研究課題/領域番号 |
23K00476
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白井 聡子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (70372555)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ダパ語 / 危機言語 / 現地調査 / 言語地図 / 形態統語法 / 記述言語学 / 国際連携 / 地理言語学 / チァン諸語 |
研究開始時の研究の概要 |
ダパ語は中国西南部で話される話者数1万人ほどの小さな言語である。近年、急激な社会的環境変化に伴い、話す人が少なくなってきている。この言語の記録を残すことは、言語学、文化人類学、歴史学などの観点から重要である。しかし、文字がないため、記録するためには言語学的な手法を用いなければならない。近年、基礎的な単語集やその分析、一部の方言の文法などが刊行されつつあるが、全体として調査や記録がまだ不十分である。そこで、この研究課題では、特に、これまで比較研究がされていない形態統語論的特徴に主眼を置き、方言差にも注目しながら、ダパ語の記録と分析を行う。
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研究実績の概要 |
[1] データ収集について、中国・西南交通大学・黄陽准教授の協力により、8月に四川省成都市において現地調査を行った。内容は、成都市に在住するダパ語方言話者へのインタビュー形式による語彙および文法調査である。この時の調査で、本来の調査地である甘孜チベット族自治州へのアクセスおよびインフォーマントとの安定した連絡が困難であることが判明したため、別の調査ルートを開発する必要が生じた。そこで、2月にネパールのカトマンズにおいて予備的調査を行った。カトマンズおよびその近郊にダパ語近隣地域からの移住者が居住しているからである。この時の調査では、ダパ語と密接な関係のあるホルパ諸語の1つであるゲシザ語(ゲシツァ語)の語彙調査を行うことができた。 [2] ドキュメンテーションについて、今年度の調査で得られたダパ語方言語彙をデータ化し、協力者と共有した。さらに、ダパ語方言語彙については言語地図を作成し、分析を加えた上で論文の形で発表した。口頭発表資料の形で発表したものもあり、これらも論文として公開する予定である。また、民話資料のアノテーションを順次進めている。 [3] 形態統語法の解明について、今年度は、類別詞の談話的機能およびアラインメントに焦点を当てた。民話資料から、ダパ語類別詞の機能が談話における個別、特定的不定の機能を担っていることを明らかにし、京都大学言語学懇話会において「ダパ語類別詞の機能拡張」と題して発表した(招待あり)。アラインメントについては、チベット=ビルマ諸語全体と対比して地理言語学的観点からの研究を行い、論集 Linguistic Atlas of Asia and Africa, Vol. 3 において Alignment in Tibeto-Burman を筆頭著者として執筆した。また、同論集において、ダパ語を含むチベット=ビルマ諸語の数詞体系に関する論文を「筆頭著者として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
特に現地調査とドキュメンテーションの面で遅れが生じている。元の計画ではダパ語方言話者が多く居住する中国四川省甘孜チベット族自治州での現地調査を希望していた。これはコロナ禍の影響を脱して現地調査が可能になることを予想して計画したことであったが、現状では外国人の立ち入りが厳しく制限されており、また、少数民族である母語話者との交流活動も監視対象となっていることが分かり、断念せざるを得なかった。このため予定していた範囲の現地調査を行うことはできなかった。現地調査によりデータ収集が十分にできなかったことから、ドキュメンテーションも遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
中国四川省甘孜チベット族自治州における現地調査が困難であることが判明した。将来的に当該地域における調査を自ら行うことが可能になった際には再開する予定であるが、現時点でその水戸市は立っていない。そこで、これに対応するため、当面の間、現地調査の実施場所および対象を変更し、研究方法の軸足をやや対照的研究に移す。具体的には、ネパールのカトマンズ市およびその近郊に居住する甘孜チベット自治州からの移住者の言語を調査する。2023年度の予備的調査で、ゲシツァ語およびムニャ語の流暢な母語話者がいることが判明したため、これらの言語の形態統語法を調査し、過去の調査で得たダパ語のデータと対照することで、相違と共通特徴、および、言語接触の影響を明らかにしていく。また、ダパ語の追加データ収集については、中国国内の研究者の協力を仰ぐ。 ドキュメンテーションについては、語彙データベースを拡充するほか、処理が済んでいない民話資料のアノテーションを進め、公開していく。語彙については言語解釈地図を順次作成し公開する。 形態統語法の解明については、上記のとおり関連言語のデータと対照的研究を行いながらダパ語の特徴を明らかにし、参照文法の執筆を進める。また、言語接触研究を基盤とした地域言語学的、地理言語学的観点からの分析を行う。
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