はすでに達成している。そのため今後長鎖ペプチド合成の際に常時使用できるように大規模合成を実施する。また更なる効率化を目指し、分子内にシロキサンを複数含むTAGを追加で合成し、これまでに調製したTAGと比較することでTAGの効力向上に期待する。 収束型合成について、無保護アミノ酸を使用した縮合反応が効率よく進行する反応条件を確定し、基質の適用範囲を確認したところ天然アミノ酸だけでなくあらゆる機能を有する非天然アミノ酸でも高選択的に目的とする交差縮合反応が進行することを確認した。そのため、この手法を用いたワンポット収束型オリゴペプチド合成に適用し、次年度中での論文投稿を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は真に革新的なペプチド合成を目指したものである。革新性においてはすでに十分成果を挙げ始めており、次年度以降は論文や学会などで順次発表していく予定である。 Two by Two法では一般性獲得に向けた複数の手法の確立を目指す。我々はこれまでにラセミ化を伴わないペプチド液相合成を複数開発してきており、論文等で高い評価を受けている。これらの知見を利用して可能な限り少ない工程でのモノBocジケトピペラジン合成を高純度高収率で達成するよう計画している。 TAG合成では今後当研究室で合成する多くの長鎖ペプチド合成において欠かせないユニットとなる。そのためg-ラボスケール、もしくはk-ラボスケールで実施し、TAGを確保するとともにその耐久性を確認する。また溶解性の更なる向上を目指し、複数のシロキサンを含む新たなTAG調製を実施する。 収束型合成は概ね基質の適用範囲の確認を終えており、その広い一般性が証明されつつある。今後は多様な非天然アミノ酸での検討を実施するとともに、ペプチド同士の縮合反応がワンポットで実施可能な条件を精査し、効率的なワンポットオリゴペプチド合成法を確立したのち論文投稿できるよう準備する。 これら主軸のテーマを完結し、その成果を公表するとともに、新たに需要の高い特殊ペプチドの合成についての調査を始める。現在ペプチド医薬品は世界的に年間50億ドルの売り上げを出しており承認医薬品数も年々急増している(Nat. Rev. Drug Discov. 2021, 20, 309.)。一方で市場に出回っている大半の需要の高いペプチド医薬品は、天然アミノ酸のみから構成される線状ペプチドではなく、非天然アミノ酸を含むペプチドや特殊ペプチドである。まずは環状ペプチドのような特殊ペプチドの合成に焦点を当てて調査および検証実験を実施する。
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