研究課題/領域番号 |
23K00572
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02080:英語学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
藤原 保明 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (30040067)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 古英詩 / 古英語 / 頭韻 / 韻律 / 音韻 / 通時的研究 / 詩の構造 / 韻律の特徴 / 韻律構造 / 語構造 / 強勢の機能 |
研究開始時の研究の概要 |
8-11世紀頃の古英語で書かれた詩は、1行が左右の半行に分かれていて、同じ子音で始まる強勢音節は左半行に一つか二つ、右半行に一つ含まれる。半行は3音節のものや10音節以上の長いものもある。そのために、古英詩の韻律(=頭韻とリズム)をどのような枠組みで捉えるかが課題となるが、学者の説は多様である。本研究では、半行は単一の語から成る例が多いこと、頭韻は強勢音節の出だしの子音に生じ、単語は強弱を基調とするリズムを示すこと、および、語の境界は強勢音節の直前にあることに着目し、先行研究とは全く異なる独創的で説得力のある古英詩の韻律の枠組みを完成させ、英文の著書として広く世に周知する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、研究代表者が1990年に『古英詩韻律研究』(以下、原著)で提案した古英詩の韻律論を最近の国内外の先行研究を踏まえて、英文の研究書として海外に発信し、英語音韻の通時的研究の進展を図ることにある。そのために、初年度は1990年以降の内外の研究書のうち3点(Kendall 1991, Whitman 1993, Hutcheson 1995)を取り上げ、古英詩の韻律の特徴を捉え、種々の問題点を解消できているか否か考察した。その結果、知見とデータには参考に値するものがあるが、原著の枠組みの妥当性と完成度には及ばないという結論を得た。さらに、原著の英文版の作成に不可欠な英文の草稿に取りかかり、全体の約半分(序章40頁、1章41頁、2章43頁、3章43頁)を仕上げた。それによって、2年度は残りの半分を英訳し、推敲を重ねた上で母語話者の英文校閲を受け、3年度中に英文の研究書が完成する目途が立った。 ちなみに、頭韻はfriend and foe alike, Peter Pan, time and tide のように 強勢音節の出だしの子音を繰り返すことで視覚や聴覚上の印象を強め、記憶しやすくする手法のことである。ゲルマン民族は2千年以上も前から頭韻詩を用いて民族の伝統や歴史を記録し、イギリス人も民族の英雄やキリスト教の聖職者の功績などを古英語の頭韻詩に仕上げ、約3万行が現存している。古英詩の言語研究はかなり以前からなされてきたが、研究代表者の判断では、詩の構造や韻律の特徴を十分に捉えるに至っていない。そこで、研究代表者は従来の韻律論を全面的に見直し、当時の詩人が順守した作詩上の原則や制約を組み込んだ斬新な枠組みを提案した。もっとも、この研究書は日本語で書かれたので、国内では種々の論文や研究書で引用され、評価は高いが、海外でも認知されるように英文版の刊行が待たれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究実施計画では、頭韻の成立に深く関わる複合語と接頭辞付加語の例をなるべく多く収集すること、および、最近の先行研究の主なものを精査し、注目に値する内容・視点・データなどを記録することであった。このうち、複合語と接頭辞付加語については、古英詩のすべての語彙が検索できるコンコーダンスを活用してデータを収集し、興味深い情報を抽出しつつある。一方、先行研究の要約と評価については、研究代表者の原著の枠組み以上の説明力に富むか否かを基準として批判的考察を進めているが、Kendal(1991), Whitman (1993), Hutcheson (1995) の3点については高く評価できる内容ではないと判断した。さらに、本研究の目的は原著の英文版の作成であることに鑑み、英文校閲用の草稿をすでに半分以上作成できたので、残りの半分弱は2年度中に書き終え、3年度の終わりまでに英文版を完成できる状況にある。 ちなみに、頭韻は強勢音節の出だしの子音に生じ、しかもこの子音の直前には語境界があり、直後の接尾辞は無強勢なので、一般に単語全体の強勢型は強弱になりやすい。一方、2つの単語が結合した複合語の最大強勢は最初の構成素にあり、頭韻はその初頭音に生じるが、2番目の構成素にも頭韻が生じることがある。このような2重頭韻は最初の半行に限られるので、この制約は極めて重要なので、未調査の古英詩から新たな例を探しつつある。ちなみに、un-などの一部の接頭辞は品詞によって強勢を受ける場合と受けない場合があり、半行中の頭韻とリズムの実態把握に不可欠な情報が得られる可能性があるので、接頭辞付加語についても、コンコーダンスを活用して新たな語を掘り起こす作業を続けている。
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今後の研究の推進方策 |
古英語の語構造と語強勢の機能はそのまま古英詩の頭韻と半行のリズムに対応する場合が多く、両者は不即不離の関係にあると考えられる。それゆえ、研究代表者が古英詩の韻律の枠組みを新たに作成する際に、古英語の語強勢と機能に基づいたのは正しい判断であった。もっとも、この枠組みは万全ではなく、改良の余地があるので、初年度のみならず、2年度以降の研究においても、古英語の接頭辞付加語と複合語から、語構造、語彙範疇、および語強勢に関する興味深い情報を引き出さねばならない。 同様の方策は古英語の副詞の種類と強勢と頭韻に係る情報にも当てはまる。なぜなら、古英詩の頭韻は頭韻階級の原則に従い、品詞によって優先順位が定められているが、副詞は無強勢の不変化詞と、形容詞に語尾の-eまたは-liceを付加された派生副詞、および名詞の屈折形を副詞として機能させる語などがそれぞれ別の階級に属しているからである。そのために、副詞を下位区分するための基準を新たなデータに基づいて、より精緻なものにする必要がある。 なお、古英語の複合語と接頭辞付加語については、古英詩のすべての語彙が検索できるコンコーダンスを活用すれば、語強勢の型と機能に関するさらなる情報が比較的容易に、かつ豊富に得られる可能性があるので、そのうちの重要な情報を新たな韻律論の枠組みに取り込み、より説明力と説得力に富む枠組みの構築を目指さねばならない。
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