研究課題/領域番号 |
23K00346
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02020:中国文学関連
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
松浦 智子 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (40648408)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 明代内府 / 彩絵小説 / 視覚文化 / 列国志伝 / 西遊記 / 楊家将 / 岳飛 / 勧戒書 / 通俗文学 / 彩色絵図本 / 識字層 / 書籍文化 |
研究開始時の研究の概要 |
明代後期、民間出版界の勃興に伴い、従来書籍化される事のなかった通俗文学が絵図付き形式で大量に出版された。これに連動して、明内府でも①彩絵『出像楊文広征蛮伝』、②彩絵及び着彩『大宋中興通俗演義』、③彩絵『全像金字西遊記』、④彩絵『春秋五覇七雄通俗演義列国志伝』という通俗彩色絵図本が制作・受容された。本研究では絵図という視覚文化が「読書」に与えた影響を重視する立場から、①~④と類似の体裁をもつ彩絵本や内府絵図入刻本、明内府の絵画資料、演劇資料等を用いて、三年をかけて①~④の制作・受容の様態を考察する。これにより大きくは、明後期の新興「読書層」の出現がもたらした社会構造の変化の一部を明らかにする。
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研究実績の概要 |
2019年度採択若手科研課題「明内府制通俗彩絵本から見る近世中国通俗文学と視覚文化の関係」を踏まえた本研究は、明内府制の①彩絵『出像楊文広征蛮伝』、②彩絵『大宋中興通俗演義』、③彩絵『全像金字西遊記』a本b本、④彩絵『春秋五覇七雄通俗列国志伝』を、明宮圏域の絵図本、演劇他の資料を用いて検証し、その制作・受容の様態を明らかにしようとするものである。 今年度は、まず明宮圏域で制作された絵図白話勧戒書群に着目し、①~④の制作背景の析出を試みた。結果、相互に繋がりを持つ陽明学派の士大夫が政治的意図を持って制作した勧戒書が題材・内容等の面で①~④と繋がりを持っていたとの新知見を見いだし、それを6月にYALE大学の国際学会で口頭発表した(「明代内府繪圖本初探:陽明學、繪圖白話勸戒書與彩繪通俗小説」)。 同時に、基礎研究の少ない④の検証を進めるべく、その制作年代、場所、基づいた版本等を確定する書誌検証を行い、11月に台湾嘉義大の国際学会で口頭発表した(「彩繪《春秋五覇七雄通俗演義列國志傳》的初歩探討」)。これを踏まえ、『列国』関連の平話、内府雑劇、そして明内府圏域で制作された絵図白話女教書、勧戒書などが、内容・絵図面で④と相互に連環しているとの新知見を析出し、12月頭の台湾中央研究院の国際学会で口頭発表した(「手鈔彩繪《春秋七雄通俗演義列國志傳》與其周邊繪圖本」)。その後、12月中旬の中国古典小説研究会では、弘陽教の絵図宝巻等を用いる事で明内府の平話、内府雑劇と②③④の内容や受容者が重複していた事を指摘した(「明内府製の手鈔彩絵本/経典の系譜:手鈔彩絵小説との関係から」)。 この他、9月には③の受容方式を述べた論文「明代内府の絵図本と視覚文化について―西遊記の彩色絵図本を中心に」を発表し、24年3月には①と密接な関連を持つ楊家将の蘇州版画について原稿を提出した(24年夏出版予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
課題一年目の23年度は本務校の研究休暇期間にあたり、東京大学東洋文化研究所で私学研修員として一年滞在する資格を得ていたため、東京大学の漢籍や大型データベースを使いながら、本務校の業務のない状態で集中して研究に取り組むことができる環境にあった。 結果、広島の海の見える美術館、蓬左文庫、京都大学人文研図書館、伊勢神宮文庫、台湾故宮博物院、台湾中央研究院にて文献・文物調査を行うことができた他、アメリカでの学会発表一回、二回に渡る台湾での学会発表、国内での学会発表一回を実施することができた。そこで得た調査結果や、学会での意見・情報交換により、新たな彩絵本の情報(オークション出品情報他)を複数入手したこともあり、これまで未着手状態にあった④彩絵『春秋五覇七雄通俗列国志伝』の調査やその他の検証が大幅に進展した。その成果は、上述の如く四つの学会報告に繋がったほか、二本の論文として結実した。 また、これらの作業のなかで④の所有者とも連絡を付けることができ、今後④のさらなる研究の進展が見込める可能性が高くなった。さらに、上記の研究作業で得た情報は、①~④の検証に大きく裨益するものであり、その一部は24年7月に参加予定の北京大学での学会で報告予定である。 上記の事柄を総じれば、研究は当初の計画以上に進展していると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、研究休暇期間にあたる課題一年目(23年度)には、本研究に関わる諸資料の調査を蓄積できた他、その複印資料も多数入手することができた。さらに、台湾故宮博物院や中央研究院の諸専家たちと新たに研究上の繋がりを持つことができた他、④の所有者との連絡を付けることができた。そこで、24年度には、これら蓄積した資料群や新たな研究上の繋がりなどを用いて、④の更なる文献調査と、①~④の周辺彩絵本/絵図本資料の検証を網羅的に進めて行く予定である。 その結果は、まず24年7月の北京大学での学会で報告予定であるが、その際、ビザなどの状況が許せば、同所での学会発表終了後に、コロナなどの影響でこれまで実見がかなわなかった北京大学図書館所蔵の③彩絵『全像金字西遊記』(別名『唐玄奘三蔵法師西天取経全図』)の調査を行う計画である。 また、その調査結果は、23年度に得た教派系宝巻の情報と密接に関わることが予想されるため、24年度の後半は、明内府と関係の深い教派系絵図宝巻や彩絵経典等のさらなる調査を集中して進めていく予定である。
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