研究課題/領域番号 |
23K00040
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
長坂 真澄 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (40792403)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 存在の一義性 / 第一原因 / 無からの創造 / 思考以前の存在 / 存在神学 / 原因性 / 技術 / 不動の動者 / 神の存在証明 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、独仏語圏の現象学における形而上学的転回を、西洋哲学史の一つの帰結かつ革新として提示するものである。P・オーバンクを発端とする古代中世哲学研究において、シェリングやハイデガーの哲学史観を方法論上の指標とした形而上学の分類がなされた。現象学者L・テンゲリは、この哲学史研究を背景に、古代中世近代哲学からの連続性において現象学を捉える。本研究は、テンゲリの研究を参照軸とした上で、独自に三つの軸をとり、哲学史における現象学の位置づけを行う。すなわち、アリストテレスから、1) マイモニデスを経てレヴィナスへ、2) ハイデガーを経てデリダへ、3) シェリングを経てリシールへと至る三つの軸である。
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研究実績の概要 |
本研究は、以下の三つの軸に沿って、現代の独仏現象学における形而上学的転回を、存在神学的ではない形而上学を語るものとして究明しようとするものである。すなわち、アリストテレスからマイモニデスを経てレヴィナスへいたる第一の軸、アリストテレスからハイデガーを経てデリダへいたる第二の軸、アリストテレスからシェリングを経てリシールへいたる第三の軸である。今年度は、これらの三つの軸に関連して、主に以下の研究成果が得られた。 第一の軸に関して:アリストテレス哲学を存在神学の端緒に位置づけるレヴィナスに対し、同じアリストテレス哲学を非‐存在神学的な形而上学として捉えるブルノワの議論を整理することにより、彼らの共通点を見いだすことができたほか、ブルノワが記述する中世の形而上学の変遷の過程を明確化することができた。 第二の軸に関して:中世の哲学がアリストテレス哲学を歪曲したとするハイデガーの主張に関して、デリダが着目する「作用因」の概念を中心に吟味するにあたり、イブン・スィーナーのアリストテレス『形而上学』注釈や、ツィマーマン、ブルノワによるトマス・アクィナス、スコトゥス研究を参考にした。これらの典拠から、存在神学の成り立ちが、存在の一義性や、無からの創造の問題系と緊密に結びついていることが明らかとなった。 第三の軸に関して:リシールのシェリング読解から、シェリング独自の弁証法を吟味した。この弁証法は、「思考以前の存在」すなわち「ただ偶然的、盲目的に必然的な存在」を宙づりにし、それを「自らの自然本性に従って必然的な存在」として復元することへと進む。本研究では、リシールが、この宙づりと復元からなる「点滅」のうちに「間隙」を見て取ること、また、これにもとづき、シェリングの形而上学を存在神学ではないものと位置づけることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(2023年度)は、本研究に関する海外の研究者との意見交換や学術交流において大きな進展があった。とりわけ海外から複数の研究者が日本を訪れ、彼らと議論する機会を得たほか、本研究代表者自らも海外(セルビア、ベオグラード)の国際学会(Deleuze and Guattari Studies Conference)に参加し、ドゥルーズの『差異と反復』におけるドゥンス・スコトゥス論についての研究発表をすることができた。これは今後、本研究課題の第二の軸(デリダ)へとつながるものである。 また本研究の遂行において以下の進展があった。テンゲリの『世界と無限』においては、13世紀のシジェ・ド・ブラバンが、存在神学への転回に大きな役割を果たしたとされているが、その転回が、古代から中世、近代の哲学を経て現象学へといたる哲学史の中で、いかなる役割を果たしているのか、これまでの研究ではいまだ明瞭ではなかった。本年度は、テンゲリの叙述の背景にあるブルノワやツィマーマンの中世哲学解釈を経由して、シジェのテクストにあたることにより、アリストテレス『形而上学』における存在者の原因をめぐる議論のシジェによる解釈において、スコトゥスの語る存在の一義性を含意する問題提起がなされていることが明らかとなった。 その他、本研究課題の前身である研究課題「想像力と無限――フランス現代思想におけるカント哲学の現象学的再構築」から引き継いで遂行された研究の成果も発表できた。本研究の第一の軸(レヴィナス)に関しては、レヴィナスのマイモニデスを経由するアリストテレス理解についての論文を、第二の軸(デリダ)に関しては、ハイデガーのアリストテレス読解に対して投げかけられたデリダの問いに答える論考を出版することができた。第三の軸(リシール)に関しては、リシールのシェリング論を論文にまとめ、学会誌に投稿することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、第一、第二、第三の軸は、いずれも中世における形而上学の変遷に深く関わるものであることが明らかとなった。この点に着目することにより、それぞれの軸の解明が、他の軸の解明に役立つという相乗効果が得られた。次年度(2024年度)の研究においては、ブルノワを中心に近年のフランスにおけるスコトゥス研究に着目することにより、それぞれの軸のさらなる解明へと接続したい。具体的には以下の研究の見通しを立てている。 第一の軸:マイモニデスを評価するレヴィナスのアリストテレス批判を、現代のアリストテレス研究と突き合わせるにあたり、マイモニデスのアリストテレス批判において中心的役割をなす「無からの創造」の概念が、中世の他の哲学者の類似概念との関係においてどのような位置を占めるのかを明確にする。 第二の軸:デリダがレヴィナス論「暴力と形而上学」において、ハイデガーとレヴィナスの調停を試みる文脈で提示する、トマス・アクィナスとスコトゥスを調停するジルソンの議論を、ブルノワの解釈と突き合わせつつ吟味検討する。具体的には、①「存在」という語の適用範囲の問題、②「神」と「存在」という二つの無規定的なものの混同の問題が、いかに存在の一義性を要請したかを明らかにする。 第三の軸:リシールのシェリング受容を、本年度に引き続き、彼の『啓示の哲学』、『神話の哲学』読解から明らかにする。とりわけ、シェリングの語る〈存在〉と〈存在可能〉との間にあるとリシールが語る、〈いまだ存在者ではないもの〉についての現象学の可能性を探究する。
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