研究課題/領域番号 |
23H05452
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
市坪 哲 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (40324826)
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研究分担者 |
岡本 範彦 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (60505692)
河口 智也 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00768103)
李 弘毅 東北大学, 金属材料研究所, 特任助教 (80876706)
下川 航平 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (30876719)
田中 万也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (60377992)
岡村 浩之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (30709259)
八木 俊介 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (60452273)
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研究期間 (年度) |
2023-04-12 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
208,390千円 (直接経費: 160,300千円、間接経費: 48,090千円)
2024年度: 45,760千円 (直接経費: 35,200千円、間接経費: 10,560千円)
2023年度: 98,280千円 (直接経費: 75,600千円、間接経費: 22,680千円)
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キーワード | デュアルキャリア / 多価イオン / 蓄電池 / デントライト / 高エネルギー密度 |
研究開始時の研究の概要 |
持続可能なエネルギーシステムを構築するため,安全・安心かつ高エネルギー密度・低コストを兼備した蓄電池技術が必要不可欠である.現行のリチウムイオン電池はすでに理論限界に近づいており,蓄電池の性能を飛躍的に向上させるためには,学理開拓に基づく新規蓄電池系の開発が求められている.本研究は,最大の理論エネルギー密度を有するメタルアノード蓄電池の実現を目指して,一価イオンと多価イオンの協奏効果を利用して,金属負極上のデンドライト形成の抑制機構を確立し,それらのイオンが同時に脱挿入する事を可能にする正極設計原理を導き,蓄電デバイスにおけるデュアルイオンが織りなす世界の学理を構築する.
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研究実績の概要 |
本研究は,最大の理論エネルギー密度を有するメタルアノード蓄電池の実現に向け,一価カチオンと多価カチオンの協奏的効果を利用して,金属負極上のデンドライト形成の抑制機構を確立し,それらのカチオンが同時に脱挿入する事を可能にする正極設計原理を導き,蓄電デバイスにおけるデュアルカチオンが織りなす世界の学理構築を推進している.本研究の遂行にあたって,負極反応を「SEIタイプ」と「合金共電析(合金化)タイプ」の2種類の反応機構に区別して,負極側と正極側の研究内容を並行して各々の学術的問いを解決し,デュアルカチオンを用いたメタルアノード蓄電池を実現することを目的とする.SEIタイプ負極では,1種類の金属イオンが析出・溶解し,他の金属イオンが電解液添加剤として働き,合金タイプ負極では,異なる金属元素が合金析出・溶解することを想定している. 初年度では,SEIタイプ負極の研究において,低濃度領域のカーボネート系電解液をモデルとして,アルカリ土類カチオンなどの多価イオン元素の添加効果を系統的に調査し,Li金属負極の析出・溶解形態や表面被膜形成に対する効果を解明し,実用レベルに近い性能を得られた.また,合金共電析タイプ負極の研究において,昨年度はAl箔合金負極において,金属添加によるAl母相の機械的特性とLi合金反応挙動の変化を調査し,Al箔負極の構造安定性とサイクル性を向上させる指針を検討した. また一方で正極材料の研究において,昨年度はα-MnO2において,Mg2+はアルカリカチオンとの共挿入により, Mg2+の固体内拡散速度とホスト構造の安定性が向上する現象を確認し,協奏的効果を活かせるための熱力学的,速度論的な必要条件を整理した.また,ハイエントロピー化により,たとえ岩塩構造を有したとしても,同構造を有する酸化物正極において従来より低い温度域でMg2+の可逆的な挿入・脱離を実現した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではデュアルカチオン(特に1価および2価のカチオン混合)の協奏的効果の学理を構築し,最大の理論エネルギー密度を有するメタルアノード蓄電池を実現する. 多価カチオンを添加剤として使用するSEIタイプ負極の研究では,Li金属負極に着目し,低濃度域のカーボネート系電解液をモデルとして,アルカリ土類金属元素とランタノイド元素の添加がLi金属負極の表面被膜性質や析出・溶解挙動に与える影響を実験・計算の両面で系統的に調査した.その結果,異なる価数のカチオン間の相互作用により電解液の溶媒和構造が改変され,アニオンとカチオンの直接配位が増加する効果を発見した.溶液構造の変化により,Li金属負極の表面に形成される電解液の還元分解物被膜の化学組成・構造の安定性が向上し,析出物の形態が緻密化・平坦化し,析出・溶解反応の可逆性は実用化のレベルに近づいたと考えている.また,合金反応を利用する合金共電析タイプ負極の研究では,Al箔合金負極に対して,他元素などの合金添加元素がLi合金反応の電位や形態変化に与える影響を調査し,異なる組成のAl箔を圧延接合することで,クラッドしたAl箔の内部にLi合金化電位のギャップを導入し,合金反応におけるLiの浸透深さを制御する技術を開発した. さらに,正極材料の研究において,昨年度はα-MnO2において, Mg2+はアルカリイオンとの共挿入により,Mg2+の固体内拡散速度とホスト構造の安定性が向上する現象を確認し,協奏的効果を活かせるための熱力学的,速度論的な必要条件を整理した.また,ハイエントロピー化により,岩塩型酸化正極において従来より低い温度域でMg2+の可逆的な挿入・脱離を実現した.また,特にこの後者の成果はJournal of Materials Chemistry A誌に掲載され,その解説が米国物理学会のPhysicsオンライン記事として紹介された.
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今後の研究の推進方策 |
最大の理論エネルギー密度を有するメタルアノード蓄電池の実現に向けて,一価カチオンと多価カチオンを併用する蓄電池科学を学問体系化する必要がある.本研究は3つの課題を設定しており,おおよそ計画通りで遂行しており,今後の推進方策は以下に述べる. 【課題】デュアルイオン(SEI)効果によるLiやNa金属負極のデンドライト電析抑制機構の確立.これまでの研究結果では,LiやNa金属負極に関して,電解液の溶媒の種類や塩の濃度(カーボネート系やエーテル系など)によって,多価カチオンを添加する効果が顕著に異なる結果が見られた.今後はイオンの濃度比や極性などのパラメータがデュアルイオン電解液の溶液構造を決定するメカニズムを解明し,クーロン効率をさらに改善するための設計指針を明らかにする. 【課題2】デュアルイオン合金共電析(あるいは合金化負極)によるデンドライト抑制機構の確立.一価イオンと多価イオンの共電析を利用するデュアルカチオン電池の構築に向けて,アニオン・溶媒種の組み合わせや濃度を利用して電解液の溶媒和結合を調整し,各カチオンの活量の変化で合金析出・溶解の電極電位を制御する技術の実現可能性を調査する.また,Al箔負極に関して,初期の不可逆容量やサイクル中の劣化を改善するため,合金設計と電解液の組成調整の両面で調査を進める.そのほか,合金コート層の設計により,Li金属負極と電解液の界面を安定化にする技術開発を進める. 【課題3】デュアルイオンを室温で同時挿入可能な正極材料構造設計指針の確立.多価カチオンの室温拡散を実現するため,モデル正極で一価カチオンと多価カチオンが共存する際の挿入サイトやホスト構造の変化を調査し,協奏的拡散が発生するメカニズムを解明するほか,計算科学的手法を併用して,より広範囲にデュアルイオン系に適する正極材料を探索する.
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