研究課題/領域番号 |
23K00201
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
上田 薫 日本大学, 芸術学部, 教授 (70277482)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 説経節 / 説経浄瑠璃 / 一人語り / 絵解き / 若松若太夫 / 翻案 / 伝統芸能普及 / イラスト / 民間芸能 / 口承文芸 / 語り物 / 伝統芸能 |
研究開始時の研究の概要 |
説経節は、中世の時代から人形劇と結びついて人気を博した芸能であるが、江戸の中期に歌舞伎などの舞台芸能におされて消滅し、また復活するという歴史を辿って来た。現在三代目若松若太夫師など数名の説経浄瑠璃師が、その伝統芸能を継承している。そうした流れを、歴史の研究と説経浄瑠璃語り本の新規創作を通じて支援しようとすることがこの研究の目的である。歴史研究として『初代若松若太夫日記』の翻刻を行い、初代若松若太夫が明治期に江戸時代の芸能を如何に復活させたのか解明し、また、三代目若松若太夫師の協力の下で、現代に受け入れられる説経節の演出・表現方法を創造し、公演の企画実演によって説経節の復活再生を目指す。
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研究実績の概要 |
2023年度における主たる研究実績としては、大別して2件の研究成果を報告する。第1の成果は2023年12月14日(木)10時30分から12時10分に日本大学芸術学部小ホールにて実施した説経節公演「絵解きで聴く説経節小栗判官物語」である。芸術学部生を対象に公演したものであるが、古く社寺で行われていた絵解きをスクリーンに投影されたイラストに変え、一人語りの古屋和子氏の地語りと、3代目若松若太夫氏の説経節を組み合わせて、一部動画なども挿入した構成で行なった。イラストの作成と、アニメーションの作成は学生・大学院生が担当して制作した。公演終了後アンケートを実施し、10代から20代前半の学生たちから高評価を得たが、公演中イラストの少ない場面があり、その点についての要望などがあり、次回の公演に活かすつもりである。説経節は語りの言葉が古文なので、イラストを観ながら物語を辿ることで、物語の内容を理解する助けになったことが実証された。また、ストーリーは上田が翻案執筆した『小栗判官と照手姫 翻案朗読本』(2023年)から一部を取り入れて、御物絵巻版『小栗判官』と併せたものを使用して、物語自体の改変も行なっている。古形の筋書きにある忠義心などの要素を薄め、主人公小栗と照手姫の成長物語の要素を濃くした改作になっている点も、今回の公演の特徴である。 第2の成果は『初代若松若太夫日記』の翻刻作業である。下田真由美氏に業務委託し、明治37年1月から7月までの初稿を完了したが、テクストの癖字が強く難航した。 その他の研究実績としては、説経節公演「絵解きで聴く説経節小栗判官物語」制作のために、物語の舞台となった、塩谷、岩瀬、水橋、六渡寺(以上新潟県)、宮の腰、本折小松(以上石川県)などの地名を辿り、場所の特定を行なった。更に次年度の公演実施のために板橋区文化・国際交流財団との打ち合わせを行い、次年度公演予定を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗状況に関しては、当初の予定よりやや遅れていることが否めない状況と判断しているが、その理由は、まず公演を実施するためのホールなどの会場の確保が当初考えていたよりも難しかったことが挙げられる。会場の予約から実施までに長期間の空白時間が生じてしまうこと、また公演内容の構成や実演者の確保などは当初予定していた通りに確保でき、またイラストの作成なども計画以上に充実した成果物が完成しているが、研究責任者の不慣れな領域(舞台実施のマネージメント)での出遅れが生じた。当初は外部施設での公演を予定していたが、無料での公演実施ということが、会場を確保するために不利になるということも判明した。また、『初代若松若太夫日記』の翻刻作業に関しては、作業の初期段階ということもあり、癖字の判読に時間を要した。直筆の日記という性格と、執筆者独特の書体をテキスト全体と照合して判読するのに時間がかかり、翻刻作業によって判読できたものの文字数が当初の予想よりも少なかったために、これも「やや遅れている」という判断となった。その他、学生に参画してもらいながら、公演のコンテンツ(=イラストなど)を作成しているが、授業や学習に支障のないように配慮して進めているために、計画進捗のための時間的マージンがかなり必要であるということもその理由の一つと考えられる。更には、研究初年度ということもあり、研究をスタートさせるための時間が必要だったということも、遅れた理由と言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記、研究の進捗状況を踏まえて、2024年度は、会場の確保に関しては既に初年度よりも順調に進められているが、より多くの会場で公演の実施ができるような準備を進めている。もともと、若年層への説経浄瑠璃の普及を目指して進めている研究であるため、現在高等学校などでの出張公演の場を待つべく、情宣活動も進めている。また、説経浄瑠璃の保存・振興に力を入れている板橋区との連携を深め、その足掛かりとしては、板橋区・国際交流財団との共催で「絵解きで聴く説経節小栗判官物語」の公演を11月に区民会館で実施することが決定している。その他、日本大学芸術学部内の施設で学生を対象とした公演を実施する予定である。また「小栗判官物語」を公演内容にして進めている他に、新たな演目の準備作業も進めている。説経節「刈萱同心」や「山椒太夫」などの他にも、古伝承に基づく説経節的物語の執筆も進めている。現時点では、出羽三山開祖とされる蜂子皇子を主人公とする物語の執筆を行なっている。骨子となるストーリーは既に出来上がっているが、説経節として語るための「語り本」の作成を行なっているところである。語りのセリフに関しては、3代目若松若太夫氏の協力を仰ぎながら、完成させるつもりである。 また、翻刻作業に関しても、昨年度依頼した下田真由美氏以外にも翻刻作業に協力していただける人員を増やし、作業を加速させてゆく考えである。2024年度は、明治37年後半の日記と、難航していた明治36年の日記の翻刻作業を進める。
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