研究課題/領域番号 |
23K00235
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野澤 暁子 (野澤暁子) 名古屋大学, 人文学研究科, 共同研究員 (20340599)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 中世ジャワ文芸 / 天女説話 / 文化遺産 / デジタルアーカイブ / インドネシア |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はインドネシアのヒンドゥー・ジャワ時代後期(14世紀)の天女説話に関わる文化遺産(写本/芸能/遺跡)の有機的な相互関係を統合アーカイブとして可視化する作業を実施し、「生きた文化遺産(リビング・ヘリテージ)」の推進を通じたデジタル人文学の可能性を開拓する。メディア論と芸術人類学の視座から説話に関わる各種メタデータを「天女説話表象の多様性=モノ・コト・コトバの相関的エコロジー」として体系化したオープンアクセスのデジタル空間を創出する実践を通じ、ヒンドゥー・ジャワ文化遺産研究の新たなモデルを提示したい。
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研究実績の概要 |
初年度の活動として主に行ったのは、二点である。一点目は、アーカイブ構築のためのこれまでの収集資料の分類作業とテクスト制作である。本アーカイブはインドネシアやアジアの他の地域における天女説話の広がりの中に中世ヒンドゥー・ジャワ時代の天女説話「スリ・タンジュン」の研究を布置し、その多様な表象(貝葉写本、学術書、儀礼歌、演劇、遺跡浮彫壁画)の関係性を連携することを目的とする。したがってこの天女説話の表象をカテゴリーごとに分類した上で各資料に関する説明文の作成を完成させ、アーカイブ制作実務者との打ち合わせを経て基本的な構成を策定するに至った。 二点目は、アーカイブと連携させるためのバリ島における天女に関する聖地の調査である。調査の結果、バリ島内に合計27か所の場所が「天女が水浴びに舞い降りた」などの伝説とともに神聖視されていることが判明した。したがって2023年6-7月、7-8月、2024年1-2月の長期調査でこれら全ての実地調査を行い、各スポットの視聴覚情報と聞き取り調査から得た説明文を含むマップを完成させた。そしてこれら聖地の立地環境を分析した結果、「①儀礼に使う聖水を汲む場である ②そこの水が病気治癒などの効能をもつと信じられている ③山間部など起伏のある立地の場合が多い ④稲作地帯に位置するものが多い ⑤寺やその場が村の所有ではなく、水利組合(スバック)や個人などの私有地であることが多い」といった特徴をもつことが判明した。したがってこの調査で得た知見を今後の学際研究につなげるための布石として、2024年6月にインドネシアで開催予定の国際島嶼学会世界大会に研究発表「Folktale and Nature in the Digital Era: A Case Study of Dedari Sacred Sites in Bali Island」を申し込み、採択となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一点目の成果は、これまでの資料整理とテクスト制作を完了させ、アーカイブの基本構造の策定に至った点である。この過程では実務担当の方から建設的なアドバイスを数多く受け、その協力によってスムーズに計画を進めることができた。二点目の成果は、バリ島内の天女聖地の実地調査を完遂したことである。この調査では本来予想していなかった多くの発見があり、学際的なプロジェクトへとつなげるための着想を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現段階では三点が今後の課題として残る。一点目は、アーカイブ構成に必要な追加資料の準備である。実務担当者から、より多くの視聴覚資料をアーカイブ内に取り入れた方が今日の主流な感覚に効果的であると助言を受けたためである。準備の段階では文字中心主義的な論文作成の思考であったため、この指摘はデジタル・ネイティブの感性をあらためて気づかせてくれる意味で新鮮であった。したがって今後ともこうした小さな気づきの積み重ねを芸術人類学的参与観察の中で対象化し、現代におけるデジタル・アーカイブの意義を言語化していきたい所存である。 二点目は、本文の英語版とインドネシア語版の準備である。今年度は日本語版を完成させることができたが、予想以上の分量となった。したがってその翻訳作業と校正作業には今後時間がかかると思うが、オンライン上で国境を越えて人びとの眼に触れる展望からも、一つ一つ丁寧に進めていきたいと考えている。 三点目は、バリ島の天女聖地の調査から得た学際研究の構想である。これまで天女伝説や羽衣説話は、民話として文献学や民俗学の領域で扱われてきた。しかし概要の欄で述べたように、バリ島の26か所の天女聖地の特徴から見えるのは、人間と自然環境の相互交渉の中で生まれた天女伝説の一側面である。今後はこの側面を地理学、神話学、環境学などと連携して天女説話から新たな学知を開拓できるよう、構想を進めていく予定である。
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