研究課題/領域番号 |
23K00145
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
前田 富士男 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (90118836)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 造形芸術概念の成立 / ゲーテの建築論 / カント「判断力批判」 / 発生学 / オーダー概念 / クオリア / アドルノ / 品質問題 / 美術学 / 個別芸術学 / ゲーテ自然科学 / シュマルゾー |
研究開始時の研究の概要 |
現代では、芸術作品の領域が多動化し、領域横断性が重視され、一般に「専門分野(discipline)」性をむしろ消極的にしか把握しない傾向が著しい。とくに我が国では伝統的に、専門性や規範性よりも領域横断性が無批判に肯定されてきた。 美術学はまた、「物質本位制(Materialgerechtigkeit)」を作品概念の中核におく領域である。それは、言語や音楽のような「記号的」システムではない。本研究は、美術学の特性をあらためて開示し、学術の分野が分野ゆえに切り開きうる創発性や中動性にも着目し、個別芸術学として空白領域となっている「美術学」の現代的意義をあらためて確立する斬新な試みにほかならない。
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研究実績の概要 |
本研究は、芸術史研究・芸術学において、音楽史/音楽学・文学史/文芸学・舞踊史/舞踊学などの個別芸術学が成立しているにもかかわらず、美術史領域で個別芸術学「美術学」が未だ成立していない基本課題に取り組むものである。ドイツでは芸術学(Kunstwissenchaft)一般研究が基本的に美術学(Kunstwissenschaft)を包摂しているものの、個別芸術学と呼びうる水準に達していない。 本年度はまずこの課題に取り組み、ヨーロッパにおけるいわゆる美術(fine arts)概念を検証しつつ、ドイツ18世紀後半における「造形芸術(bildende Kunst)」概念の成立を究明した。この概念は、レッシングの「ラオコオン論」に端緒を持つとしても、最重要な契機は、ゲーテによるゴシック建築論(1780-)、またカントの『判断力批判』(1780)における「美」の否定と「造形(建築・彫塑)」概念の提示にある。この研究成果は2023年12月の形の文化会第77回フォーラムにて「造形芸術は無力か有力か──芸術の品質とオーダー概念」と題する口頭発表・質疑を行った。この内容は、アドルノ研究を付加した論文として同学会『形の文化研究2023』に投稿し、目下印刷中。この過程で、忘失されているオーダー概念を検討し、2023年6月に慶應義塾大学大学院SDM研究科で「オーダーズ・エンジニアリング」に関する特別講演を行った。 また2024年2月に「造形芸術概念のリノベーション」と題する研究会を慶應義塾大学三田キャンパスにて開催した。申請者の「造形芸術概念を『判断力批判』に読む」の発表と画家・映像作家地場賢太郎氏招聘による「映像作品における時空間のうごき」の講演と討議を実施した。これは、研究協力者によるワークショップ形式で実施し、今後も継続して行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度前半は体調不良にて、大学病院での加療・入院が必要となり、そのために年度内のドイツ、スイスへの研究滞在が実施できなかった。しかし年度後半には回復し研究計画の進展をみた。2024年度以後の活動に問題ないことは、担当医師の診断から確定している。 本研究は日本では全く着手されていない「造形芸術学基本用語アトラス」の実現を目指しており、申請者と中堅研究者の共同作業が不可欠である。そのために2024年2月の研究会は、映像作家地場賢太郎氏のほかに8名の大学教員・美術館学芸員の参加をえて、ワークショップ形式で実行した。今後もこの方式を本活動の中核とする。ここでは「造形芸術」概念をひろく検討したが、これからもさらなる中堅研究者の参加を計画しており、基礎概念のリストアップと外国文献・資料の集成と検証をしっかりと進捗させる。 なおドイツの研究機関ではベルリンのバウハウス・アルヒーフが改築のために長期休館中で連絡に不備も生じ、研究上の課題となってきたが、2025年には再開の見通しで、研究の進捗も好転すると思われる。 申請者は、本研究と並行して、ゲーテ自然科学研究のいわば中核をなすゲーテ晩年の個人雑誌『形態学誌』(2巻4冊)の研究・翻訳を京都・神戸の研究者と共同作業として進めている。これは、本研究計画にも連動する内容で、ほぼ共同作業の終盤を迎えており、その点で申請者の研究の進捗に貢献している。とくにここではゲーテにおける比較解剖学、発生学に関する新知見をえている。 本研究は植物学・動物学における発生学、とくにヒトの受胎・胚形成・骨格形成などの医学・生命科学領域の研究を導入する必要があるが、申請者の体調不良からドイツ・ドレースデン、ライプツィヒほかの調査滞在が実行できなかった。この点は、2024年度に大幅な改善にむけて努力したい。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、「造形芸術学基本用語アトラス」全体のアウトラインを確定する。その枠組みは、形式概念における形態学と色彩学、イコノロジーの領域における造形表現と言語表現との交錯、そしてデザイン・メディア問題になる。 本研究の重点は、生命科学における発生学の知見を造形作品の制作過程に接合する理解にある。この点でゲーテにおける形態学研究と画家・医学者C.G.カールスにおける厖大な解剖学・産科学研究の交流は、国際的にみても未だ研究成果が乏しい。この点で、本年度はカールスの活動した機関であったドレースデン美術学校、また今日のドレースデン工科大学内の医学部と大学付属病院、ドレースデン医学アカデミーにてカールスの資料、とくに解剖図を調査する予定である。 形態学と色彩学では、メタモルフォーゼとオート・ポイエーシスを縦軸とし、形態表現における明暗、色彩では無彩色が横軸となる。この領域では、研究協力者の中堅・若手のメンバーの協力と活動を推進したい。 本研究の基盤は、造形表現と言語表現との原理的交通問題の解明にあり、イコノロジー問題では個別の作品研究ではなく、造形表現あるいは映像表現と言語表現との異同を追究する。そのために言語学・哲学領域の研究者の協力をえなくてはならない。これは大きい課題ゆえ、本年度に速やかに活動課題を設定し、専門研究者の招聘を実施したい。この課題では外国の研究者、たとえばチューリヒ大学ケルステン教授らの招聘とシンポジウム開催を本年度末に実現する予定である。
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