研究課題/領域番号 |
23K00180
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
青野 純子 明治学院大学, 文学部, 教授 (20620462)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | オランダ / 美術 / 素描 / 複製 / 受容 / 17世紀 / 18世紀 / 絵画 |
研究開始時の研究の概要 |
17世紀オランダ美術を代表する画家たちの評価は18世紀末に急速に高まるが、この評価の変化を促した要因の一つを17世紀オランダ絵画を模写した18世紀末の複製素描に見出す。色鮮やかな水彩の複製素描は、17世紀オランダ絵画を繰り返し複製することで、絵画本来の特質である色や光の表現をより一層際立たせ、絵画市場において特定のオランダ画家の評価を高めたのではないか。本研究は、複製素描を作品調査と事例研究に基づき分析することで、18世紀末における17世紀オランダ美術受容のプロセスに迫るとともに、オリジナリティと真筆性を重視する西洋美術史の文脈において、新たな価値を生み出す複製芸術の意味と機能を再考する。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は18世紀における17世紀オランダ美術の評価の変遷を分析し、その推移の要因を探ることであり、なかでも18世紀末に制作され収集された複製素描がその評価の形成に果たした役割を考察する。 初年度は18世紀複製素描の全体像を把握することを目的としており、6月にアムステルダムとロッテルダム、そして7月末から8月初めにかけてヨーロッパ諸都市の美術館を訪れ、18世紀オランダの複製素描および17世紀オランダ絵画の作品調査、資料収集を行った。その結果、18世紀オランダの複製素描の多様性と質の高さが確認され、絵画作品の代替としての役割を改めて認識するとともに、複製素描の制作者そして複製対象となった17世紀オランダ絵画について多くの情報を得ることができた。 例えば、複製素描の制作者に関しては、これまでに把握していた素描家以外にも制作に従事した作家の存在が明らかになり、複製素描の流行を支えた制作活動の広がりを確認することができた。また、複製対象に関しては、物語画、風俗画、風景画、肖像画、静物画など、多様なジャンルの作品が選ばれ、画家もレンブラントやその周辺画家、ピーテル・デ・ホーホ、フランス・ハルス、ヤン・ステーン、ヤーコプ・ファン・ライスダールなど、ヴァラエティに富み、様式的特徴も多岐に渡ることが明らかになった。これらの情報を来年度以降分析の予定である。 またケーススタディとして、ピーテル・デ・ホーホの絵画を模写した複製素描に焦点を当て、デ・ホーホの評価が高まった18世紀末において複製素描がどのような役割を果たしのか、当時の競売目録など一次文献を調査し、考察を行った。その結果、瑞々しい水彩の素描において強調された明るい光と色の表現が、「光の画家」と呼ばれたデ・ホーホの名声の確立に貢献した可能性が浮き彫りになり、今後のデ・ホーホやフェルメールらの評価と複製素描の関係を考える礎となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は複製素描とそのオリジナルの絵画の作品調査、および情報の収集と分析を行う予定であり、実際に下記のように6月そして7月末から8月初めにかけて2回の海外調査を行うことができ、また国際シンポジウムにおいて研究成果の一部を発表することができたため、研究は概ね順調に進んでいると言えよう。 【研究調査】これまでに調査の機会のあったアムステルダムの国立美術館、アムステルダム美術館、ハールレムのテイレルス美術館等に加えて、6月にはロッテルダムの個人コレクション、7月末から8月にかけては、ロッテルダムのボイマンス・ファン・ブーニンゲン美術館、パリのFondation Custodia、フランクフルトのシュテーデル美術館、ウィーンのアルベルティーナ美術館において18世紀オランダの複製素描、17世紀オランダ絵画の作品調査を行った。美術館における調査の際には、担当学芸員から作品保存・作品解釈に関する情報を得た。
【研究成果】6月にアムステルダムの国立美術館にて開催された国際シンポジウムPeck Drawings Symposiumにおいて、18世紀オランダの複製素描に関するこれまでの研究成果をもとに、口頭発表を行った。 また、2023年3月に明治学院大学で開催されたシンポジウム「15~18世紀ネーデルラントとオランダ美術における複製/コピー」の内容を、明治学院大学言語文化研究所紀要『言語文化』41号に特集としてまとめ、複製素描に関する自らの口頭発表も論文として執筆し、掲載した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず初年度で集めた膨大な情報を改めて精査し、18世紀オランダの複製素描の全体像とその特徴を考察する。具体的には、複製素描の制作者と制作方法、複製対象であるオランダ絵画の種類、コレクターによる複製素描の収集活動などに関して分析を進める。 その上で、次年度以降にケーススタディによる考察を行うために、素描家、画商、競売開催人、素描を収集したコレクター、オリジナル絵画を所有していたコレクターなど、複製素描制作・収集に関わった人物についてさらに調査を進め、また18世紀の絵画市場において複製が果たした役割についても考察を行う。
また、初年度にアムステルダムの国立美術館で開催された国際シンポジウムPeck Drawings Symposiumにおいて研究成果の一部を用いて口頭発表を行ったが、この内容をもとに欧文論文を執筆し、同国立美術館が出版予定の論文集への寄稿を目指す。また研究内容の進展に合わせて、随時国内外の美術館において調査を行う予定である。
|