研究課題
基盤研究(C)
本研究は、近代的な翻訳が出現した19世紀末から完訳が完成する1960年までの期間の、日本における中国小説『西遊記』翻訳史を構築することを目的とする。『西遊記』翻訳史の展開を理解する上で重要であると認識されながら、これまでは十分に研究されていない翻訳書に詳細な検討を加え、『西遊記』翻訳史の大きな流れの上に位置づけていくことで、日本における『西遊記』の翻訳が具体的にどのような道筋をたどって発展し、完訳に至ったのかを明らかにしたい。
まず、日本における西遊記翻訳史の起点となる2つの翻訳、『通俗西遊記』および『画本西遊全伝』について、それぞれがどの原本(中国語で書かれた西遊記)や訳本(日本語訳西遊記)を底本としたのかについて、先行研究の再検討を行った。『通俗西遊記』については、文簡本(文繁本と呼ばれる版本をダイジェストしたもの)で通行本である『西遊真詮』を底本とする説と、それに先行する文簡本の『西遊証道書』を底本とする説などがあるが、今回検討した範囲から考えると、通行本『西遊真詮』に近い本文をもつ版本が底本である可能性が高いと思われる。また、『画本西遊全伝』はこれまでも言われているとおり『通俗西遊記』を底本としていると考えられるが、通行本『西遊真詮』を更にダイジェストした十巻本『西遊真詮』もしくはそれに近い版本を参照しているであろう事を指摘した。また、通行本『西遊真詮』と十巻本『西遊真詮』の分量が、文繁本の『李卓吾先生批評西遊記』などを100%とした場合(検討を加えた範囲では)、通行本『西遊真詮』が約76%、十巻本『西遊真詮』が約51%であること、『通俗西遊記』および『画本西遊全伝』は翻訳の段階でさらにそれをダイジェストしており、文簡本『西遊証道書』を基準とした場合、『通俗西遊記』は50~60%の分量に、『画本西遊全伝』は30~44%の分量にダイジェストされていることを明らかにした。次に、原本(通行本『西遊真詮』)を底本として1940年代に西遊記全体を翻訳した西川満訳についての調査を開始した。現在、先行研究の検討や、底本と訳文との比較をとおして、その翻訳の特徴を概ね把握したところである。
3: やや遅れている
日本における西遊記翻訳史の起点となる『通俗西遊記』および『画本西遊全伝』について検討を行った際、各翻訳書が用いた底本に様々な考慮すべき差異があることや、西遊記の版本研究でもさほど重視されて来なかった十巻本『西遊真詮』が日本語訳においては重要であることが明らかになった。そのため、当初研究対象としていた翻訳書のみならず、十巻本を含む底本間の異同についても細やかな検討が必要となり、翻訳書そのものについての調査と並行して行っているため、計画より時間を要している。また、『画本西遊全伝』の電子テキスト作成については、同様の試みが「青空文庫」上でも行われていることが判明し、その完成を待つべきか、テキストを自作するべきか、様子をみているところである。
ひとまず、現在調査中の西川満訳についての論考を完成させる。また、その調査によって浮かび上がった特徴を、西川同様に原本を底本とし、西遊記全体を訳した中島孤島訳、伊藤貴麿訳、安藤更生・小杉一雄訳などと比較することを通して翻訳史における西川訳西遊記の位置づけを行う。比較対象となる翻訳のうち、中島訳、伊藤訳については既に検討済みであり、西川訳の調査が完成し次第比較できるが、安藤・小杉訳については、まだ全体的に目を通した段階なので、こちらについても詳細な検討を行いたい。同時に、原本からの訳ではないものや、原本が不明なものについても調査を始めたい。
すべて 2024 その他
すべて 図書 (1件) 備考 (1件)
https://guanhua.jp/xiyouji_jp/