研究課題/領域番号 |
23K00221
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
関口 喜美子 帝京平成大学, 人文社会学部, 講師 (80963339)
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研究分担者 |
金児 正史 帝京平成大学, 人文社会学部, 教授 (00706963)
山田 洋一 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20435598)
白木 賢太郎 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90334797)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 和膠 / 溶解技術 / 水分量 / 燃焼実験 / ミネラル成分分析 / 炭による懸濁物質の除去 / 科学評価 / 感性評価 |
研究開始時の研究の概要 |
日本固有の膠(和膠)とその溶解技術は現在急速に失われつつある。これは日本画制作のみならず、文化財の修復や保存にとって重大な問題であり、和膠の溶解技術の再構築は喫緊の課題である。本研究では、科学的評価と感性評価を相補的に用いることで、これまで口承や秘伝にされていた和膠の溶解技術を客観的に再構築し、和膠本来の性質を引き出すことを目指す。さらに溶解時のバイオ添加剤の利用により、和膠の新たな機能を探索することも視野に入れる。このような和膠溶解技術の再構築は、日本の芸術文化の継承や保存修復分野のみならず、SDGsに資するバイオ由来材料分野への波及効果も有する。
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研究実績の概要 |
膠は、獣類の皮を熱水処理し抽出した液を乾燥させた固形物である。とりわけ、日本画においては顔料の展色剤として重要な役割を果たしている。伝統的な製法で作られる和膠(三千本膠)は、多湿環境下でも割れや剥離が少ない性質を持つ一方、その製造業の減少とともに和膠自体の希少性が増している。さらに、溶解技術は主に口頭伝承であり、その貴重な知見が急速に失われつつある。そのため、和膠と溶解技術の再構築は、芸術分野において喫緊の課題となっている。 このような背景を踏まえ、本年度の研究では、三千本膠に含まれる水分量や成分分析、膠水の懸濁要因に焦点を当て、膠の基礎研究を重点的に遂行した。 膠の主成分であるコラーゲンのアミノ酸組成は、主にグリシン、プロリン、オキシプロリンであり、その配列は、グリシンが3個に1個繰り返しなど規則性のある安定的な三重らせんを形成し、特異的な構造であることが報告されている。本年度の研究成果として、三千本膠の有機物質の割合が82.6%、水分含有量は15.4%、ミネラル成分は約1%であることを実験的に明らかにし、三千本膠の高い保湿性と、高温多湿の日本の環境下での繊細な作業に適した特性を有していることを明らかにした。また、膠の構造に由来するゾル-ゲルの可逆反応に着目し、ゾル状態時の懸濁要因についても検討した。木炭、竹炭などの炭による懸濁物質の除去実験を行った結果、炭の添加によって懸濁物質が吸着され、三千本膠のゾル溶液の透明度が高まることを明らかにした。これらの実験結果を現在、学会誌の投稿論文を作成中である。 和膠の物質的特性に関する理解を深めることは、伝統技法や文化財の継承に寄与するだけではなく、SDGsの観点からも、動物由来の膠が副産物として循環される資源として、今後さらに注目されることが期待される。膠のより広範な応用の可能性を見出すため、今後も膠の基礎研究を継続して進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、三千本膠の基礎物性について実験的研究及びデータ収集を行った。当初の研究計画を大幅に変更することなく、概ね順調に進展している。電子レンジを使ったマイクロ波によって三千本膠に含まれる含水率(15%前後)を容易に算出する手法を本研究で開発した。また、三千本膠中に含まれる水分量が接着機能や柔軟性にどのように影響しているのかについて検討を行った。さらに、真空ガス置換炉による燃焼実験から三千本膠の構成成分を特定し、成分由来を考察した。これまでの日本画制作における膠の使用は、経験に依存しており、膠の基礎的な物性を構築していくことは重要な研究成果である。また、三千本膠水の懸濁要因についても検討を行った。膠水に炭(木炭、竹炭、骨炭)を投入すると、炭に濁り成分の原因となっている膠タンパクが吸着され、膠液の透明度が向上することを本研究によって明らかにすることができた。今後、さらに粘度、接着性などの様々な観点から検討することによって実用化に向けた研究成果が期待できる。 次年度も引き続き、日本文化の継承に向けた和膠溶解技術の実証研究は、本年度の研究成果に立脚し、当初の計画に従い推進できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の研究実施計画である水質(イオン濃度)による膠溶解の最適化にも力点を置いて研究を進める。マクロ物性(液性)とミクロ物性(タンパク質科学)の観点から、高透明度、低粘度、高色度などの特性を発現する溶解条件と、その分子メカニズムを定量化し、画材としての利用に最適な条件を精査する。さらに、アミノ酸等のバイオ添加剤やイオン添加の効果により、膠水のマクロ物性を制御しながら和膠の新たな性質を引き出すことも検討する。また、膠溶解の最適化には、マクロ物性とミクロ物性を評価する一方で、絵画制作において最適な塗布膜を得るための膠溶解技術を定量的に確立することも不可欠である。接着強度は、付着試験や引張強度などで評価し、表面形状は、原子間力顕微鏡(AFM)などにより、塗布膜表面の様子をナノメートル~マイクロメートルレベルの領域で評価する。さらに、これらの科学的データを基に、最適化された和膠の溶解技術を日本画制作者に提供し、感覚的・心理的な印象を定量的に把握する。このように科学的評価と感性評価を統合することで、幅広い分野で利用できる和膠の溶解技術の体系的な構築を目指し、研究を進める予定である。
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