研究課題/領域番号 |
23K00119
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
丹羽 幸江 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 客員研究員 (60466969)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 中世芸能 / 能楽 / 金春禅竹自筆譜 / 楽譜の記譜法 / 語り物音楽の楽譜 / 仏教声明 |
研究開始時の研究の概要 |
金春禅竹は15世紀に能楽史上初めての本格的な楽譜として、旋律のある部分に胡麻という音符をもれなく書き記した譜面をはじめて残し、謡の記譜法の基礎を築いた。本研究は禅竹自筆譜が、仏教声明の講式や廃絶した早歌などの先行芸能の楽譜との関わりのなかで、謡としての独自の記譜法を獲得する様相を明らかにし、中世芸能のなかで位置づけを試みる。 謡では歌詞の音節数や発音を正確に記すための胡麻という音符によって音楽を記す。これは講式や早歌、そして義太夫節といった語り物音楽に共通する記譜法である。これまで語り物音楽の記譜法についてはほとんど注目されることがなかったため、語り物音楽特有の楽譜の機能について考察する。
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研究実績の概要 |
語り物音楽の楽譜をどう捉え、説明したらよいのか、この問いが本研究の出発点である。語り物の楽譜は多くの場合、リズム面、音高面ともに音楽を正確に写し取るも機能が弱いことが多く、精緻な歌い物音楽の楽譜に比べ、口頭伝承の補助とみなされることが多かった。しかし、仏教声明の講式や義太夫節を含め、音節を明示する機能をもつなど独自のあり方をしている独特の楽譜であることは間違いない。本研究では能の謡(声楽)を取りあげ、14世紀の金春禅竹自筆譜の解読を行い、その音楽的な記譜の構想を明らかにする。謡の記譜法は大成者である世阿弥の女婿にあたる金春禅竹において完成し、旋律のある箇所にはすべて胡麻という音符の一種を付記するという、現在の謡本のスタイルの原型が整ったため、その当初の記譜法に遡って考察する。 初年度には、まず金春禅竹の自筆譜のうち、五声(日本の階名)の注記を持つ部分を取りあげ、胡麻(基礎となる音符)の基本的機能を明らかにした。胡麻は、たとえば「実に」が「げに」と読むのか「じつに」と読むのか、音節数を示すとともに、胡麻の向き(上向き・平ら・下向き)によって相対的な音の上げ下げを示すのが、現在のあり方である。しかし金春禅竹の自筆譜では、禅竹自筆譜では右斜め上向きの上げ胡麻が中心音に対応しているというように、基本となる胡麻の使用方法が現在と異なることがわかった。このため上歌という音楽的段落の部分に「宮」「羽」といった開始音を示す五声(階名)が記されることが多いことに着目し、音の動きとの対応関係を調べた。この結果、上中音域と中下音域において、それぞれ五声と対応した固定的な役割が胡麻に与えられていることが明らかになった。このような使用方法は、声明の五音博士という墨譜(謡での胡麻と等しい)の向きが五声の宮商角徴羽を指示するという用法と等しい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金春禅竹の記譜法を明らかにすることを通じて、謡の記譜法の特徴をわかりやすい形で提示するのが本研究の目的である。本研究の当初の研究計画では、金春禅竹が、岳父でもある世阿弥から記譜法を学び、世阿弥自筆譜の記譜法をより精緻にした記譜法を完成したという予測のもと、研究をスタートした。ところが初年度の研究を通じて、1、禅竹の自筆譜は、記譜法の基本的な面に至るほど仏教声明、講式の影響が大きいこと。2、世阿弥の属する上掛かりの芸系の記譜法とは根本的な楽譜の構想やその後の発達過程が異なる可能性がある。という2点が明らかになり、当初の予想を逸れる結果となった。つまり禅竹以降の下掛かりの芸系の金春流謡本は、金春禅竹を源流とする独自の原理のもと発達し、それは仏教声明の講式などの影響をよりダイレクトに受けていることが予測されるようになったのである。 禅竹自筆譜の五声と胡麻の向きの固定的関係からは、仏教声明からの影響が従来考えられてきたよりも強いことが予測されるようになった結果を踏まえ、一旦、室町末期まで時代を下って、豊富な五声の注記を持つ金春流謡本『下間少進手沢車屋謡本』を調査・分析し、仏教声明の講式の影響を探った。講式での音域概念、初重・二重と重なる2種類の五声との対応関係があることを指摘した。室町末期の謡の謡伝書(解説書)『塵芥抄』に記述のある2種類の五声の対応関係が見られることを明らかにした。従来知られてきた主音である宮を上音とする五声と謡の音名の対応関係のほかに、副主音である徴を上音に対応させる関係が存在することを指摘した。このことは、仏教声明の講式の初重と二重という二つの音域が謡にも明確に摂取されていたことを示す。つまり金春禅竹以降、室町末期にいたる迄、一貫した声明の影響下にある記譜法を採り続けたということになる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究を通じ金春禅竹の記譜法では以下の点があらたに問題となってきた。1、吟という謡の2種類ある演劇的歌唱法が金春禅竹の時代にもありえたのではないか、それは記譜法にどのように反映されているのか。2、禅竹自筆譜に記されている五声は、声明理論の五音博士を前提としており、上掛かりのように直しという胡麻に付ける音名などの注記を当初から不要としてきたと考えてよいのか。これらの疑問点を踏まえ、研究計画を一部で修正する必要性が出てきた。 まず1の吟の存在の可能性であるが、室町末期において曲趣の違いによって、声明の講式での音域である初重・二重を使い分けていたことが明らかになった。これは現在のツヨ吟・ヨワ吟の前身であると考えられるが、現在の吟が発声法と音階の違いに基づくのに対して、講式のように音域の高低を使い分けていたことを示す。こうした音域の違い禅竹の自筆譜でも見られるのかどうか、胡麻の向きをもとに探さなくてはならない。 2の声明理論の摂取に関しては、金春流謡本の記譜法の歴史を広く参照する必要が生じる。世阿弥の系統である上掛かりでは、江戸時代までは胡麻の向きによって相対的な音の上げ下げを指示していた。しかし禅竹の譜では、階名、五声と胡麻の一対一の対応関係が存在した可能性があり、芸系により用いる記譜法に著しい違いがあることが予測されるようになったためである。しかし下掛かりの芸系の謡本の記譜法はこれまでほとんど研究されることがなかったため、下掛かりの芸系特有の発達過程をみていかなくてはならない。 語り物の楽譜全般を見渡せば、五音博士系統の音高と胡麻の明確な対応関係があるものと、相対的・感覚的な上げ下げを胡麻の向きで記すものに2分されることがわかっているものの、その理由は明確ではなかった。禅竹の記譜法の解明により、このようなより根本的な問題に迫ることができる可能性が出てきたと考える。
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