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無辜の死を悼むジレンマの藝術的転回

研究課題

研究課題/領域番号 23K00237
研究種目

基盤研究(C)

配分区分基金
応募区分一般
審査区分 小区分01070:芸術実践論関連
研究機関大阪大学

研究代表者

中村 恭子  大阪大学, 中之島芸術センター, 准教授 (00725343)

研究分担者 郡司 幸夫  早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40192570)
研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2026-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
キーワード風景 / 肉体 / 湿地遺体 / 書き割り / 日本画 / 外部 / 天然知能 / 創造性 / 脱色
研究開始時の研究の概要

認識世界外部が、生の普遍性を示す文化として現れていることを、「死生観=無辜の死の脱色化を通した死(外部)の受容」および、肉体の参与によって「心・物質・身体」の外部が召喚される様々な歴史や文化の死生観の事例(北ヨーロッパ地域の湿地遺体など)を通して明らかにし、それを日本画などの藝術作品と、思弁的論考、数学的構造によって具現化する。

研究実績の概要

湿地遺体トーロンマンの発見地域を取材した。湿地遺体の信仰には、前縁・境界にまつわるアンチノミー脱色という創造様式を見出せる。これがどのように環境の中で発露し得るか、遺体が配置された風景のあり様を体験し、そこから見出した事象から作品として実装した。今年度は、その試みの一つとして、「風景の肉体」を検討した。これまで、日本の古画に見出した空間表現として書き割りの空間概念を以前より示してきた。こちら側と対応する単純な向こう側を示すのとは異なり、日本の古画は図形平面の山並みを描く。舞台背景装置の書き割りのように、表面のこちら側のみ世界を表し、裏はない。図形的であるが故に単純な向こう側ではない、全くの知覚世界外部として創造を参与させる。知覚世界のリアリティにおける境界でありながら、前縁を同時に配した概念構造を、身体という問題に転回させる試みが風景の肉体である。意識の至る所に身体が拡張する身体イメージは、延々と私という文脈の世界にとどめ、真に創造的に開かれた体とは言えない。むしろ、書き割りのように圧倒的に物質的で、動かしようのない世界の限界として境界となる「もの」としての肉体こそ、外部に賭けに出ることができる。そのような肉体として、古代の儀式で殺害された湿地遺体、すなわち王の遺体に見出した。王は、豊穣を願う儀式によって殺害され、女神に捧げるために神聖な湿地に配置され、風景化された肉体と言える。湿地遺体は境界としての肉体であり、同時に女神という前縁を召喚する。外部という抽象性を肉体に召喚するとき、書き割りの風景の肉体が参与する。風景でありながら風景でない、原風景ともいうべき肉体である。中村はこれを泥炭湿地の限界に生息する植物や王を示す棒人形などから着想を得て、物質としての肉体を絵画として実装した。郡司は、湿地探索の中で植物による「もの」化として外部召喚を試みたインスタレーションを行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

今年度は、北ヨーロッパの泥炭湿地のうち、トーロンマンという有名な湿地遺体が発見された発見地域でフィールドワークを行った。これまでは文献等から検討できる湿地遺体にまつわる創造の概念構造を検討していたが、フィールドワークにより、具体的に「風景」と「肉体」というテーマが発露したことは大きな成果であった。また、フィールドワークにより、湿地遺体と類似した儀式に用いられた道具と現地の特徴的な植生に共通点を見出し、そこから展開した作品制作に至ることができた。中村は「風景の肉体」のテーマのうち「湿地の王」として現地の植物にまつわる作品を描き完成させた。他に、現地で見た特徴的な水平面の蜘蛛の巣や灌木などをテーマにとった作品の構想もできており、制作を進めている。これらを合わせて3部作の大作として予定している。郡司は現地での探索そのものを「もの化」していき、それを植物を材にした空間構成によって示した。をこれらの作品成果は、複数の企画展覧会に招待され、公開した。展覧会では、それぞれの独自の制作過程や構想が、「肉体」として共通のテーマとして重なり、創造すなわち「肉体の召喚」として提示することができたことは、当初の計画以上に進展している。また、善光寺で開催された展覧会では1週間で約5000人もの来場者を得て、NHKなどのテレビや新聞で紹介され話題となった。また、本研究を複数の学会などでも発表した。計測自動制御学会では、理系研究の場でありながら、芸術実戦による身体と肉体にまつわる議論が評価された。

