研究課題/領域番号 |
23K00028
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
篠原 成彦 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (60295459)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 物心二元論 / 相互作用説 / エネルギー保存則 |
研究開始時の研究の概要 |
現在、心の哲学に従事する哲学者の多くは、クオリアを物理的事象に還元されるか、さもなくば存在者のリストから除外されるべきものと見ている。このことの背景には、相互作用説の見込みを無いも同然とする彼らの見積もりがある。そして、この見積もりは、相互作用説はエネルギー保存則に抵触するという見方に依拠するところが大きい。ところが近年、この見方に対する疑義が盛んに申し立てられるようになってきた。本研究は、こうした疑義の検討を通じて、相互作用説にどれだけの見込みがあるかを、改めて見積もろうとするものである。
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研究実績の概要 |
本研究の狙いは、以下の①②に答えを与えることである。① 相互作用的物心二元論──以降では相互作用説と略──はエネルギー保存則に抵触するという結論を導く論証は、はたして妥当か。② 現代の科学的知見に照らして、相互作用説は有望といえるのか。 2023年度は、まず論文「相互作用説とエネルギー保存則」(『中部哲学会年報』53、2023年5月10日)において、相互作用説とエネルギー保存則は端的に相容れないとする伝統的とも言えるD.デネットらの議論と、非物理的な心がエネルギーを有する可能性に訴えることでこれらの両立可能性を主張するB.モンテロやB.ホワイトによる議論(「心のエネルギー仮説」と命名)、および、もともとエネルギー保存則にはデネットらの理解に反して局所的な破れを許容する余地があり、非物理的な心がエネルギー保存則の局所的な破れを引きおこすという仮定のもとではこれらは両立すると主張するB.ピッツの議論(「小規模な神仮説」と命名)の検討を行った。そして、心のエネルギー仮説は概念的な整合性からして疑わしいものであるのに対して、小規模な神仮説は夢想的ではあるものの破綻は見うけられないとの結論に至っている。これは結局、小規模な神仮説に一定の可能性(有望さではない)を認めることをもって、上記①に対する否定的な回答を与えたということにほかならない。 しかしながら、この論文ではまた、エネルギー保存則の破れを容易に認めない姿勢がニュートリノの発見を導いたことを念頭に、①への否定的な回答は②への否定的回答に直結しないという見込みを述べている。そして、この見込みの妥当性を見積もるべく、本研究は、2023年度後半から、保存量としてのエネルギーという概念が物理学および科学思想において歴史的に占めてきた位置を探っていく段階に進んだ。こうした進め方は、当初の研究計画において予定していたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究は、計画書において、2023年度中に、相互作用説のエネルギー保存則への抵触に関してなされた肯定派と否定派の議論を、エネルギー保存則そのもの以外にどのような前提を用いているか――たとえば、エネルギー保存則が破れる可能性を前提している、あるいは逆にこれを議論の前提とはしない、など――という観点から分類・整理することを予定していた。これに対して実際には、そうした分類・整理に加えて、2024年度に予定していたそれらに対する評価に着手するところまで進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、保存量としてのエネルギーという概念が物理学史・科学思想史の中でどのように確立され位置づけられてきたかということに照らし合わせながら、2023年度に整理した諸々の議論の適切性を、改めて物理学への適合と現実味という観点から評価する。とりわけ、先述の心のエネルギー仮説には、エネルギーの在処を物理的領域に限るという前提を物理学そのものは含まないという指摘が見られ、小規模な神仮説にはエネルギー保存則そのものは局所的な破れを排除するような前提を伴わないという指摘が見られるが、そうであるとしても、物理学的探究の現場においてこの前提を外すことにどれだけの現実味があるかを問う必要がある。 最終年度となる2025年度は、前年度までの検討の結果を集成し、先述の②に対する包括的な答えをまとめあげる。この作業を行う中で、①への答えを再考する必要が生じることもありうる。しかし、2025年度内には、①②双方に対する答えとして、研究者たちの真摯な検討に値する水準に達したものを提起したい。
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