研究課題/領域番号 |
23K00612
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02090:日本語教育関連
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
王 伸子 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (10233016)
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研究分担者 |
八田 直美 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 特任教授 (20573736)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 日本語教育 / 音声 / 教材 / ナレーション / ボイスミラーリング / 学習者 / ワークショップ / 教材開発 / 音声教育 / 音声教材 / 録音 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、学習者のレベルに配慮した音声教材を完成し、国内外の日本語教育現場の教師に教材と指導法を提供することを目指す。プロのナレーターによる音声素材「ボイスサンプル」は音声表現力の獲得に効果を発揮し、4技能の底上げに有効である。会話教材は数多いが、一定の質を確保した音声教材は少なく、作成が期待されている喫緊の課題である。そこで(A)ナレーションを活用した音声の訓練方法を新たに「ボイスミラーリング」と名付け、その教材と指導法を構築・公開し、音声表現を効果的に訓練する素材として提供する。(B)日本語の環境が十分ではない海外の日本語教師にも効果的な音声指導方法を広める。以上が研究の概要である。
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研究実績の概要 |
2023年度の研究は「ボイスミラーリング」と新たに名付けた、ナレーションを取り入れた日本語教育の音声教材の作成に関してである。その使い方についてのワークショップをタイで実施した。スィーパトム大学を会場に、国際交流基金バンコク日本文化センターの後援で、タイ人や日本人の日本語教師を対象にしたワークショップである。また、教材作成については、ボイスミラーリングする教材の素材を集め、教材を作成した。素材は2種類である。一種類は、プロのナレーターのボイスサンプルであり、これについては、ナレーター個人のホームページやYouTubeにリンクをはり、アクセスできるようにした。また、オリジナルの素材については日本文化を題材としたものを設計し、ナレーターに録音を依頼するための原稿を作成した。過年度に取材した素材は以下の4点である。①青森県弘前市のねぷた祭りの絵師に取材し、ねぷた絵の作成過程の写真を入手。②大阪府堺市の前方後円墳などの古墳群を取材し、原稿を作成。③女子相撲を取材し、男子とは違うアマチュア相撲について原稿を作成。④青森県弘前市田舎館村を取材し、夏の田んぼアート、冬の雪上アートの活動の原稿を作成。なお、これに関する研究について成果の発表もおこなった。昨年度はカナダ・モントリオールで開かれたCAJLE(Canadian Association for Japanese Language Education)の年次大会で発表し、さらにProceedingsも執筆した。現在、CAJLEのウェブサイトで公開されている。また、関連して、これを授業に取り入れた活動について、プリンストン大学の第30回日本語教授法フォーラム(The 30th Princeton Japanese Pedagogy Forum)でも発表した。Proceedings は、ウェブサイトで公開される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナレーションを活用した音声教材を、日本語学習者のために作成するのが当初の目的であり、それについては順調に達成できている。その根拠の一つは、ホームページを作成し、そこで教材を公開できる態勢になったということである。また、従来の教材作成では、プロのナレーター諸氏の規制のナレーションを教材に転用していたが、本研究では、学習者が興味を持てる文化的内容も素材として取り入れ、オリジナルの原稿が作成できている。これは新しいフェーズに進めたという大きな前進である。素材は地方の祭り、大相撲やアマチュア相撲、新しい女子相撲、田植えを芸術的絵画に作り上げた田んぼアート、冬の氷上アート、古代からの遺跡である前方後円墳など、多岐にわたっている。現代は、以前にもまして多文化多言語共生の時代であり、音声言語のアウトプットも、これまでのモデル的規範主義的な音声だけとは限らないのではないかという考えから、自由な概念で作成するが、許容範囲だと考えられるナレーション音声の録音を使用することには意味がある。例えば、アナウンスは情報伝達として規範を守っており、俳優・声優の音声は演技をしながら表現するが、ナレーションはこうした音声表現とは異なっており、実際のコミュニケーション表現に、より近い言語表現であると言えよう。以上のような新しい教材を開発し、それをすぐに使用できるかたちでホームページにアップできるのは重要なことである。実際に、海外の日本語教師から、教材として使いたいので資料や素材を送ってほしいという連絡も受けている。 また、理論的な側面からも、規範的なものだけでなく、現代のコミュニケーションにおいて、William Laboveが言及するヴァナキュラー(vernacular)という研究枠組みで説明できるものとして、さらに進展させることができると実感している。そうした点からも、順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究課題の研究計画の2年目になるので、計画通り、新しい素材の原稿作成と、その録音に取り組む。とくに、素材については、日本と日本文化を学習者に紹介しながら音声のアウトプットを行う練習ができるようなものを集める計画である。そのため、日本国内での取材も必要となる。また、これまでの研究と調査によると、日本語学習者が学習動機として着目するものは、日本のアニメが圧倒的に多いが、次いで日本の武道だと述べる学習者も多い。国際交流基金の機関調査でも同様の結果が出ている。したがって、武道についても素材の取材を実施する予定である。現在の具体的な計画としては、相撲、女子相撲、居合道、合気道を予定している。以上について、すでに取材の対象団体に取材協力の合意も取れているので、原稿作成を実施したい。また、鉄道車内アナウンス、機内アナウンスという素材にも取り組みたい。 また、その原稿を作成して、ナレーターに録音を依頼し、教材化を今年度中にある程度完成させ、学習現場で試用することを予定している。使用する学習現場は、おもに大学の日本語クラスであるが、日本国内だけでなく、海外でも使用する予定である。連絡をとれているのは、アメリカ、カナダ、香港、中国の大学の日本語教師である。その後、効果を検証できるよう、学生について質的観察をおこない、その妥当性を検証したい。 さらに、こうした原稿に使用する日本語文体、語彙について、正しい日本語かどうかだけでなく、どのような場で使用するのかということを予測しながら、現在の日本語の使用実態をW.Laboveも言及しているヴァナキュラーの観点から、広くとらえるということを理論的枠組みとして設定する論文にまとめることを予定している。 さらに、昨年度作成したホームページに、以上の教材をアップし、広く日本語教育関係者、日本語学習者と共有することを目標に活動する計画である。
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