研究課題/領域番号 |
23K00823
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
北條 勝貴 上智大学, 文学部, 教授 (90439331)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | パブリック・ヒストリー / 環境人文学 / 地域の記憶・忘却 / 生態系と総力戦 / 自然観・動物観の変化 / 養狐 / 養狸 / 毛皮獣養殖産業 / 自然観の変化 |
研究開始時の研究の概要 |
1920から30年代の日本列島において、外貨獲得や軍需利用に隆盛を極めた毛皮獣養殖産業は、全土にさまざまな規模の養殖所を生じ、大量のキツネ、タヌキ、イタチ等を養殖、ヒト/人間の前近代的関係を大きく変質させた。しかし現在、そうした産業が展開していたこと自体が忘却され、われわれの自然観にも一種の歪みをもたらしている。本研究では、毛皮獣産業展開の画期となった幾つかの地域で史資料収集・聞取調査を行い、その実態を明らかにする。さらに現地での説明会やシンポジウムの開催、書籍の刊行やデータベースの公開を通じて、〈忘れられた歴史〉の社会への再定着を目指し、ヒト/自然のよりよい関係を実現してゆく一助としたい。
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研究実績の概要 |
初年度は勤務校の役職等の影響や準備不足もあり、予算消化的には充分に進捗していないが、①岩手県滝沢市砂込の旧農林省毛皮獣養殖所跡地(現同県滝沢森林公園野鳥観察の森)、②長野県諏訪郡富士見町の河西養狐場跡地(現町立富士見中学校)にて、幾つかの大きな研究の進展があった。 ①では、指定管理者の株式会社仙北造園、同県教育委員会事務局生涯学習文化財課、同県盛岡広域振興局林務部森林保全課、同市埋蔵文化財センターとの連携により、予備的な表面調査と残存遺構の計測・3Dスキャンを実施、2019年に入手した絵図面に基づき餌の調理用の竈の一部と推測していた煉瓦造り残存遺構が、何らかの保存施設である可能性が高まった。これらをもとに、とくに埋蔵文化財センターと打ち合わせを行い、ある程度の発掘を含む正式な現状確認調査を準備している。また、同県立図書館での『岩手日報』等の網羅的調査により、前稿(「忘れられた〈素材化〉」〈『思想』1183号、2022年〉)発表段階で不明であった諸点が解明、とくに同養殖所の活発な誘致運動の具体相、東北他地域における養狐・養狸事業の展開、そして地域住民に「ドイツさん」と親しまれた養狐を営むドイツ人が何者か明らかになった。 ②では、富士見町図書館、同町立中学校、井戸尻考古館・民俗資料館との連携により、現状の踏査と資料・情報収集を実施した。考古館から提供を受けた戦前・戦中の新聞記事により、河西養狐場の予想以上に活発な運営が明らかとなり、①の「ドイツさん」と連携していた新事実も発見された。また、『長野日報』『信濃毎日新聞』の取材を受け、順次記事も公開、さらなる情報提供を呼びかけている(6月から7月には、現地で成果報告・情報収集目的のイベントも企画中である)。結果、当時訪問したことのある住民から談話も得ることができ、戦前に記録を残した文人たちとは異なる「印象」も判明してきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
勤務校の役職(ソフィア・アーカイブズ館長等)および付属する校務(人事審査委員長等)の繁忙化、当課題採択前に受諾した他の研究課題(6月実施の明治神宮外苑再開発問題のシンポジウム、12月実施の日本文学協会大会シンポジウム、説話文学会シンポジウムにおける各報告)の実施により、岩手県や長野県、その他の地域へ調査に赴く時間が充分取れなかったことによる(ただし日本文学協会大会シンポジウムの報告は「パブリック・ヒストリー」がテーマであり、本研究の成果も一部発表している)。よって秋までの活動は、現地協力者・協力機関とのメール等による打ち合わせ、史資料収集ほか諸準備が中心となり、現地調査は2月から3月に集中的に実施することになった。ただし「概要」で述べたとおり、フィールドにおけるネットワークの構築、および史実解明のレベルでは大きな進展があり、2024年度以降における計画進捗の基盤を整えることができた。なお、現地協力者(富士見中学校)の都合により調査は3月末まで行われたが、その交通費等は科研費から支出できず、自費で賄わざるをえなかった。
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今後の研究の推進方策 |
①岩手県滝沢市砂込の旧農林省毛皮獣養殖所跡地(現同県滝沢森林公園野鳥観察の森)については、現地協力機関に2024年度の調査成果を整理して報告しつつ、地域住民への成果報告会の実施および発掘調査の計画を併せて進めてゆく。この際、現状では周辺の大学(岩手大学・岩手県立大学・盛岡大学)、博物館との連携が図れていないため、これらに協力を要請しさらなるネットワークの構築に努める。また、2023年度に明らかになった諸点については、「旧農林省毛皮獣養殖所の実態拾遺:主に『新岩手日報』を手がかりに」として、『上智史学』69号(2024年11月刊行)にまとめる予定である。 ②長野県諏訪郡富士見町の河西養狐場跡地(現町立富士見中学校)については、すでに2つの新聞記事が出ており(「富士見の『養狐場』情報求む」〈『長野新報』2024年3月3日〉、「富士見の『養狐事業』実態は」〈『信濃毎日新聞』2024年4月9日諏訪版〉)、井戸尻考古館・民俗資料館との連携が進んでいる。同じ枠組みにて、現地近隣に住む環境倫理学の鬼頭秀一氏(東京大学名誉教授)とも協力、6月から7月には、成果を地域と共有しさらなる情報提供を呼びかけるイベントを開催する予定である。 ③その他の地域については、まず、かつて養狸事業で長野・群馬地域のリーダーシップをとった鴇澤家の遺族と連絡が取れており、聞き取り調査の実施を準備中である。また、同県北軽井沢の法政大学村跡地や福島県旧信夫郡(現福島市)は養狐業の拠点であったが、まだ予備調査もネットワーク構築も実施できていないため、これらを少しでも進捗させたい。 なお、5月の東京歴史学研究会大会シンポジウム「『環境』と『生存』」、歴史学研究会大会特設部会「パブリックヒストリーをめぐる探究・対話・協働」ではコメント役を務めることになっており、本研究ともテーマが重なるので、成果を一部共有し重要性を喧伝したい。
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