日本人とキリスト教との関係を追求することを生涯のテーマとした遠藤周作の晩年の歴史小説や評伝『王の挽歌』『鉄の首枷-小西行長伝』『男の一生』およびその関連作品には、戦国武将として戦いの中に生きねばならない主人公の心の内に流れる美しい音楽や、変転する世とは対照的に「心の故郷」「変わらぬもの」として流れつづける〈河〉などのモチーフによって、日本人の宗教性が表現される。本研究では、作中人物の心の内にリフレインされる音楽が遠藤文学における永遠性の志向との接点となっていること、すなわち小説(言語芸術)の枠組を超えたところにある世界を顕現させる装置としての音楽(時間芸術)の役割を明らかにする。
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