研究課題/領域番号 |
23H05473
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分F
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉田 稔 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, グループディレクター (80191617)
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研究分担者 |
白井 智量 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 上級研究員 (00639586)
西村 慎一 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (30415260)
伊藤 昭博 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (40391859)
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研究期間 (年度) |
2023-04-12 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
204,750千円 (直接経費: 157,500千円、間接経費: 47,250千円)
2024年度: 40,040千円 (直接経費: 30,800千円、間接経費: 9,240千円)
2023年度: 55,120千円 (直接経費: 42,400千円、間接経費: 12,720千円)
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キーワード | 内在性代謝物 / 化学遺伝学 / 翻訳後修飾 / 細胞間コミュニケーション / シミュレーション / 代謝フェロモン / 代謝シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
近年、本来の機能とは異なる代謝物の活性に注目が集まっている。しかし、代謝物の新しい活性を探索しようという研究は、代謝物ライブラリーや適切な評価系がないなどの理由で、偶然に発見されたものを除いてほとんど行われてこなかった。よって組織的に代謝物の新機能を解明しようという研究は、未知の新しい研究領域を拓く可能性がある。そこで、(1) 申請者らが独自に構築した内在性代謝物ライブラリーや天然化合物ライブラリーを用いて新機能代謝物と代謝変換化合物を探索し、 (2) 脂質代謝による細胞内応答、(3) 代謝物を介した細胞間コミュニケーション、 (4) 代謝フラックス予測技術を用いた情報科学を展開し、代謝物の新機能発見に迫る。
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研究実績の概要 |
本研究では、組織的に代謝物の新機能を解明することを目指し、以下の結果を得た。(1) 新機能代謝物と代謝変換化合物の探索:独自の内在性代謝物ライブラリーから低酸素応答に関わる転写因子HIF-1αを活性化するオンコメタボライト様活性を有するN-アシルドーパミンを同定した。ドーパミンアシル化酵素の候補遺伝子としてリン脂質アシル基転移酵素PLAATを同定し、その機能解析を進めた。また、がん組織など、酸性条件下で増加する代謝物としてN1-アセチルポリアミンを同定し、そのアセチル化酵素SAT1の解析からN1-アセチルポリアミンががん細胞の増殖に関与することを明らかにした(PNAS Nexus, 2023)。 (2) 脂質代謝による細胞内応答:ショットガンMS解析により、がん抑制経路であるHippo経路により制御される転写因子TEADのリジン残基が長鎖アシル化されることを見出した。機能解析の結果、リジン長鎖アシル化修飾は転写共役因子YAPとの結合に重要で、転写活性を制御することを明らかにした(Cell Rep, 2023)。また、奇数鎖脂肪酸が分裂酵母の生育を強く抑制することを見いだし、最も強い活性を示す飽和ベンタデカン酸(C15:0)の代謝経路の解明を試みた。 (3) 代謝物を介した細胞間コミュニケーション:分裂酵母の遺伝子破壊株ライブラリーから貧栄養で生育できない遺伝子破壊株を網羅的に探索し、それらの中で野生株の近傍で適応生育できる株を同定した。 (4) 代謝フラックス予測技術を用いた情報科学:代謝におけるネットワーク全体の変化を予測し、特定の代謝物や代謝調節化合物の投与によって、代謝全体がどのように変化するかを理解する新しいシステムの構築を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、本来の機能とは異なる代謝物の活性に注目が集まっているが、組織的に代謝物の新機能を解明しようという研究は、これまでほとんど行われてこなかった。そこで本研究では、(1) 申請者らが独自に構築した内在性代謝物ライブラリーや天然化合物ライブラリーを用いて新機能代謝物と代謝変換化合物を探索し、 (2) 脂質代謝による細胞内応答、(3) 代謝物を介した細胞間コミュニケーション、 (4) 代謝フラックス予測技術を用いた情報科学を展開し、代謝物の新機能発見に迫ることを目的とする。まず、内在性オンコメタボライト様代謝物として同定したアシルドーパミンの合成酵素遺伝子候補としてリン脂質アシル基転移酵素PLAATを同定し、リコンビナントタンパク質がドーパミンに対してアシル基転移酵素活性を有することを見出した。さらに、酵素活性欠失変異体を用いた解析により、ドーパミンのアシル化はPLAATのアシル基転移酵素活性により引き起こされることを確認している。転写因子TEADのリジン残基が長鎖アシル化されることを見いだしたが、興味深いことに、TEADの分子内には長鎖アシル化されるシステイン残基があり、構造情報からこのシステイン残基は標的リジン残基にごく近傍に存在していた。変異体解析により、リジンの長鎖アシル基は、このシステイン残基から非酵素的に転移されることが判明した。ペンタデカン酸の作用機序としては、リン脂質に取り込まれて小胞体膜などに異常が起こると考えられる。遺伝学的解析から、特定のアシルCoAリガーゼおよびアシル転移酵素がその代謝に関与していることが示唆された。適応生育試験から分裂酵母の細胞間コミュニケーション分子が複数存在することを示唆する結果が得られ、その一部は分子として同定した。このように、当初の計画通り、おおむね順調に進展し、一部については想定外の発見も生まれている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 内在性代謝物ライブラリーや天然化合物ライブラリーを用いた新機能代謝物と代謝変換化合物の探索、 (2) 脂質代謝による細胞内応答、(3) 代謝物を介した細胞間コミュニケーション、 (4) 代謝フラックス予測技術を用いた情報科学の各研究項目について、それぞれ今後の展開が期待される結果が得られているので、大きな成果が得られるよう綿密な実験計画を立てて進めていきたい。また、代謝変換を誘導する内在性代謝物、微生物二次代謝産物などをさらに探索し、その作用機序の解明を進める。特に脂質関連物質とポリアミン関連物質に興味深い生理活性が多く見られることからそれらの役割や作用機序の解明を進める。代謝シミュレーションに関しては、ヒト細胞、出芽酵母、分裂酵母において、ゲノムスケールレベルの代謝モデルを準備し、培地条件など環境変化をインプットデータとした場合の代謝フラックスバランス解析(FBA)を実行したが、シミュレーションが上手く完了する場合と計算が実行できない場合が生じた。特に、ヒトの代謝モデルを用いて実際の実験における培地条件を入力値とした場合に、計算が進まない結果となった。今後は、この原因を解析するとともに、トランスクリプトームやメタボロームデータを導入することにより、高精度化に向けた代謝予測技術を確立するための基盤を構築する予定である。
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