研究課題/領域番号 |
23K00085
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村松 正隆 北海道大学, 文学研究院, 教授 (70348168)
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研究分担者 |
上杉 誠 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (30838363)
杉山 直樹 学習院大学, 文学部, 教授 (50274189)
鋳物 美佳 明星大学, 教育学部, 准教授 (50912052)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | パリ学派 / スピリチュアリスム / メーヌ・ド・ビラン / スタンダール / カバニス / ミシェル・フーコー |
研究開始時の研究の概要 |
18世紀末から19世紀前半にかけてのフランスにおいて、哲学や文学は、激動する政治状況のみならず、諸科学、とりわけ医学や生理学の進展からも大きな影響を受けた。フランス啓蒙期の「人間」や「科学」を巡る諸理念が社会的な影響力を増す中で、哲学や文学は、医学や生命科学が提出する人間像や生命観に一段と注意を払うこととなったのである。 本研究は、この時期の医学的人間理解と、哲学や文学に基づく「人文学的な」人間理解との相互交渉を見ることで、当時の思想のダイナミズムを解き明かすと同時に、現代のわれわれの自己理解を相対化するための新たな視角を提出することを目指す。
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研究実績の概要 |
鋳物・上杉・村松のチームは、カバニスの主著『心身関係論』の翻訳を行う他、さらに医事行政(police medicale)、並びに医学教育改革係る議会演説の草稿の翻訳を行った。後者の作業によって、カバニス、並びに周辺の医学者たちが、医学に託した役割(特に、医こと行政を通じた国民生活の様々な「改善」と、そのために必要であると考えた医学教育の改革案、並びにその背景的事情を明らかにした。また、前者『心身関係論』の翻訳を通じて、カバニスがその強固な心身関係の主張を基盤として、医学を最も重要な人間学として位置付けるプロセスと論理を明らかにした。 杉山は、19世紀中期のカトリック医学(パリ学派に対抗するものであろう)の位置づけを研究し、特にテシエ(Jean Paul Tessier)に注目しながら、カトリック医学が「魂」をどのように位置づけていたか、また、この認識論的構図を背景に、医学の営みをいかに規定したかを明らかにした。 なお、鋳物は、2023年に公刊された、メーヌ・ド・ビランに関する国際的・学際的な論集、Towrds a NeW Anthropology of the Embodied Mind (Brill, 2023)において、Voluntary Movement as Reflection or Creation : Maine de Biran, Felix Ravaisson, and Nishida Kitaro (pp. 280-293)を発表し、モンペリエ学派やパリ学派の影響を受けつつ独自の哲学を構築したメーヌ・ド・ビランの思想が、ラヴェッソンや西田幾多郎にいかに受け継がれたかを明らかにした。また、杉山は論文集『精神の場所』(青土社、2024年)を公刊し、19世紀フランス哲学におけるスピリチュアリスムの動向とこれを取り巻く状況について、適切な像を提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カバニスの翻訳については、やや遅れが見られるが、古典的著作であることに鑑みると、やむを得ないところがあると考えられる。また、革命期のカバニスの議会演説の草稿を翻訳することとしたことで、従来手薄であった、革命期の医学改革を巡る研究が進むことが期待される。これは、フーコーの『臨床医学の誕生』に結実する医学史研究に関しての実証的資料を提出するものでもある。 また、18世紀~19世紀における医学史研究の重要な二次的参照文献(代表的なものとして、Williams, Elizabeth A., The Physical and the Moral : Anthropology, Physiology, and Philosophical Medicine in France, 1750-1850, Cambridge University Press, 1994)が挙げられるの読解も進んでいる。 また、3月13日(金)にZoomにて参加者全員が、Zoomを利用し、研究成果を発表した。鋳物が「Cabanisにおけるimpression概念の諸相」、上杉が「「文学から見たカバニス」のための準備」、杉山が「ある異端的カトリック医学者についてのメモ─テシエ(Jean Paul Tessier, 1811 186 22)とその周辺から」、村松が「王政復古期の医学的人間学」と題して研究発表を行い、研究成果の共有を図っており、ほぼ順調に研究が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
カバニスについては引き続き、翻訳作業を進めると共に、邦訳書に付す解説執筆の作業を進める。これによって、これまで明らかにされてこなかったカバニスの医学的人間学の内実とこれを支える論理を明らかにする予定である。また、カバニス、並びにその医学哲学を支えた、いわゆる「パリ学派」の歴史的位置づけを見極めるために、モンペリエ学派との対抗関係や、フランス革命期の医学を取り巻く社会的状況、並びに医学と周辺諸科学の関係を明らかにしていく。 また、カバニスの文学に対する影響は、引き続き上杉が中心となって明らかにしていく予定である。 なお、2024年6月29日には、ブリヤ=サヴァランを巡る研究で博士号(お茶の水女子大学)を取得した浦上祐子氏を招へいし、18世紀~19世の医学や生理学がブリヤ=サヴァランの思想構築に与えた影響について、レクチャーいただく予定である。この講演を通じ、日本でもその名が知られているブリヤ=サヴァランについても、革命期の医学的人間学が深い関りを持つことを、明らかにしていただければと考えている。
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