研究課題/領域番号 |
23K00381
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 元状 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (50433735)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 翻訳の詩学 / 翻訳 / 世界文学 / 英語文学 / モダニズム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は「翻訳」という営為のグローバルな越境性の観点から、モダニズム期の「英語文学」全体の総合的な検証を試みるものである。(a)アーサー・ウェイリー、(b)スコット・モンクリフ、(c)コンスタンス・ガーネットなどの翻訳者たちが生み出した「英語で書かれた外国文学」が、モダニズムと呼ばれる正典的な「英語文学」の星座のなかでどのような可能性を帯びていたのかを、「翻訳の詩学」の観点から精査していく。
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研究実績の概要 |
本研究は「翻訳」という営為のグローバルな越境性の観点から、モダニズム期の「英語文学」全体の総合的な検証を試みるものである。(a) アーサー・ウェイリー、(b)スコット・モンクリフ、(c)コンスタンス・ガーネットなどの翻訳者たちが生み出した「英語で書かれた外国文学」 が、モダニズムと呼ばれる正典的な「英語文学」の星座のなかでどのような可能性を帯びていたのかを、「翻訳の詩学」の観点から精査していく。 (a)令和5年度は、The Tale of Genji, 6 vols (1925-33)を中心に、アーサー・ウェイリーの「ノスタルジーの詩学」の研究に従事した。本年度はいくつもの学会で発表を行ったが、そのなかでももっとも重要なのが、私が企画および司会を担当した日本英文学会第95回全国大会の特別シンポジアム「翻訳から生まれる文学研究ーー英語文学を超えて」での発表「アーサー・ウェイリーの「翻訳の詩学」――紫式部『源氏物語』A・ウェイリー版毬矢まりえ+森山恵姉妹訳をめぐって」である。日本語から英語、英語から日本語という「再翻訳」のプロセスにおいて、ウェイリーの「ノスタルジーの詩学」が毬矢・森山にも感染していく様を分析した。 また「翻訳」という観点から、英語圏モダニズムの重要テクストである『ダロウェイ夫人』を分析する研究発表を行なった。1920年代のウルフの批評集『一般読者』は、英語圏の世界文学空間が、いかに翻訳に依拠しているかを明らかにしているが、この批評集と小説を合わせ読むことで、彼女の批評が創作と切り結ぶインターテクスト性について考察を行なった。 「翻訳」という視点は、英語圏のみならず、日本の翻訳文学の理解をも促進する理論的観点を提供してくれる。この観点から、私は西脇順三郎の詩と詩論に関心を抱くようになった。西脇もまた英語で同時代の世界文学空間に参与したモダニストであったからだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本英文学会第95回全国大会の特別シンポジアムで「翻訳から生まれる文学研究ーー英語文学を超えて」というパネルを企画するチャンスをいただけたことが、私のプロジェクトにとって幸先の良いスタートを提供してくれた。私の研究発表は、「紫式部『源氏物語』A・ウェイリー版毬矢まりえ+森山恵姉妹訳」を「翻訳の詩学」の観点から検証するものであったが、それはモダニズム期のイギリスに端を発するウェイリーの「ノスタルジーの詩学」が、現代の日本という別の時代と別のコンテクストにおいても重要な時代感情として力を持ちうることを明らかにすることになった。 この「翻訳の詩学」の歴史性と超歴史性=回帰性という視点は、本研究のパースペクティブを広げるという点で、重要な役割を果たした。英語圏の翻訳文学のみならず、日本語圏の翻訳文学を視野に収める必要に改めて気付かされたからだ。モダニズム期のイギリスを経験した西脇順三郎への私の関心は「紫式部『源氏物語』A・ウェイリー版毬矢まりえ+森山恵姉妹訳」の考察から生まれた大切な副産物である。 しかし、パースペクティブを広げることは長期的には重要であるが、他方短期的には、アウトプットの生産性に影響を及ぼす。本年度は一年目ということもあり、学会での口頭発表に力を入れた。研究自体は進んでいるものの、そのせいか、論文の執筆に十分な時間を取れなかったことが心残りである。また本年度は校務が忙しく、研究発表やアーカイブ調査など、海外に出張できなかったことも残念である。この遅れを残りの研究期間でなんとか取り戻したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、年度ごとに明確な研究対象と目的を持っている。予定通り、(b)令和6年度は、Remembrance of Things Past (1922-1930)を中心に、スコット・モンクリフの「メランコリーの詩学」の研究に従事する。 念願の海外出張に二度出かける予定である。まず6月にリーズ大学で開催されるBritish Association for Modernist Studiesの国際学会Ephemeral Modernismsに参加し、口頭発表を行う。またこの機会を活かして、マンチェスター、リバプールにも足を伸ばし、図書館や美術館でリサーチを行う予定である。 二度目の海外出張は、10月である。25TH GRAHAM GREENE INTERNATIONAL FESTIVAL 2024に参加し、招待公演を行うことが決まっている。この出張に合わせて、パリの国際学会に参加しようと考えている。モンクリフが訳したプルーストについても図書館や美術館でリサーチを行うつもりである。 以上、二度の海外出張を通じて、学術的な見識を深めるとともに、世界中の研究者たちと交流を行いたいと考えている。また今年度は、口頭発表した内容を学術論文にまとめていきたい。
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