研究課題/領域番号 |
23K00865
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
高松 洋一 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (90376822)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | オスマン朝 / 図書館 / マフムト1世 / 蔵書目録 / ワクフ |
研究開始時の研究の概要 |
写本研究に際し個々の写本の来歴情報が必須なのは、イスラーム写本についても同様である。世界屈指の質と量を誇るトルコの諸写本コレクションは、大半がオスマン朝時代に寄進(ワクフ)によって設立された図書館に由来するにもかかわらず、各蔵書が具体的にいかに形成され、今日まで伝世したかについては、世界的に見ても研究が乏しい。 本研究は、「オスマン図書館史の黄金時代」と称されるマフムト1世の治世期(1730-54)を中心に、 図書館蔵書の個別データである写本そのものに残されたワクフ認証文言等の書き込みや印影と、メタデータとして同時代に作成された蔵書目録の記録とを比較対照しつつ、蔵書形成の実相を解明する。
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研究実績の概要 |
本年度の研究成果として、ファーティフ・スルタン・メフメト・ワクフ大学の写本作品応用研究センターにおいてトルコ語で「I. Mahmud Doneminde Fatih Kutuphanesi Koleksiyonu(マフムト1世の治世におけるファーティフ図書館コレクション)」と題する発表を行った。この発表は「研究目的」にかかげた、「オスマン図書館史の黄金時代」と称されるマフムト1世の治世(1730-54)に創立された諸図書館の蔵書形成の実相解明の一環として、「研究実施計画」にある通り、2023年度の後半6ヶ月間の特別研修の機会を利用して、これまで全く研究されてこなかったトルコ・イスラーム芸術博物館所蔵のファーティフ図書館の蔵書目録(TIEM Yazma 2216)を調査した結果に基づくものである。 当該蔵書目録は、扉頁に残された両聖都ワクフ監察官の署名と捺印から、マフムト1世によって1742年のファーティフ図書館設された際に作成されたものではなく、1749年にマフムト1世が図書館に蔵書を追加して寄進した際に作成されたことが明らかとなった。当該蔵書目録は、図書館創立時に作成された蔵書目録と比較して、データがより整った形で記載されており、マフムト1世治世期の蔵書数を最も正確に知ることができる。1749年に追加寄進された図書は603点を数えた。 またスレイマニイェ写本図書館においてこの際に寄進された写本の現物と対照すると、1749年に追加寄進された蔵書の多くに、大宰相ティルヤーキー・メフメト・パシャの蔵書印が抹消された痕跡を認めることができた。国家アーカイブズ庁オスマン文書館における調査で1749年ティルヤーキー・メフメト・パシャが財産没収を受けたことをすでに明らかにしたが、ファーティフ図書館に追加寄進された図書は、彼の没収された蔵書を母体としすることを今回実証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年8月から9月、同年10月から2024年3月にかけてトルコのイスタンブルおよびアンカラにおいて史料調査を行った。イスタンブルのスレイマニイェ写本図書館でに現在収蔵されている旧アヤソフィヤ図書館コレクションの全蔵書についてのデータベースを作成することができた。また旧アヤソフィヤ図書館コレクションのうち、トルコ・イスラーム芸術博物館に移管されたクルアーンと書道作品帳に関しても調査を行った。さらにトルコ・イスラーム芸術博物館から、ガラタ博物館に移管されたナヴァーイーのペルシア語詩集と、アンタリヤ博物館に移管された書道作品帳の請求番号を突き止めることができた。先行研究ではトルコ・イスラーム芸術博物館に所蔵されているとされているアヤソフィヤ図書館の目録が1980年代にアヤソフィヤ博物館に移管されていることを、トルコ・イスラーム芸術博物館の収蔵目録とアヤソフィヤ博物館の収蔵目録の双方から確認することができた。 現在イスタンブルのアヤソフィヤ歴史体験博物館で展示されている18世紀半ばに作成されたアヤソフィヤ図書館の目録について、アヤソフィヤ博物館で保存されている画像を用いて研究を行うことに関し、トルコ共和国文化観光省から許可を得て、2024年3月にアヤソフィヤ博物館と研究に関する協定を締結することができた。 また2023年10月から2024年3月にかけてファーティフ・スルタン・メフメト・ワクフ大学・写本作品応用研究センターにおいて毎週連続開催された写本の所有記録に関するセミナーに参加し、写本の現物に歴代の所有者が残した所有記録の文言や様式のさまざまなヴァリエーションについて知見を広めるとともに、トルコにおける多くの写本研究者の知遇を得る機会をもった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年1月17日にファーティフ・スルタン・メフメト・ワクフ大学・写本作品応用研究センターにおいて、ファーティフ図書館に関し、"I. Mahmud Doneminde Fatih Kutuphanesi Koleksiyonu"と題するトルコ語による発表を行った際に、少なくない研究者からコメントを受ける機会に恵まれたため、それらの内容も踏まえつつ、発表内容をもとにトルコ・イスラーム芸術博物館所蔵のファーティフ図書館の蔵書目録(TIEM Yazma 2216)についての論考を目下トルコ語で執筆中である。 また前年度中に、これまで研究のなされなかった旧トルコ・イスラーム芸術博物館所蔵のマフムト1世期に作成されたアヤソフィヤ図書館蔵書目録の所在をつきとめ、移管先のアヤソフィヤ博物館で保存されている画像を用いて研究を行う許可を、トルコ共和国文化観光省から取得し、アヤソフィヤ博物館と研究に関する協定を結ぶことができたので、この蔵書目録の分析を今後は進めていく予定である。 前年度中にイスタンブルのスレイマニイェ写本図書館に登録されているアヤソフィヤ図書館コレクションの全蔵書についてのデータベースを前年度に作成したが、今後は写本現物に残されたマフムト1世に対する写本の寄贈者や、かつての写本所有者の押印の情報をデータベースに追加し、蔵書形成の形成過程をより具体的に明らかにする。 さらに創立当時に作成されたアヤソフィヤ図書館の蔵書目録に記載されている図書のタイトルと、写本現物に記載されているタイトルとの照合を進め、蔵書目録の作成過程についても考察を進める。
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