研究課題/領域番号 |
23K00436
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大森 雅子 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (90749152)
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研究分担者 |
宮川 絹代 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (40757366)
北井 聡子 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 准教授 (40848727)
浜田 華練 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70964469)
安岡 治子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (90210244)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 隠遁者フェオファン / シリアのイサアク / ドストエフスキー / ブルガーコフ / ブーニン / コワレフスカヤ / カルサーヴィン / フロレンスキイ / ロシア文学 / ロシア宗教思想 / ミハイル・ブルガーコフ / ソフィア・コワレフスカヤ / イワン・シメリョフ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、これまでロシアとそれ以外(西欧)を差別化する最たるものと見なされてきた「個」の概念とその表象について、批判的に再検討することを目的とする。従来、全体や普遍的なものとのつながりにおいて個別のものの存在意義を見出す思想的傾向は、ロシアの精神文化に特徴的なものとされてきたが、近代ロシア文学では、「全体」と「個」の相克が描かれることが少なくない。本研究は、ロシア思想における「個」概念が、東西キリスト教共通の源泉である教父思想から西欧思想を経て、近代ロシア宗教思想へと至る流れの中でどのように構築されてきたかを解明した上で、近代ロシア文学が表象した多様な「個」や「主体」の諸相を明らかにする。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、各自が「個」(リーチノスチ)を巡る存在論に関して個別課題に取り組みつつ、オンライン会合で成果を共有した。また、研究協力者として新たに、杉谷倫枝、細川瑠璃、畔柳千明、小野成信が加わった。 本研究課題において、浜田と安岡は、「個」を巡る問題の思想的側面からの検討を担当している。浜田は、正教的伝統とロシア宗教哲学の結節点としてのロシア修道文学に着目し、19世紀ロシア修道文学を代表する著作家・思想家である隠遁者フェオファンを対象に、修道思想における「世界」と「個」との関わり方について研究を進め、安岡はドストエフスキー作品の「キリストの楽園」という表象において語られる「個」の在り方について、正教思想からの影響という観点からいくつかの作品やメモを詳細に検討することにより明らかにした。また、2023年8月の東方キリスト教学会年次大会で、ギリシア教父研究の分野で活躍する若手研究者の山根息吹氏を招いて、シンポジウム「東方キリスト教における〈個〉の思想」を実施した。 大森、宮川、北井は、20世紀ロシア文学における「個」の表象について研究を行った。大森は、ブルガーコフの諸作品に見られる「普遍救済論」のテーマを取り上げ、創作時期によって変容が見られる要因について分析した。宮川は、イワン・ブーニンにおける存在の問題について、存在を表す動詞の翻訳の対比によって人間の存在の表象を明らかにするとともに、狂人などの描写に伴う涙の表象を分析し、嘆きの中で、存在の救いではなく、ヴィジョンを求めるブーニンの独自性を明らかにした。北井は、コワレスカヤ作品を分析する前段階として、主にフレンチフェミニストたちの理論研究を行った。女性の主体や欲望の在り方とは、西欧の男性的主体とは別の「浸透し合う主体/個」であると主張していた彼女たちの理論を元に、コワレフスカヤ作品における主体の在り方について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は当初の予定通り、各自がそれぞれの研究課題に取り組み、学会発表や論文執筆を行った。本研究課題に関わるメンバー全体の会合としては、2023年8月と2024年3月の2回オンライン研究会を開催することで、ロシア的「個」概念に関する研究成果を共有し、各自の研究に活かすことができた。 8月に実施した研究会では、思想研究班の浜田と安岡がそれぞれの研究成果を報告した。そして、8月23日に主催したシンポジウム「東方キリスト教における〈個〉の思想」(第23回東方キリスト教学会年次大会)において、浜田はロシア修道文学における「シリアのイサアク」の影響について、また安岡はドストエフスキーが理想とした「キリストの楽園」について研究発表を行った。 3月の研究会では、研究協力者の細川が、リトアニアで開催された国際学会での発表テーマ(「カルサーヴィンの人格概念とフロレンスキイの形概念の比較」)について報告し、メンバーの間で議論を交わした。
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今後の研究の推進方策 |
ロシア的「個」概念の思想研究については、引き続き、浜田と安岡で連携しながら、正教の教理内で発展した「個」概念、すなわち「プロソーポン」や「ヒュポスタシス」と、ロシア宗教哲学における「個」概念(リーチノスチ)およびロシア文学・美術における「個」の表象とが、どのように連続(あるいは断絶)しているかを検討する。それに際して、安岡はギリシアのテッサロニキにおいてイコン表象や聖人崇敬に関する調査を行い、浜田は、Г. Флоровский "Пути русского богословия" (1936) における、ビザンツ神学からロシア神学への接続と断絶の問題を批判的に検討する。また安岡は、ロシア的「個」の極めてユニークな代表であるゴンチャロフ作「オブローモフ」についても分析する予定である。 20世紀ロシア文学の研究班では、上記の思想研究班の成果を共有しつつ、各自の研究課題に取り組む。大森は、ブルガーコフの自伝的長編小説『白衛軍』に見られる、民族主義と共産主義という「全体」の狭間にある「個」の運命の表象について研究を行う。宮川は、ボリス・ザイツェフの自伝的長編小説『グレープの旅』について、作品分析と先行研究精査を軸に研究を進め、最終的にはブーニン及びイワン・シメリョフの亡命後の自伝的作品における「個」との対比を目指す。3月頃にヨーロッパ出張を検討しているが、準備状況により次年度に持ち越す可能性もある。北井は、コワレフスカヤの戯曲『幸せへの闘争』について研究発表を行い、そこで得られた知見をフィードバックしつつ、年度末までに論考として発表する。 本研究課題の2年目となる令和6年度には、公開のオンラインシンポジウムを開催し、思想研究班と文学研究班双方が同時に研究成果を発表する機会を設けたいと考えている。
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