研究課題/領域番号 |
23K00602
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02090:日本語教育関連
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
村岡 英裕 千葉大学, 大学院国際学術研究院, 名誉教授 (30271034)
|
研究分担者 |
高 民定 千葉大学, 大学院国際学術研究院, 准教授 (30400807)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | 接触場面 / リソースとしての問題 / 非同調的相互行為 / アイデンティティ / 社会統合政策 / 言語管理 / 多元的な社会統合 / 逸脱の回収 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、日本国内の外国につながる人々とホスト社会の人々との相互行為から、外国につながる人々がアイデンティティを交渉しながら、人的ネットワークを構築していく方法を調査し、多様性を包摂できる社会的統合に向けた接触場面の新しいモデルを考察することを目的とする。接触場面の自然な相互行為を主なデータとして、逸脱がどのように回収され受容されているか、特に逸脱が意識的に選択され、彼らのアイデンティティの提示となる場合を明らかにしたい。それにより、外国につながる人々のアイデンティティの維持と主流社会との接触の促進という、一見相矛盾した多元的な社会統合の理念の行き詰まりに対する解決の糸口を探っていきたい。
|
研究実績の概要 |
本研究は、日本国内の外国につながる人々とホスト社会の人々との相互行為から、外国につながる人々がアイデンティティを交渉しながら、人的ネットワークを構築していく方法を調査し、多様性を包摂できる社会的統合に向けた接触場面の新しいモデルを考察することが目的である。 1年目にあたる令和5年度では、研究会を通じて接触場面に参加する人々の多様性について考察した。研究協力者のアキバリ氏からは研究中のイラン・中東出身者には3つのタイプがあることが報告された。(a)外国人住民同士が相互扶助をしている場合、(b)日本社会に適応しているホストタイプの2世の場合、そして(c)外国人であることを強調するゲストタイプの2世の場合である。また、同じくミラー氏は相互行為やその中での言語管理の蓄積を繰り返していった結果、外国人カテゴリーから個人化したアイデンティティを提示出来るようになるかどうかが課題になると報告している。 一方、研究分担者の高氏からは「逸脱が相互行為の中で回収される場合」の分類として、(i)ホスト社会の母語話者が外国につながる人々の逸脱を留意しない場合、(ii)ホスト社会の母語話者が留意はするが、肯定的な評価をして問題化しない場合、(iii)外国につながる人々が問題を取り除く管理をしたり、問題をリソースとして活用する場合、が考えられるとした。そして、(ii)と(iii)は連動するため、ホスト社会の母語話者側の調査も必要であることが指摘された。 以上のような考察は、進捗状況の欄で述べるように、3ペアの相互行為分析においても、知り合い関係が構築されている場合には、(ii)と(iii)とが連動して良好なコミュニケーションが実現されていることが明らかになった。ただし、3ペアのうち、2ペアは日本語と英語の複言語コードが容認されており、一般的な事例かどうかは留保する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目はアンケートにより外国につながる人々の逸脱の選択とアイデンティティの提示の概要を捉えることを計画していたが、いくつかの回答からその多様さが目立ったため、量的な調査を一旦中止した。この点については申請時の調査研究の見通しが甘かったと言わざるを得ない。しかし、これにより、もともと調査の主眼としていた質的調査へと早々と方向を修正できたと考えている。 そこで1年目は次の3点について研究調査を行った。 (i)4回の研究会を開催し、研究計画の前提となる接触場面とアイデンティティの概念について検討を行った。また研究代表者の調査方法とは異なる方法で個々の研究調査テーマを掘り下げながら、本科研調査に貢献してもらうことを確認した。 (ii)同調性をめぐる相互行為分析および心理学の文献調査を行うとともに、日本語母語話者同士の「日本語日常会話コーパス」(国立国語研究所)を分析し、知り合い関係では非同調的な相互行為であっても問題化しない柔軟さがあること、そしてそうした分析が接触場面調査にどのような課題を呈示しているかに関して、千葉大学大学院人文公共学府報告書に研究ノートを作成した。 (iii)会話の予備調査として、録画機材を調査協力者に渡して実施する会話収録と会話に参加した調査協力者双方に対するインタビューを3ペア、6名について実施した。親しいネットワークが確立されている相互行為では複数言語レパートリーを駆使することでコミュニケーションを成立させていることが観察され、モノリンガル規範が重視されていないネットワークがあることを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、次の4点について研究を進めていく予定である。 (1)研究会の開催:研究代表者、研究分担者に加えて数人の研究協力者に参加してもらい、それぞれの研究報告とディスカッションを行い、接触場面の新しいモデル構築を検討する。 (2)接触場面会話の収集と相互行為分析:研究代表者のもつネットワークを通じて日本に在住する調査協力者を紹介してもらい、会話収録とインタビューを10ペア程度実施する。研究グループは、会話データの収録にこだわらず、研究の主旨に沿って調査を進める。また、試験的に今年度は、多文化主義政策を実施してきた韓国において、韓国人ホストと韓国在住の外国につながる人々の会話収録とインタビュー調査を行い、韓国人ホストの管理を分析する。接触場面という概念は海外においては必ずしも受け入れられてはいない。複数の社会の調査によって接触場面概念の再検討の材料としたい。なお、3年目にも他の国での調査も行うつもりである (3)社会統合のための言語政策の文献調査:接触場面会話の調査を多元的な社会統合の言語政策につなげるために、海外の国々の文献調査を実施していく。そうした言語政策から、移民に対する人々の態度や意識について分析する。 (4)接触場面と言語政策に関する講演会の開催:接触場面研究と社会統合に向けた言語政策研究の研究者を招き、Zoomによる講演会を行う。それぞれ少なくとも2回ずつ実施したい。異分野異領域の専門家の講演とディスカッションにより、認識の地平を拡げて、接触場面の理論的な再構築へと向けて考察をすすめていく。
|