研究課題/領域番号 |
23K00467
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02050:文学一般関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡辺 愛子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10345077)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ジョージ・オーウェル / 『一九八四年』 / サミズダート文学 / Index on Censorship / ソ連 / 東欧諸国 / 冷戦期 / 文化理論 / 冷戦史 / 実証研究 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題は、20世紀のイギリス作家ジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』(1949)が、冷戦期東西両陣営において政策および文化現象としていかなる役割を果たしどのような影響力を持っていたのかを、歴史的・理論的に解明しようというものである。具体的には本作品が東側に(1)秘密裏に持ち込まれ、(2)翻訳や海賊版が地下出版として普及した経緯を精査しつつ、(3)東側政府が本作を利用して政策形成に役立てた(つまり、虚構が事実を創出した)という仮説を一次史料と書誌をもとに実証する。さらにこれを西側での状況に相対化することで、現代まで増幅した「オーウェル言説」について文化理論的な立場から再解釈を試みたい。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、20世紀のイギリス作家ジョージ・オーウェル(George Orwell, 1903-1950)の最晩年の小説『一九八四年』(Nineteen Eighty-Four, 1949)が、冷戦期東西両陣営において、政策および文化現象としていかなる役割を果たし、どのような影響力を持っていたのかを、歴史的・理論的に解明しようというものである。 一年目の2023年度は、西側では一般的に、全体主義国家をあらわすネガティブな意味で使用されているオーウェルの本ディストピア小説が、冷戦期の東側陣営でどのように受容されていたのかを探ることを目的とした。その際に使用したのが、Index on Censorshipという雑誌である。本誌は、同名の非営利団体によって1972年に刊行され、過去50余年にわたり、世界各地で言論の自由が侵されてきた国や地域の状況を世界に報じてきた。なかでも、冷戦期の共産主義陣営における言論規制の動向は、本誌が創刊時から取り上げていたものである。『一九八四年』は、東側陣営においてもっとも検閲を受けた書物のひとつで、長年、禁書とされた一方、体制に異を唱える者たちの間で政府の検閲を逃れた「非公式な」著作物である “サミズダート文学” として流通していたことがわかっている。そこで今年度は、本作品がどのように一般市民の手に渡っていたのか、それが当局によってどのように弾圧されていたのか、さらに読者の間でどのような影響力を持っていたのかを、Index on Censorshipに記された記事をもとに分析した。その結果、反体制への格好の素材といえる『一九八四年』が、圧政下の人々に現実を知らしめ、体制転覆への「想像の共同体」を構築する糸口となりえたことが解明できた。なお、今回の研究成果は、2024年2月に刊行された『多元文化』第13号に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Index on Censorshipの網羅的調査という一大目標は完了することができた。これをさらに広げて、英文雑誌以外の文献に当たれればさらによかった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は東側陣営における読者の動向を中心に研究した。今後は、東欧の現地語による資料調査に加え、『一九八四年』が政策面で活用されていたかどうかについて解明したい。つまり、ソ連の政策形成者によって翻訳され輪読されていたことが二次資料から判明しており、本作が描く全体主義国家像と東側陣営のそれとの類似点が、これまでに収集した英国公文書館の一次史料に散見する。よって、東側陣営の為政者によって本作が「活用」されていた可能性は十分にあることから、①本作を利用したイギリス外務省の東側陣営へのプロパガンダ戦略を、収集した一次史料から再検証し、②ソ連・東欧諸国の本作への対応を精査することによって、<虚構>である一文学作品が<現実>の政策運営に影響しうることを証明したい。
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