研究課題/領域番号 |
23K00366
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂内 太 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60453990)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | アイルランド演劇運動 / 『キャスリーン・ニ・フーリハン』 / アイルランド演劇 / 身体表象 |
研究開始時の研究の概要 |
19世紀末からアイルランド自由国の成立に至る1922年の時期のアイルランド演劇に関して、重要な戯曲の作品分析を行うと共に、当時の上演資料や新聞雑誌の劇評、また、日記や回想録を含む同時代人による文芸作品の記述や、文化政策に関する資料などから、諸作品の初演時の上演と劇場環境、観客による受容傾向の再構成を試み、上演と観客の観劇体験の実際について検証する。
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研究実績の概要 |
本研究は、19世紀末からアイルランド自由国の建国に至る時期のアイルランド演劇の上演と受容の実際を探求するものであるが、本年度は先ず20世紀初頭のアイルランドにおける演劇運動での象徴的な位置を占めるW・B・イェイツ、オーガスタ・グレゴリーによる戯曲『キャスリーン・ニ・フーリハン』の受容を検討した。当該作品は、同時代の愛国運動のイコンとなったモード・ゴンが主役を演じて、1902年4月2日にダブリンの聖テレサホールで初演された後、演劇運動の中心となったアビー劇場では、1904年12月27日のこけらおとし作品として上演されて以来、対英独立闘争である復活祭蜂起で上演がキャンセルされた1916年4月まで、ほぼ毎年のように上演され、その回数は同劇場では少なくとも121回、同時期の国内外ツアーでは、少なくとも245回に及び、新たな国家像・国民像の創出に大きく貢献していたことが改めて浮き彫りになった。また、今世紀に入ってからは、現在までの24年間で、同劇場での上演は、プロの俳優によるリーディング公演と、セミプロ劇団による上演の僅か二回に留まるものの、イェイツと同世代の建築士・劇評家であるジョーゼフ・ホロウェイが初演時に評価したアイルランド人の生活を描くリアリズムから、神秘的な飛躍に繋がる変容の物語が、現代の劇作家コナー・マクファーソンとマリーナ・カーの戯曲に受け継がれていることを確認すると共に、単なる好戦的なナショナリズムではない、個々人の相互扶助による精神変容の問題に、より持続的な影響力があることを明らかにした。また、19世紀末の政治的分断と衰退の時期に、文学や演劇の中に国家と国民の独立の原動力を見出した知識人たちの活動が活性化する過程について基礎的な文献調査を行い、演劇運動の萌芽的な諸集団の動向を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度は、20世紀初頭の演劇運動で主要な役割を果たしたW・B・イェイツ、オーガスタ・グレゴリーによる戯曲『キャスリーン・ニ・フーリハン』を取り上げて、同時代での作品受容と、同作品が以後の演劇作品に及ぼした主たる影響を分析して、作品に内在する諸テーマのポテンシャルについて検討したが、その成果を、ファシリテーターを務めた日本イェイツ協会でのシンポジウムで発表し、同分野の専門家達から意見やアドバイスを受けることで研究が捗った。 また、アイルランドにおける海外研究協力者(ノートルダム大学ダブリン教授デクラン・カイバード)から研究へのフィードバックを得られたことで、リサーチの方向性が明確化した。今後の研究の推進に関しても、持続的な研究協力が得られることになっている。 第二年度の計画推進に向けた基礎資料の収集が捗り、先ず20世紀初頭の演劇運動に関わった演劇人、文化人たちの作品集、エッセイ集、記録文学としての文献の検討を始めることができた。また、W・B・イェイツやオーガスタ・グレゴリーと演劇運動を共にしつつも、異なる演劇観を抱いていた劇作家J・M・シングの戯曲集や散文集、また、この劇作家が同時代の農民や市民を撮影した写真集、シング作品を分析した諸研究、伝記文学などの収集と検討が順調に進んでいる。また、イェイツ、グレゴリー、シングの創作を実際面で支えた多くの演劇人や劇場運営者、パトロンたちを巡る書籍の収集と検討も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、本研究の第二年度には、二つの課題を掲げて研究を進める。先ず、19世紀末に生じた演劇運動の萌芽的な諸集団について調査を進め、多様な演劇観を抱いていた同時代の知識人・演劇人の動向について明らかにする。演劇運動の目覚ましい最初の兆しは、アイルランド文芸劇場(The Irish Literary Theatre)として結実した、一握りの知識人たちの私的な繋がりであったが、その後の諸団体との関係や演劇人の異動・交流は複雑であった。この演劇人による交流には、イギリスによる植民地支配下にあったアイルランドでの活動資金を確保する運動や実際の上演を準備する具体的なプロセスが含まれている。この時期の演劇運動の実際について明らかにすることが当該年度の課題の一つである。 また、第二の課題として、20世紀初頭の演劇運動の中で、好戦的ナショナリズムではない演劇観を体現した劇作家としてのJ・M・シングに焦点を置き、特異な貢献をしたシング作品の内実と、同時代における作品受容について明らかにする。これによって、当該時期の演劇運動が決して対英独立運動としての一枚岩ではない多様な活動であったことを明らかにする。 初期演劇運動の諸団体に関する研究と、J・M・シング作品とその受容を巡る研究成果を待って、同時代の演劇の中心的な役割を担ったW・B・イェイツ、オーガスタ・グレゴリーの諸作品とその受容について比較検討する。これらの調査・研究については、アイルランド国立図書館や関連図書館での草稿研究や海外研究協力者への聞き取り調査も視野に入れるが、現在、急速に進んでいる円安によって現地渡航が難しくなった場合には、ファクシミリ版資料を収集・検討するなどの代替措置を講じる。
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