研究課題/領域番号 |
23K00002
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
佐藤 駿 岩手大学, 教育学部, 准教授 (20646418)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 隠喩 / メタファー / 現象学 / フッサール / 関連性理論 / イメージ / 想像力 / 経験の理論 |
研究開始時の研究の概要 |
隠喩(メタファー)という言語的・概念的現象に対して前世紀から注がれてきた学問的関心は,それが言葉の単なる表面上の工夫や特殊な言語技術などではなく,私たちの概念・思考・認識そのものに本質的に関わる現象であるということを示唆してきた。本研究は,このような隠喩理解を共有しつつ,フッサール現象学の立場から現象学的な隠喩の理論を整備し,隠喩と体験との関係を明らかにするための一つのアプローチを構築する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は,隠喩(メタファー)という言語的・概念的な現象に対して,フッサール現象学の概念的資源を用いた現象学的理論を構築・整備することにある。今年度は,当初の計画に従って,(a)すでに公表されている基本的な構想を再検討するとともに,(b)関連する先行研究の調査と検討を進めた。 まず(b)についてであるが,研究開始時の予想では,隠喩の現象学的な理論は,いわゆる「字義的な意味」と「隠喩的な意味」の二分法を原理的な区別としては放棄するものになるという公算があった。そこで,当初からこの論点にとって手がかりとなると考えていた二つの見解,D. デイヴィドソンの隠喩論と関連性理論における隠喩の扱いとを重点的に検討し,相応の理解と知識を得た。 (a)については,もともと意味作用・思考作用・知的な作用を扱ったフッサールのテキストの読解に基づいてこれを行う計画であった。ところが,前段に述べた既存理論の検討過程で,想像力と像意識を主題とするフッサールの考察が本研究の目的にとって重要な意味を持つ可能性に思いいたり,関連テキストを検討の対象に加えた。これによって,隠喩の現象学的理論を想像力と像意識という観点から拡充する見通しが得られた。 こうした一連の作業の成果を,隠喩的な発話の内容に関する考察として,一篇の論文にまとめた。隠喩的な発話の内容を「アドホック概念」の構築という観点から説明しようとする関連性理論の立場には本研究の構想する理論と親和性があること,しかし同時に,デイヴィドソン(ら)の指摘する隠喩とイメージとの結びつきもまた,隠喩の現象学にとって重大な論点となること,そして像意識に関するフッサールの考察がこの点で極めて重要な意義を持ちうることを確認し,今後の研究の進路をより具体的にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度にあたる今年度の研究は,上記「研究実績の概要」にも記したように,研究開始時にすでに公表してあった構想の再検討,および当該構想に関連する既存の隠喩理論の精査を中心に進められた。 後者については,関連性理論における「アドホック概念」による隠喩理解について的確な理解と知識を得ることはもともと課題の一つであり,これが本研究の構想する理論,とりわけ隠喩的な意味志向という概念に応用可能であるという見込みが得られた。また,デイヴィドソンの隠喩理論を検討する過程で,隠喩理解におけるイメージ,想像的視覚が持つ役割について気づかされたことは,本研究課題にとって大きな意義を持つ。隠喩の現象学を考えるうえで中心的なアイディアとなるのは,隠喩的な意味志向の充実化(直観化)がどのようなものとなるかを理解する点にあるが,知覚的に見出しているものとは異なったものを想像的に意識するという体験,一種の錯覚にも似た経験がそこに絡んでいることが示唆されたからである。 結果として,想像と像意識を扱ったフッサールのテキストが研究の対象としてそれなりの比重を占めることになった。これは当初の計画で想定していたことではなかったが,研究課題の全体に即して見れば,現象学と現象学外の研究とを結びつける新たな論点が見出されたこと,それによって考察と検討の内容を深める視点を得られたこと,結果として今後の研究方向がいっそう具体的に浮かび上がってきたことから,進捗状況については「おおむね順調に進展している」と評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
隠喩的な発話に伴う意味作用の充実化として働くのは,想像力を媒介とした「錯覚にも似た経験」である。本年度の研究を通じてそのような着想が得られた。狭義の錯覚的経験に関する現象学的分析についてはかつて主題的に扱ったことがあるのでその成果を応用できるが,本研究において問題となるべき「錯覚にも似た経験」は,普通の意味での錯覚と同じではない。現在,この経験を想像的意識ないし像意識の観点から限定し,的確に特徴づけるという課題が生じている。 そこで次年度は,想像と像意識を扱ったフッサールのテキストを精査,隠喩理論のための概念的資源として利用できるものとする作業を進めたい。現象学的な隠喩の理論を経験の理論と統合するという当初の課題はここに接続される見通しであるが,その接続の仕方はまだ十分に明らかではないので,特にその点を意識しながら読解と分析を行うつもりである。 なお,当該テキストについて現時点であるていど内容の理解は得られているので,関連する分野(とりわけ芸術哲学・美学分野)で行われている議論も参照し,外的観点から評価・検討する視点も確保しておきたい。それはまた,間接的にではあるが,現象学的な理論を隠喩研究の全体のなかに適切に位置づけるという,本研究のもうひとつの課題を部分的に遂行するものともなるだろう。
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