研究課題/領域番号 |
23K00010
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
笠木 雅史 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (60713576)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 実験哲学 / 主張の規範 / ムーア・パラドクス / 認識論 / 分析哲学 / 哲学 / 言語分析 / 認識的規範 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、「思う」、「知る」などの心理動詞や関連する表現の日本語に固有の特徴に基づいて、日本語における信念・主張の認識的規範の内容を分析し、英語における信念・主張の認識的規範との比較を行う。具体的には、どのような認識的規範が日本語話者の言語的直観によって支持されるのかを、実験哲学的手法による質問紙調査によって実証的に検証する点にある。さらに、この研究を通じて、認識的規範が、信念・主張のどのような機能から生じているのかについても分析する。
|
研究実績の概要 |
2023年度は、海外学会での招待講演として、以下の2つの発表を行った。
(2022) Moore's Paradox and Norms of Belief and Assertion in Japanese. Veritas Epistemology Workshop (Yonsei University), Jul 7. (2023) Assertion and Moore's Paradox across Languages. The Fifth Taiwan Philosophical Logic Colloquium (National Taiwan University), Dec 9.
前者では、日本語における「思う」、「思っている」という動詞の機能について以下のように整理した。(a)話し手の意見を述べる、(b)話し手の心的状態を報告する、(c)話し手が予測や推測をしていることを示す、(d) 聞き手の意見に真っ向から反対することを避ける、(e) 話し手が聞き手に提案や意見を伝えているという事実を強調する。この整理により、いくつかのムーア・パラドクスやそれに類似する現象を日本語で引き起こすためには、(a)の機能を強調しなければならないと論じた。後者では、(1)日本語には証拠性標識という情報源と情報の確実性を同時に示す表現が存在し、伝聞証拠性標識などは情報そのものへの信念を表出しないという点と、(2)日本語における文末助詞には、「かな」のようにそれ自体として「思っていない」という心的状態を示すことのできるものが存在するという点を指摘した。これらの点は、ムーア・パラドクスに従来の定義とは異なる定義を与えなければいけないことを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本科研の申込以後、2023年度より本務校を異動したが、もとの本務校も兼任という形で一部の授業を担当した。このため、新しい本務校への順応と環境整備をしつつ、二校分の業務を行うことになり、本研究の進捗に遅れが生じた。具体的には、2023年度に理論的研究を行ったうえで、次年度の実験のためのパイロット実験を行うことを予定していたが、この事情によりパイロット実験まで進むことができなかった。しかし、実験を行うための基礎となる理論的研究については予定通り遂行し、いくつか新しい知見をえることができた。この理論的知見を実験で検証可能にするためには、実験設計上いくつかの工夫が必要となる。この工夫には2024年度に着手し、夏ごろにパイロット実験を行い、秋には本実験(1回目)を行うことを予定している。2024年度からは現本務校の業務のみとなり、昨年度の問題点は解消されるため、速やかに研究を行うことができるはずである。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、ムーア・パラドクスをひきおこすような文を日本語で作成しようとする場合、(a)心的動詞の形、(b)補文標識、(c)証拠性標識、(d)文末助詞を統制しなければならないということが明らかになった。これら4つの要因を統制した文をパターンを作成し、それらを含む主張ががムーア・パラドクスのような不条理性を引き起こすかどうかを、実験によって検討する。これにより、日本語における主張の規範がどのようなものかを、ある程度明らかにすることができるはずである。主張の規範についての英語圏の実験では、弁明可能性などについても統制しなければ、正確な実験が可能ではないことが指摘されている。このため、この点についても統制した実験を行う予定である。
実験計画は本年度夏までには精緻化し、パイロット実験を経て、秋には一度目の本実験を実施する。
これまでの理論的研究で明らかにした点として、(1)主張という言語行為は平叙文を用いてなされるが、主張という言語行為の成立に必要な平叙文の形式にはより限定が必要である、(b)ムーア・パラドクスを引き起こすためには、心的動詞の使用は必ずしも必要ではなく、話者が「思っていない」という心的状態にあることを表す文末助詞を用いることができる、という二点がある。(1)の点は、主張という言語行為がそもそもどのような行為なのかを再検討する必要性を喚起する。(2)の点は、文末助詞の機能をより精緻化することで、ムーア・パラドクスという現象をより拡張した形で理解する方針を示唆する。今後は、これらの点についてより理論的な研究を行う。
|