研究課題/領域番号 |
23K00444
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
大野 寿子 東洋大学, 文学部, 教授 (20397491)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ソルブ / メルヒェン / リューティ / グリム / アイデンティティ / バウジンガー / 絵本 / 民話 / ドイツ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究においては、ネドの当該研究書をメインテクストとし、グリム兄弟『子どもと家庭のメルヒェン集』(1812年)受容の視点から、森という異界の特性を検証し、アールネ/トンプソンの比較民話学的観点から、他のドイツ/スラブ諸地域のメルヒェンとも比較考察する。ネドは「ソルブのグリム」と言われ、グリム兄弟の民族意識とポエジー観に影響を受けていることは先行研究により明らかである。このようなネドの業績検証が、巡り巡って『グリム童話』研究の多角的考察にも寄与しうると共に、日本でほとんど知られていないソルブ文化を紹介する好機となる。
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研究実績の概要 |
ソルブ民族の民間伝承収集とアイデンティティ形成とのかかわりを、パウル・ネドの視点に寄り添いながら検証すべく、ネドが執筆した『ソルブ民話―概説と注釈をほどこした体系的文献一覧』の翻訳を完成に近づけることが、研究初年次(2023年度)の目標であったが、少し遅れている。理由は以下の通りである。 チューリヒ大学資料館に保管されているメルヒェン研究者マックス・リューティに関する貴重資料閲覧が許可され、同大学元教授アルフレート・メセリ氏協力の元、検証を進めた。とりわけリューティとテュービンゲン大学の経験文化学者ヘルマン・バウジンガーとの往復書簡に、ドイツ語圏メルヒェン研究の批判的考察を発見した。今後の研究に関する緊急会合のため2024年3月に渡瑞し、メセリ氏、同大学名誉教授ハルム=ペア・ツィンマーマン氏(リューティの後継者)、40年(1975‐2015年)におよぶドイツ語圏メルヒェン研究の集大成『メルヒェン百科事典』編纂者ハンス=ヨェルク・ウーター氏(元ゲッティンゲン大学)と大野の四者による共同調査と研究会談を、チューリヒ大学にて開催した。同百科事典編纂作業を通じたリューティとバウジンガーの書簡における相互的批判的姿勢、および、民間伝承に対する研究アプローチの(ナチスドイツを経験した)ドイツと(第二次世界大戦をいわば回避した)スイスとの微妙な差異をドイツ語母語話者の協力で検証できたことが大きな成果となった(録音済)。 このように、本研究最終年度に計画していた会合が初年度実施されたことにより、2024年度の研究計画に変更が生じた。しかしながら、チューリヒ大学でのメルヒェン受容に関する研究発表(講演)1本、バウジンガー論考の翻訳1本、および、民話の存在意義と新たなリテラシー構築作業と位置付けた監修絵本『いっしょに楽しむおはなしのえほん』シリーズを2冊刊行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年次(2023年度)は、ソルブ民話の翻訳作業に徹し、その資料閲覧のためにバウツェンのソルブん研究所へ研究出張する予定だったが、チューリヒ大学資料館所収の貴重書へのアプローチ手段の構築が思いのほか早くすすんだため、最終年度(2025年度)に(別研究への橋渡しもかねて)計画していた、チューリヒ大学での研究会合が、2023年度末に実施可能となった。 すなわち、チューリヒ大学のメルヒェン研究者であり、20世紀最も和訳された研究書の著者マックス・リューティとテュービンゲン大学の経験文化学者ヘルマン・バウジンガーとの往復書簡(チューリヒ大学所収)の一部のデータ化が、「本研究のためにだけ」に実施され、チューリヒ大学内のシステムを通じた日本からの閲覧も特別許可されたのである。今後の書簡研究に関する緊急会合が2024年3月同大学にて招集され(渡瑞)、研究協力者であるアルフレート・メセリ氏(チューリヒ大学元教授)、ハルム=ペア・ツィンマーマン氏(同大学名誉教授でありリューティの後継者)、ドイツ語圏メルヒェン研究の集大成『メルヒェン百科事典』編纂者ハンス=ヨェルク・ウーター氏(元ゲッティンゲン大学)と大野の四者による共同調査と研究会談が実施された。往復書簡にみる、同百科事典編纂作業を通じたリューティとバウジンガーの相互的批判的姿勢、および、民間伝承に対する研究アプローチの(ナチスドイツを経験した)ドイツと(第二次世界大戦をいわば回避した)スイスとの微妙な差異をドイツ語母語話者の協力で検証できたことは大きな成果であった。しかしながら最終年度の計画が幸いにも初年度実施されたことにより、2024年度予定していた、ソルブ研究所における資料収集のための時間が捻出できず、ソルブ民話研究書の翻訳作業にも遅れが生じてしまったのである。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度予定してたソルブ民話研究書の翻訳と資料収集のためのソルブ研究所訪問は2024年度に継続作業と研修実施を試みる。また、2024年度に計画していた、ヘルマン・バウジンガーのメルヒェン研究アンソロジーの出版に向けた作業は2025年度への持越しを検討する。あるいは、本来なら本研究最終年度にむけて作業予定だったリューティ/バウジンガー往復書簡に関する検証作業およびその準備が幸いにも2023年度の内に整ったという事実に鑑みて、往復書簡本研究から切り離し、別研究として改めて計画および遂行が可能かどうかの方向性を2024年夏までに決定する。 ドイツ語圏に限らず日本も含めた世界の伝承文学(民話/メルヒェン)の存在意義とその新たなリテラシー構築をも目的とした絵本監修作業は、2024年度も続ける予定である。当該絵本シリーズ『いっしょに楽しむおはなしのえほん』は本研究に着手する以前からかかわっているため本研究成果の主筋ではない。しかしながら、生きる力としてのアイデンティティを育みうる絵本の存在は、子供のためだけでなく、子育て家族や幼児・初等教育といった教育現場(の大人たち)にとっても重要である。特に本シリーズは、所収20話すべてに大人に向けた伝承文学に関する雑学パート(大野執筆)を設けており、民話の新しいリテラシーを提案し続けている。また、絵本には珍しく「はじめに」と「おわりに」を設け(大野執筆)、伝承の継承の新たな形を提案している。本研究の研究成果出版の形を模索する際に、絵本出版で得られた知見が何かにつけ役立つと判断し、今後も当該絵本の監修作業を(いわゆる表裏一体の作業として)続ける予定である。
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