研究課題/領域番号 |
23K00273
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河野 龍也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (20511827)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 日本文学 / 近代文学 / 外地文学 / 草稿 / 国際情報交換 / 紀行文 / 文壇 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究が掲げる到達目標は以下の4点である。 ① 近代作家中有数の人脈を誇った佐藤春夫の旧蔵資料を分析し、未知の文学者交流の実態を解明する。 ② 文献実証とフィールドワークから紀行文の情報源を明らかにし、作品の歴史的意義の評価に客観性と正確さをもたらす。 ③ 文物や証言を収集・保全し、現地の文学・歴史研究との接続を図ることで、国際的な友好関係と研究の社会還元に貢献する。 ④ 活字化作品を直筆原稿と比較することで、単に作品の生成過程を解明するだけでなく、メディアによる自主規制を視野に、戦時言説の再検証を行う。
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研究実績の概要 |
2023年10月21日に蘇州大学で開催された「強化国際伝播、講好蘇州故事」シンポジウムにオンライン参加し、「近代日本作家が見た蘇州:谷崎潤一郎「蘇州紀行」について」の題で基調報告を行った。佐藤春夫は蘇州に関する紀行文を残していないが、谷崎潤一郎は1918年に同地を訪れて「蘇州紀行」を書いている。異郷にノスタルジーを抱く谷崎の感性は春夫に共通するもので、この作品の分析を通じて、1920年前後に日本で流行した中国ブームの内実に踏み込むことができた。春夫との比較研究を進める上でも有益な視座が得られた。 また、2023年12月7日と8日に台北の中央研究院で開催された「變異:文本翻譯與文化跨境」シンポジウムに現地参加し、8日に「翻訳と翻案:佐藤春夫の文化越境(翻譯與改編:佐藤春夫的文化越境)」の題で報告を行った。中国の伝奇小説の翻訳である『玉簪花』は、実は諸種の欧文文献からの重訳であったことが知られている。それは結果的に、漢文訓読の伝統的読解を乗り越え、中国古典の受容を刷新する試みになったのだが、一方では欧文文献のなかにある様々な誤訳を発見し、重訳の限界を意識することにもつながったのではないか。この翻訳は春夫にとって、自身を「東洋的伝統」から切り離す試みであり、なおかつその紐帯は容易に断ち切れないことをも突きつけられる両義的な経験であったと言える。実際の訳文を詳細に比較検討したことによって、春夫のアジア観にゆらぎが発生した原因を具体的なレベルで捉えることが可能になった。これは本研究の見通しを得るためには極めて大きなステップであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感染症の流行がようやく下火になり、海外渡航が可能になったことで、シンポジウムへの参加を含む国際交流を再開できたことは、本研究の目標にかなう大きな進展であった。 また、直筆資料調査に関して、かつて佐藤春夫の父の家(懸泉堂)に保管されていた春夫書簡100通以上が、2023年に遺族より新宮市立佐藤春夫記念館に寄贈された。1930年の書簡を優先的に精読し、その成果の一部は佐藤春夫記念館が9月21日に新宮で行った記者発表の場で発信することができた。 さらに9月30日から11月26日まで神奈川近代文学館で開催された特別展「没後30年 井伏鱒二展 アチラコチラデブンガクカタル」にも、新資料として太宰治の病状を報告する春夫宛井伏鱒二書簡(実践女子大学寄託)を紹介することができた。ここでも本研究の成果を社会還元する機会を得た。 今後の課題としては、これらの成果の書籍化・論文化が残されているが、そのための準備は着実に積み重ねることができているので、進捗状況はおおむね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き資料の分析と国際交流・社会発信を推進していく予定である。2024年には実践女子大学で佐藤春夫展を予定しており、その企画を担当している。2023年に佐藤春夫記念館に寄贈された新発見の父子往復書簡を展示の中心にする計画である。 今後、より意識的に進めていきたいのは、研究成果の書籍化・論文化である。春夫の台湾・福建紀行に関しては既刊の論文やフィールドワークメモを集約する段階に来ており、2023年以来、単著としての公刊を考えて執筆を進めている。次年度はこの原稿の完成を第一目標に掲げたい。 あわせて、2023年発見の春夫書簡についても、父から春夫宛の書簡と対になる形での公刊の可能性を模索したい。現在、父の書簡の翻刻と分析を計画的に進めている。2024年度中にこの作業を完成させることを目指している。
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