研究課題/領域番号 |
23K00277
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
田中 尚子 愛媛大学, 法文学部, 教授 (50551016)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 室町 / 学問 / 二十一史 / 漢籍享受 / 歴史観 / 学者 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、室町期の学者達の間での中国史書・正史の享受の様相の実態を解明するものである。三史については考察対象となることも多かったが、それ以降の正史は、三国志を除いては、ほとんど考察がなされていたい。しかし、“二十一史”という括りが江戸初期に意識されていることから、室町期にもその前段階の動きが見られてしかるべきである。そこで、当該時期の学者達の著述内に記された二十一史に関する言及を抽出・整理し、彼らの中国史書・正史への取り組み姿勢、およびその背景にある彼らの学問状況を明らかにする。これを行うことで、申請者がこれまで取り組んできた三国志享受の相対化も可能になる。
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研究実績の概要 |
本研究は、室町期の学者達の間での中国史書・正史の享受の様相の実態を解明するものである。中国史書(正史)は古くから日本でも読まれてきた。『史記』『漢書』『後漢書』の三史が、準えや例示として軍記や説話など様々な日本の作品に取り込まれてきた事例が見える通りである。室町期に入ってからは史書それ自体が学問・考察対象となり、『史記抄』『漢書抄』などの注釈書が編まれるなどして理解が深められていく。さらに時代が下って江戸初期になると、儒学者の林鵞峰が『史記』~『元史』までの二十一史を通読しており、徐々に三史が拡大して二十一史が一括りとして享受されるようになっていく流れが浮かび上がる。 この中国史書享受の流れの中で注目すべきはやはり、急速に学問が発展する室町期である。この時期では三史に重きが置かれていたのは間違いないが、とはいえ、それは当時二十一史が読まれていなかったということではない。たとえば『史記抄』では、参考文献として『元史』までの正史の名が挙がるように、二十一史の存在は意識されていた。しかし、その享受の実態についてはいまだ明らかにはなっていない。 正史を読む上では日本側の置かれた状況、事情が影響していたと考えられる。実際『史記抄』や『漢書抄』では日本関連叙述が散見され、中国を理解するのと同時に日本の位置付け、捉え直しが図られている。それは、中世という時代及びその時の学問の有り様と無関係ではあるまい。自国を正しく位置づけるためにこそ、比較対象としての中国の正史、歴史に対する理解を深めることが必要になったのだ。そこで本研究課題では、室町期の学者達における二十一史に対する理解の深まりの過程を整理し、その背景に存在する彼らの歴史認識、それを支える学問事情を明らかにする。 そして、その成果を以て、自身が長年手がけてきた「日本における三国志享受の通史的把握」の相対化を図ることとしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題遂行の1年目、着手の年ということで、まずは研究の基盤作りにつとめた。すなわち、資料の収集、データ整理といったことにつとめ、またそれらを活用するための環境作りも行った。主には室町期の日記内に見える漢籍受容の様子を確認したり、室町期の漢籍教授に関する先行研究を集めたりといったことを行った。それにあたっては、学生補助員の力も借りた。これは本研究課題をスムーズに進めると同時に、補助員の資料整理のスキルを磨くことにも繋がり、研究を将来を支えることにもなると考える。 実際に形にしたのは2つである。1つは「『庶軒日録』小考―季弘大叔の学問事情―」という論で、愛媛大学日本文学ゼミの公式サイトにウェブエッセイとして発表した(2024.3.12)。ここでは室町期の五山僧、季弘大叔の記した日記、『庶軒日録』内の二十一史享受に関連する記事を抽出し、それらの特徴を探った。中でも軍記享受との関係性が窺えることに着目し、この点について論じた。漢籍が他の領域とも密接に関わる問題であったことを示すこととなった。またこの論をネット上に公開したのも、成果公開の意味では大きいと考える。 もう一つは「『小夜の寝覚め』が語る「今」―先例に裏打ちされる主張―」と言う論である(愛文59,2024.3)。こちらでは一条兼良が日野富子に宛てて作成した文章内に見える漢故事を検討することから、兼良における先例の用い方、先例への意識を探った。兼良の影響を受けた学者も多いことから、そのネットワークを明らかにすることにも繋がった。 この2つをあわせることで、室町期における学者達の漢籍への接し方の一端を垣間見ることができたかと思う。こういった形で、今後も室町期に生まれた記録類、作品の中で言及される中国史書、ひいては漢籍について検討をし、それらの積み重ねによって、当該時期における学問事情を詳らかにしていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは昨年度に続き、室町期の諸記録・文献内に見える二十一史関連の記述の抽出及びそのデータの取りまとめを行う。そこでは学生補助員にも協力してもらい、その作業のスピードアップ化をはかることとする。特に今年度は注釈書内で二十一史を用いた記述をフォーカスしていきたいと考えている。注釈書間で類似する叙述が共有されているような現象を見出すことができれば、そこから当該注釈書の作成者同士の関係性が浮かび上がってきて、注釈書だけの問題に留まらず、室町期の学者間ネットワークという問題を考えるところにまで到達するの推論が立てられる。 前年度、一条兼良周辺に目を向けたこともあり、その成果を活かしつつ、さらに発展させていくためにも、兼良とその近辺の注釈書を中心に行うのがより有効となってくるだろうか。兼良の同時代、後世の学者たちへの影響は改めて言うまでもないことだが、それを改めて二十一史との関係性から確認することで、先行研究での主張を補強することにもなるに違いない。 学会や研究会にも積極的に参加して、そこであらたな知見を得、それをまた自身の研究に取り込んでいきたい。個の中で完結しない、他者とも共有可能な研究成果を導き出していくことを目指すことができればと思う。 また、本研究課題3年度に実施を計画しているシンポジウムについて、開催の可否も含め、協力予定者にも判断を仰ぎつつ、検討を進めていきたいと考えている。これに限っては自身の思いだけでは進められないところがあるので、連携をはかっていく必要がある。 本研究課題は個人で行っているものではあるが、周囲との協同も不可欠である。そこを重視しながら、研究を遂行していく所存である。
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