研究課題/領域番号 |
23K00263
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
東 慎一郎 東海大学, 文学部, 准教授 (10366065)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2026年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | ペトラルカ / 学問論史 / 『無知について』 / 懐疑主義 / 異教徒の知の問題 / キリスト教思想 / 科学論 / 科学倫理 / ルネサンス |
研究開始時の研究の概要 |
科学が技術と結びつき,巨大な力を発揮してきたことは現代では自明のことがらである.知は,一面で私たちの世界や未来への展望を開くが,他面でそれをどのような目的で追求するかが倫理的な問題にもなる.知の本性や倫理をめぐる議論はヨーロッパでは長い歴史があり,現代の難局に取り組む際に参考になるだろう.本研究では,ルネサンスの文人にして思想家,フランチェスコ・ペトラルカ(1304-1374)に光を当て,学者の没倫理性,知の無根拠性という現代的問題にどのようにたどり着くことができたのかという問題を,彼が参照した古代や中世の思想を参照しつつ,考えてゆく.
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研究実績の概要 |
初年度はペトラルカ学問論の一側面である懐疑主義について検討を行う計画であった.研究の過程で,異教徒評価がペトラルカの懐疑主義に影響した可能性を検証した. ペトラルカは果たして純粋に理論的見地から懐疑主義を引用したのだろうか,それとも彼が終生重視したキリスト教思想により一定程度彼の懐疑主義支持が影響されたのだろうか. この問いに取り組むため,異教徒の知をめぐる中世哲学の議論を参照しつつ,ペトラルカ『無知について』関連個所のテキスト分析を進めた.調査を通じ,異教徒がキリスト教の神を信じないまま真理に到達できるのかという議論が,アウグスティヌスから17世紀まで続いており,ペトラルカの同時代にも議論が見られたことが明らかになった.キリスト教思想から見れば,すべての知や真理も神から由来すると考えることができる.すると,キリスト以前のギリシャ哲学者たちやイスラーム圏哲学者たちなどが真理に到達できるのかということが問題になる. 異教徒の知の問題はペトラルカ学問論,とりわけその懐疑主義にどの程度影響を与えているかを見極めるため,昨年度はペトラルカ『無知について』(1371年)の関連個所を分析した.結果として,ペトラルカにおいて,異教徒の知をめぐる議論の直接の影響は見られないと結論づけた.むしろ,ペトラルカの懐疑主義は,キケローの影響,そして「無学の老婆」議論に見られる哲学批判と有機的に結びついていると考えるべきだろうという結論に達した.調査を通じて,ペトラルカ学問論の哲学的ないしは理論的性格が浮き彫りになったと言える.キリスト教という観点からペトラルカ学問論を理解する見方は限界があることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペトラルカ懐疑主義の背景について,一定程度理解が深まったと考えられる.アリストテレスは異教徒であり,異教徒である限りにおいて彼が残した知がそれ自体として根拠が弱いという思想は,ペトラルカの同時代にもあったと推測される.直接のつながりは見出せなかったものの,適切な参考文献の存在,およびペトラルカのテキスト分析から得られた知見は役立った.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,引き続きペトラルカ懐疑主義の特徴を,ほかの懐疑主義の議論との比較対照を通して浮き彫りにしていく予定である.初期教父からはラクタンティウス,中世からはソールズベリーのジョンにとくに光を当てる.ペトラルカが彼らに言及している,あるいはよく似た議論をしているからである. 同時に,今年度後半から2025年度にかけては,ペトラルカのテキストにおける科学の限界問題調査にも着手する.とくに,経験的諸学の本質的問題を示す事例としてペトラルカの博物学批判を,また理論的知の限界を示す目的で議論されたと思われる,観想/活動問題のペトラルカ的起源について取り上げ,その歴史的ソースとペトラルカにおける取り扱いの両方について考察を加える.
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