研究課題/領域番号 |
23H05431
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
十倉 好紀 東京大学, 東京カレッジ, 卓越教授 (30143382)
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研究分担者 |
金澤 直也 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (10734593)
Hirschberger Maximilian (ヒルシュベルガーマックス) 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70871482)
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研究期間 (年度) |
2023-04-12 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
196,300千円 (直接経費: 151,000千円、間接経費: 45,300千円)
2024年度: 58,110千円 (直接経費: 44,700千円、間接経費: 13,410千円)
2023年度: 48,100千円 (直接経費: 37,000千円、間接経費: 11,100千円)
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キーワード | 創発電磁誘導 / マルチフェロイック伝導体 / らせん磁性体 / スキルミオン / マルチフェロイックス |
研究開始時の研究の概要 |
固体電子系において量子力学的なベリー位相の概念によって発現する仮想的な磁場(創発磁場)と仮想的な電場(創発電場)との関係が、ナノの世界における創発電磁誘導現象、すなわち時間変化する電磁場に応答する電子系の非自明な交差相関電磁応答、を与える。局在スピンと伝導電子が結合する強相関電子系を対象に、(1)実空間の非共線、非共面型の幾何学的スピン秩序と揺らぎを有する系、および(2)時間反転・空間反転対称性が同時に破れた伝導体(拡張マルチフェロイックス)などにおいて、創発電磁誘導現象を開拓し、その学理を構築する。
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研究実績の概要 |
本研究では、局在磁性と伝導電子が結合する強相関電子伝導系において、スピン系のダイナミクスがもたらす創発電磁誘導現象を実証し、統一的な創発電磁誘導の学理を構築することを目指している。対象物質は、(a)らせん磁性を有する伝導体、(b)極性(電気分極)と強磁性を持つマルチフェロイックス伝導体、(c)磁気スキルミオンを生じる伝導体、などである。 (a)らせん磁性伝導体R3Ru4Al12、RMn6Sn6、RMn2Ge2の単結晶合成をフラックス法、高真空フローティングゾーン法により行なった。得られた高品質試料の磁化測定や電気・熱輸送測定によって温度磁場相図を作成した。さらに、マイクロデバイスを収束イオンビーム (FIB) 法を用いて加工し、特定の磁気相においてトポロジカルホール効果や非相反非線形伝導現象を観測した。 (b)マルチフェロイック伝導体RAlSi, RAlGeにおいて、スピン軌道トルクに起因したホール型創発インダクタンスを観測した。従来のロックイン測定法を用いた周波数ドメインでの測定とオシロスコープによる時間ドメインでの測定を組み合わせ、創発電磁誘導現象を引き起こすダイナミクスを明らかにした。さらに、磁場による一次相転移における磁気ドメイン境界壁が巨大な創発インダクタンス応答を引き起こすことを見出した。以上の結果について、論文にまとめ投稿の準備を進めている。 (c)高密度スキルミオン格子の標準的な系であるGd2PdSi3のFIBデバイスを作製し、DC電流励起によるスキルミオン運動とそれに伴う巨大な創発電場応答を観測した。さらに、励起強度の増加に伴い、スキルミオン運動のpinned-creep-flowの動的相転移が生じ、flow状態では創発磁場・電場の打ち消しによるトポロジカルホール効果の消失を観測した。これはスキルミオンと伝導電子の運動にガリレイ相対性が成り立つことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(a)高真空フローティングゾーン法によって既存の手法よりも高品質な試料の作製に成功しつつある。これは、化学置換による電子占有率や磁気的相互作用などの多元パラメータ制御につながり、創発電磁誘導現象の理解の深化が期待できる。さらに、マイクロデバイス加工によって、トポロジカルホール効果や非相反非線形応答の強い試料形状依存性が明らかになり、中性子散乱による磁気構造決定を期している。以上は、らせん磁性体R3Ru4Al12、RMn6Sn6、RMn2Ge2が創発電磁誘導現象を研究する舞台として有望であることを示唆している。 (b)マルチフェロイック伝導体におけるスピン軌道トルクに起因したホール型創発電磁誘導現象について、オシロスコープを用いた時間ドメインでの測定により、その特性や詳細な機構に迫るデータが揃いつつある。加えて、極性を有する強磁性伝導体RAlSi, RAlGeの一次磁気相転移を磁場により制御することで、一次相転移近傍において、異なる磁気相の境界に現れる磁気ドメイン壁が巨大な創発電磁誘導応答を示すことを発見した。これらの結果は次年度以降の研究領域の更なる展開につながる成果である。 (c)スキルミオン運動のpinned-creep-flowと続く動的相転移と、flow状態での磁気スキルミオンの創発磁場と創発電場の打ち消しによるトポロジカルホール効果の消失とガリレイ相対性の発見に関する論文を投稿中である。さらに、創発電場応答の実時間測定を通じて、DC電流励起強度変化とスキルミオン速度の関係から、クリープ状態でのスキルミオン運動の慣性現象とホール型創発インダクタンスを発見し、その詳細を研究中である。
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今後の研究の推進方策 |
以上の実績に基づき、創発電磁誘導現象発現の有力候補と判明した物質系について、その結晶・薄膜合成・デバイス構造作製に注力する。そして、改良した技術による測定と解析を行う。 (a)らせん磁性伝導体R3Ru4Al12,RMn6Sn6, RMn2Ge2の単結晶合成を継続する。これらの磁気構造の決定のため、中性子散乱、X線磁気散乱測定を引き続き行う。また、創発インダクタンス測定のためのマイクロデバイスを作製し、そこでの基本的磁気相図や種々の磁場、温度、励起電流密度の条件下での創発インダクタンスの測定を継続して進めるとともに、関連する電流強度・方向に対して非線形・非相反に応答する縦および横(ホール)輸送現象の解明にも注力する。 (b)マルチフェロイック伝導体として、極性を有する強磁性伝導体RAlSi, RAlGeの結晶のFIB 加工試料を用いて、上記のスピン―軌道トルクによる創発電磁誘導現象の特徴と詳細な機構を追究するため、種々の実験条件下の測定と解析を継続し、これまで未踏であったホール型創発インダクタンスの特徴を明らかにする。 (c) DC電流励起強度変化によるスキルミオン運動のpinned-creep-flow相転移におけるホール型創発電場の発生・消失について、ホール抵抗、縦抵抗をプローブとしてその周波数特性や実時間追跡法により詳しく解明し、ホール型創発インダクタンス特性を明らかにする。 (d)磁場変化によって一次相転移を示す異なる磁気相の境界で、非共線スピン構造を示す磁気ドメイン境界壁がしばしば巨大な創発電磁誘導を起こすことが見いだされた。これを上記で準備した一次相転移がよく制御可能な系において、創発インダクタンスの詳細な電流、周波数依存性の測定によって、磁気ドメイン壁のダイナミクスを明らかにする。創発電磁誘導現象を巨視的な電流誘起磁気ダイナミクスのプローブとする試みである。
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