研究課題/領域番号 |
23K00268
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
種田 博之 産業医科大学, 医学部, 講師 (80330976)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 境界作業 / HPVワクチン / 勧奨接種再開 / 審議会 / ワクチン接種行政 |
研究開始時の研究の概要 |
2013年6月、HPVワクチンの勧奨接種は一時停止され、約8年の時を経て、2021年11月に解除された。本研究は、審議会においてHPVワクチンなどがいかに語られて勧奨接種の再開にいたったのかを、「境界作業(boundary work)」の視点から考察することを目的とする。審議会は経済/政治(公共政策)/科学などの各諸領域の様々な正しい主張が交差しせめぎあう場である。誰・何が、いかなるメディアにおいて、いかなる視点より、HPVワクチンなどにかんしてどのように語ったのか、そして接種のあり方をめぐっていかなる正当化を通して、勧奨接種の再開が図られたのかについて、調査・考察する。
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研究実績の概要 |
定期接種A類のHPVワクチンは接種後に起こった有害事象の顕在化によって、2013年6月に勧奨接種が一時停止され、約8年、その状態が続いた。その後、審議会が勧奨接種再開の勧告をおこない、2021年11月厚生労働省は停止を解除した。本研究の目的は、審議会においてHPVワクチンがいかに語られて勧奨接種の再開にいたったのかを、「境界作業(boundary work)」の視点から考察することにある。 境界作業は科学社会学の知見の一つである。境界作業とは、科学内部で、諸科学間で、あるいは科学と行政などの制度の間で、ある事柄の妥当性などについて線引き(評価)をおこなうこと――どのように、論点が分節され調整されていくのかを捉えること――である。経済/政治/科学などが交差する場で、ある事柄の妥当性などをめぐって様々な正しい主張がせめぎあった結果として、妥当なこと/でないことのあいだに境界線が引かれるという考え方である。誰・何が、いかなる視点から、何を語ることで、正当性を帯びるようになるのかを、具体的に捉えるための視点である。 この境界作業の視点を使って、2023年度は、予備作業として薬害肝炎について考察した。薬害肝炎において、同じ血液製剤によってC型肝炎ウイルスに感染したにもかかわらず、一方で被害者として認められ、もう一方で認められないない人たちがいる。被害と非被害のあいだに境界線を引くために、誰・何が、いかなる視点から、何を語ったのかを考察した。あわせて薬害肝炎にかんする記述のされ方を考察した(正当化するために、ある事柄が触れられたり、触れられなかったりする)。HPVワクチンに関しては、審議会の内部で当該ワクチンがどのように語られたのかを捉えるために、とくに会議の議事録や配付された資料の収集・整理をおこなった(分析結果は2024年度の日本社会学会などで報告予定である)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したとおり、審議会においてHPVワクチン(または接種後の有害事象)がいかに語られて勧奨接種の再開にいたったのかを、境界作業の視点から考察することが、本研究の目的である。この目的のために、大きく以下の3点に着目する。第1は勧奨接種再開という意思決定をおこなった審議会内での議論の推移である。第2はHPVワクチン接種に対して積極的な人々(グループ)の主張である。第3はHPVワクチン接種に慎重な人々の主張である。第1に関して言えば、審議会関連の資料(議事録や配付物)は厚生労働省のサイトにアップロードされている。そうした審議会関連資料をすべてダウンロードして、整理・分類を終えた(いかに議論されたのかについての大まかな流れはつかめている)。第2については、2013~21年にかけての医学論文の収集おこない、現在、整理中である。第3は、HPV薬害訴訟の原告弁護団のサイトなどから資料収集をおこなっている(原告の支援集会などにも参加して、資料収集をおこなっている)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の進行状況は順調であり、当初の計画通り調査・分析を進める。上で述べた各グループ(積極派と慎重派)の主張について、資料収集をさらにはかる。そのうえで、資料収集については別の視点が必要かもしれないと考えてもいる。その理由は以下の通りである。審議会関連の資料を整理して見えてきたことがある。2021年11月に勧奨接種の一時停止が解除されるけれども、ある科学的事実をもって、審議会内での議論が劇的に変わったことで、勧奨接種が再開されたわけではないことがわかった。すなわち、科学的事実によって勧奨接種再開の線引きがなされたわけではなく、別の変数(社会的要因)が介在しているように思えるのである。そのために、2020~21年にかけての社会的動向に留意し、資料収集をはかりたい。とくにキーになるのが新型コロナ感染症ならびにそのワクチンであるように思われる。この時期にワクチンに関連する言説がどのように構成されていたのか(どの時点でどのような集団――積極派/慎重派/反対派など――が何を主として語っていたのかなど)を、資料(雑誌記事・新聞記事・映像資料)の収集・整理・分析もおこないたい。
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