研究課題/領域番号 |
23K00054
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
八尾 史 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (30624788)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2026年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 根本説一切有部律 / ウッタラグランタ / サンスクリット語写本 / 律蔵 / 説一切有部 / 部派 / 写本 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はインド仏教の僧院規則文献「根本説一切有部律」の「ウッタラグランタ」と呼ばれる部分を対象とし、その内容をチベット語訳の翻訳、サンスクリット語写本断片の解読、他文献との比較を通して解明しようとするものである。「ウッタラグランタ」の理解は大乗仏教をも含めたインド仏教史上に重要な位置を占める「根本説一切有部律」の正確な理解につながることから、本研究は広くインド仏教研究一般のためにさらなる進展の足場を築くこととなる。
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研究実績の概要 |
本研究は、インド仏教の僧院規則文献の一つであり現在諸方面から研究が進みつつある「根本説一切有部律」を対象として、その中の「ウッタラグランタ」と呼ばれる部分の内容を解明しようとするものである。初年度である本年度はノルウェーおよび米国の個人蔵となっているサンスクリット語写本断片群(「薬事・ウッタラグランタ写本」)の解読と、チベット語訳との対応関係の比定を進め、この過程でチベット語訳の背後にあるサンスクリット原語が多くあきらかになった。 また本年度は「薬事・ウッタラグランタ写本」の解読によって明らかになった「根本説一切有部律」とサンスクリット語説話集『喩鬘論』の平行関係について、東京で開かれた国際シンポジウムにおいて発表をおこない、当該発表内容を英語論文として執筆した。「根本説一切有部律」と「喩鬘論」という二つのテクストの間に密接な関係があることは従来の研究で早くから指摘されていたが、両文献がともにサンスクリット語写本としては十全な形で現存しないため、その比較はチベット語訳や漢訳に依拠したものにとどまっていた。本研究において、「薬事・ウッタラグランタ写本」の断片と「喩鬘論」写本断片の比較によって、両者の韻文部分に初めて逐語的な一致が確認された。この発見は、いまだ不明な点の多い「根本説一切有部律」の成立史にあらたな光を投ずるものである。上記論文は論文集の一部として出版される予定である。 また、律文献の研究成果を広く専門外の読者にも開かれたものとするため、上記の発見を含めて「根本説一切有部律」写本研究を紹介する文章を日本語で執筆した。 さらに、「薬事・ウッタラグランタ写本」の前半「薬事」部分のエディションと図版をモノグラフとしてまとめた。これは近く出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は「薬事・ウッタラグランタ」写本断片の解読を進めることによって、同文献の理解を深めることができた。特に「ウッタラグランタ」のチベット語訳は「根本説一切有部律」の他の箇所と大きく異なり、しばしば原語を推定することが難しいため、チベット語訳の多くの単語についてサンスクリット語との対応をあきらかにしえたことは今後の読解作業に資するところ大と考えられる。 さらに、同写本の解読により「根本説一切有部律」と説話集『喩鬘論』との平行偈という発見を得て、これを国内外に向けて発表することができた。これは両文献のいずれが他方の文面を借用したのかという問題を提起するものであり、聖典とされる根本説一切有部律の成立過程を解明する上で重要な手がかりとなりうるものである。この発見により「根本説一切有部律」の他の箇所においても『喩鬘論』との関係を検討する必要が生じており、この点はひきつづき解明を進めたい。 その他、ノルウェー、スウェーデン、京都の研究協力者との週1回のオンライン会議による写本読み合わせも滞りなく進んでいる。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、ひきつづき研究協力者との緊密な連携のもと、チベット語訳からの翻訳とサンスクリット語写本の解読を進めることとする。それとともに、「根本説一切有部律」全体と『喩鬘論』の関係についての情報整理と考察を進める。さらに、研究協力者と連名で応募していた2025年の国際学会パネル発表が選考を通過したため、同パネルにおいて「薬事・ウッタラグランタ写本」研究の現在について報告する発表の準備も平行して進める。
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