今後の研究の推進方策

今年度は、まずはフィールドワークによる調査からスタートし、湿地遺体という題材から、肉体召喚にまつわるテーマを炙り出すことができた。そして、それを作品として実装することができた。これについては、複数の展覧会や学会などで発表している。今後は論文として公開するためにすでに執筆を進めている。また、次年度には、別の北ヨーロッパ地域の風景に、新たな肉体にまつわる視点を検討している。泥炭湿地の多くが、現在は街に混在し、公園になるなどしている。風景化において、自然と人工が構成するアンチノミーの脱色の結果としてもたらされる肉体を構想していく予定である。

報告書

(1件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 研究成果

    (31件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (5件)

  • [雑誌論文] 当事者性を実現する天然知能のアート2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫、中村恭子
    • 雑誌名

      映像情報メディア学会誌

      巻: 5-77 ページ: 591-593

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] Connection and disconnection of perception and memory: Deja vu, Bayesian and inverse Bayesian Inference2023

    • 著者名/発表者名
      Gunji, Y.P
    • 雑誌名

      In Bergson’s Scientific Metaphysics: Matter and Memory Today (Hirai, Y. ed.), Bloomsbury Pub

      巻: -

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] 975597on a visual body with discomfort and its algebraic analysis2023

    • 著者名/発表者名
      Ruijia Yang、Sakura Hirokazu、Gunji Yukio-Pegio
    • 雑誌名

      Frontiers in Neuroscience

      巻: 17 ページ: 975597-975579

    • DOI

      10.3389/fnins.2023.975597

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 抽象の亀裂に現れるリアル2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫
    • 雑誌名

      ユリイカ3月臨時増刊号『92年目の谷川俊太郎』

      巻: 43

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 湿地遺体の書き割り構造2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子、郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      第24回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2023)
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 風景の肉体(映像展示)2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会:共創する時空、いま・ここOS/WS 企画セッション「アートの転回:「わたし」における世界の感じ方」
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 風景の肉体2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子、郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会:共創する時空、いま・ここ
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 書き割りの風景・肉体2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      民族藝術学会第168回研究例会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] フーリエの無限小概念で考える共創2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      第18回共創学研究会「当事者としての共・創」
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 風景の肉体:ボグボディ2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      共創学会第一回「共創する時空」研究会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 空白としての現在-メロンクリームソーダから-2023

    • 著者名/発表者名
      德山祐耀、中村恭子
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会:共創する時空、いま・ここ
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 『不在』がもたらす創発2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第17回「共創する時空」研究会. 日立シビックセンター
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] いかにして作家である「私」の当事者性は擁護されるか2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第17回「当事者としての共・創」研究会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 起源問題における「不在」の意味2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      日本進化学会第25回大会シンポジウム
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 自由エネルギー原理と量子論的認知科学の関係, そして笑い2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      第33回日本神経回路学会, 東京大学
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 天然知能から適応・起源を考えるということ2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      第70回自律分散システム部門研究会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 「創造する・外部を受け入れる」という能動性について2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      第65回知謝塾
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] ※OS企画主催2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会・一般公開セッション「アートの転回:『わたし』における世界の感じ方」企画
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 「不在」を作ることで媒介者を召喚する2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 「言葉にできないこと」を言葉にする-書く・読む・奏でる-2023

    • 著者名/発表者名
      江藤健太郎, 郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 和太鼓のリズムに出会う:和太鼓の鑑賞実験を通して2023

    • 著者名/発表者名
      野村翔琉,郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 「どうしても思い出せない」を実験的に作り出す2023

    • 著者名/発表者名
      遠藤瞭介,郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 空間認知の人称性と記憶の人称性の相関について-あやとりによる発見2023

    • 著者名/発表者名
      杜越, 郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 量子論理オートマトンにおける臨界性2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫, 大澤慶彦, 江藤健太郎.
    • 学会等名
      第24回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [図書] 「フーリエの未来の肉体としての反古墳──いや、墓とは?」,『フーリエ論集(仮)』福島知己(編)2024

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 出版者
      水声社
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [図書] 創造性はどこからやってくるか:天然表現の世界2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫
    • 総ページ数
      288
    • 出版者
      ちくま新書
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] 中村恭子・郡司ペギオ幸夫展「BOG BODY:召喚される身体」、アートスペースキムラASK

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] もんぜん千年祭、2024.2、信州善光寺本坊大勧進紫雲閣、西之門よしのや北蔵

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] 大阪大学中之島芸術センター開館記念中村恭子日本画作品展「風景の肉体」、大阪大学中之島芸術センター

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] 「第5回メタモルフォーシス展」、ギャラリー82

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] Alife 2023:無意識的関係性展、2023、北海道大学クラーク会館

    • URL

      https://2023.alife.org/art-exhibition-unconscious-relationship/

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書

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公開日: 2023-04-13   更新日: 2024-12-25  

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