研究課題/領域番号 |
23K00282
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
位田 将司 日本大学, 経済学部, 准教授 (80581800)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 改造社 / 新カント派 / 価値哲学 / 現象学 / マルクス経済学 / 超越論的主観性 / 横光利一 / 日本浪曼派 / ハインリヒ・リッケルト / 円本 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は1910年代から30年代にかけての改造社と新カント派の哲学、その中でもハインリヒ・リッケルトの価値哲学との関係を理論的及び実証的に研究するものである。改造社が企画し販売した所謂「円本」は、文学テクストを「1冊=1円」という標準化された価値体系に組み込む試みであった。この試みを支えた理論的な基礎を、当時改造社と関わりがあり、日本の人文社会科学の分野に強い影響を与えていた、ハイリヒ・リッケルトの価値哲学(文化哲学)から考察する。また同時代において同じく文学の商品化に強い影響を与えていた、マルクス経済学との接点もそこに見出していくこととなる。
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研究実績の概要 |
雑誌『東洋学術研究』の特集「近代日本における価値哲学者の群像(最終回・5)」に論文「横光利一における「唯心論」と「唯物論」──「機械」をめぐって──」を発表した。この論文は雑誌『改造』に発表された横光利一の小説「機械」(1930年)が、これまでの研究では「新心理主義」のテクストとして見做されてきたものを、新カント派と現象学における「主観性」を問題化したテクストであることを明らかにしたのである。ここでは新カント派の哲学者であるハインリヒ・リッケルトや現象学のエトムント・フッサール、そしてそれらの影響の下にあった三木清と横光利一との理論的な関係と、それが小説「機械」に与えた影響を論じている。 またこの論証過程で、小説「機械」に現れている理論的な影響は、新カント派や現象学を経由しながらマルクス主義及びマルクス経済学の理論にも触れていることを証明した。新カント派や現象学が明らかにしている「主観性」の構造が、マルクス主義の「弁証法的唯物論」の理論と構造的に類似する部分があり、横光は新カント派や現象学の「主観性」をめぐる理論を摂取する中で、同時に「弁証法的唯物論」を理論的に理解するようになったのだ。この「主観性」と「唯物論」の問題が色濃く表れているのが、雑誌『改造』に掲載された小説「機械」ということになる。 この論文によって雑誌『改造』に新カント派と現象学の理論的影響を受けた小説が掲載されていることを再確認し、しかもこの小説「機械」は三木のような現象学の立場からだけではなく、春山行夫のようなモダニズムと詩論の立場からも、そして保田與重郎のような「浪曼派」の文学者からも注目されており、しかもその注目が理論的には、新カント派や現象学の「主観性」の問題と重なっていたことを明らかにした。この成果によって、雑誌『改造』の新カント派との関係を探るうえで、調査の範囲がより具体化されたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
改造社の雑誌『改造』に掲載された横光利一の小説「機械」が、新カント派の哲学の理論的な影響の下で創作されたものであることを、論文「横光利一における「唯心論」と「唯物論」──「機械」をめぐって──」によって、理論的にも、また実証的な側面でも論証することができた。またこの論文は、学術雑誌『東洋学術研究』の特集「近代日本における価値哲学者の群像(最終回・5)」に掲載することができ、新カント派の価値哲学を研究する専門の研究者と学術的な交流をすることができた。このような新カント派哲学を専門とする研究者との交流は、日本近代文学と新カント派との理論的な交流を、文学研究側からの分析のみならず、哲学研究者の分析と合わせて検証することが可能となり、本研究における資料調査と理論的分析の客観性を確保することができるようになったと考えられる。このように、雑誌『改造』と新カント派哲学との関係性を調査する上で、新カント派哲学を専門とする研究者と理論的な交流を得られたことは、同時代の文学と哲学の交流を考える上でも、意義のあるものである。 以上のような新カント派の、特に「価値哲学」を専門とする複数の哲学研究者との交流は、創価大学の伊藤貴雄教授を中心として、これからもさらに研究交流を深めていく予定である。文学研究者として、伊藤教授を始めとした新カント派哲学に関する研究成果に触れる機会が確保されたことで、本研究が目的とする1910-30年代の日本文学と新カント派哲学との関係性を、理論的にも実証的にも分析する研究環境が着実に整備されてきたといえる。文学研究と哲学研究の交流によって、日本文学と新カント派に対する新たな研究のアプローチが可能となるのみならず、新カント派の研究者から本研究の成果を閲読・分析されることにより、さらに客観的な研究成果を公表できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究の推進方策で重視する点は、改造社と新カント派哲学の関係を実証的な側面から調査することである。雑誌『改造』の記事にある新カント派に関する記事の収集は継続しているが、この記事の実証的な分析をおこないたい。その中でも特に、改造社と関係が深かった新カント派の哲学者と京都学派の哲学者の実証的な調査を予定している。雑誌『改造』には桑木厳翼を始めとして、「文化哲学」や「価値哲学」の哲学者が評論や論文を書いているが、これらの記事が同時代に掲載されていた文芸評論や小説とどのような理論的な関係にあったのかを実証的な側面から解明する予定である。また、『改造』に掲載された新カント派で「価値哲学」のハインリヒ・リッケルトの論文の意義及び、雑誌に掲載された意味を調査したいと考えている。 さらに改造社と強いつながりのあった、横光利一と新カント派の哲学者とも重なり合う、京都学派の哲学者との関係性も実証的に調査するつもりである。これまでの調査で横光は、三木清や谷川徹三といった、西田幾多郎を中心とした京都学派の哲学者と理論的な交流をおこなっていることが判明している。この判明した事実に対して、改造社をめぐる本研究の調査を媒介とすることで、実証的な側面からも考察したい。横光の文学理論や小説には明らかに京都学派の理論的影響を受けたものが存在し、本研究はこれまでそれを新カント派との理論的影響と共に理論的側面を中心として明らかにしてきた。そして、ここではそれに加え、雑誌『改造』と横光の関係を主に実証的な側面でさらに明らかにすることで、横光と新カント派及び京都学派の哲学者たちとの関係を、実証的及び理論的な側面から具体的に解明するつもりである。これによって『改造』と新カント派の関係、そして横光と『改造』、新カント派及び京都学派との複雑な関係性を明るみに出すことができるようになるだろう。
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