研究課題/領域番号 |
23K00888
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
石川 亮太 立命館大学, 経営学部, 教授 (00363416)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | 朝鮮総督府水産試験場 / 水産講習所 / 農林省水産試験場 / 岡村金太郎 / 藻類学 / 漁業基本調査 / 水産業 / 植民地 / 帝国史 / 水産学海洋学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では日本植民地下の朝鮮において、水産業および海洋に関する学知がどのように生み出されたか、帝国全体の学知のネットワークとの関係を念頭に置いて明らかにする。具体的には、1921年に設置された朝鮮総督府水産試験場を対象とし、その創設から敗戦による終焉までの時期にかけて関わりをもった研究者(技師・技手層)のキャリアパターンを、帝国全体を視野にいれた広がりのなかで明らかにする。さらに彼らを担い手とする試験場の研究プロジェクトについて、帝国内の水産研究機関で構築されていた情報交換のネットワーク(連絡試験)に注目して、その中での位置づけを明らかにする。
|
研究実績の概要 |
2023年度は研究の初年度であることから、(1)朝鮮総督府水産試験場をはじめ対象とする研究機関についての史料状況を確認することに努め、(2)あわせてその成果の一部を口頭発表の形で公表した。 (1)については、朝鮮総督府水産試験場(現:大韓民国国立水産科学院に所蔵)、農商務省/農林省水産講習所に関する史料(現:東京海洋大学品川キャンパス図書館に所蔵)、農林省水産試験場に関する史料(現:国立研究開発法人水産研究・教育機構図書資料館に所蔵)などを検討し、各研究機関で生成され、また相互に交換された研究報告などの史料の所在を明らかにした。その結果、それぞれ数度の組織替えがあったにも関わらず、未整理分を含め相当の史料がなお存在していることを確認できた。 また水産学の諸分野のなかで藻類学に焦点を絞り、これに関する情報が研究者・研究機関の公私のネットワークのなかでどのように交換されたかを事例的に追跡しようとした。具体的には日本の藻類学の立ち上げに寄与した岡村金太郎(1867~1935年)に注目し、この人物の遺品である文献(東京海洋大学所蔵)や海藻標本(北海道大学総合博物館、国立科学博物館植物研究部門などに所蔵)について、伝来の由来などを含めて調査を実施した。その結果、農商務省/農林省が帝国内の各研究機関を組織して1909年から実施した漁業基本調査・海洋調査の枠組みのなかで岡村金太郎の藻類学研究の一部が実施されたこと、一方でその実際の情報収集にあたっては、水産講習所・東京帝国大学の卒業生を中心とした私的なネットワークが大きな役割を果たしたこと等が明らかとなった。 (2)については、上述の岡村金太郎の研究態勢について、日本植民地研究会・朝鮮史研究会関西部会で口頭発表を実施し、研究の途中経過を公表すると同時に、それぞれの分野の専門家との意見交換を通じて今後の課題等を発見することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本帝国の水産試験研究に参加した主要な研究機関について、史料の所蔵状況について実際に確認できたことが2023年度の大きな成果であり、その意味で研究はおおむね順調に進捗していると判断できる。 ただし史料の公開方針や整理状況は研究機関によって異なっており、中には想定以上に公開に慎重であったり、整理状況が遅れているために把握が困難であったりするケースにも逢着したことは事実である。水産研究機関の活動は現在の資源開発政策とも直結している部分があり、史料の外部公開に慎重となる事情も十分に理解できるので、粘り強く歴史研究の意義を説明し、関係研究者の協力を得ながら今後の作業を進めていく必要がある。 その意味で本年度は、韓国の有力な水産系大学である釜慶大学校の水産史研究者と交流を深め、韓国国立水産科学院の調査にあたっても仲介していただいたことで、円滑に調査を実施できた面がある。韓国に限らず近代の水産史研究は必ずしも研究者の多い分野ではないが、研究課題の遂行と並行して研究者間のネットワーク構築を進める必要性を感じた。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は対象とする主要な研究機関での史料所蔵の状況について大まかに把握することができたが、史料の分量が相当に上りリスト化が十分にできていないことから、まず自身の作業リストとして目録を作成することに努めたい。単に現存する史料をリストアップするにとどまらず、相互の情報交換の関係が明らかになるような形で作成することで、それ自体が研究課題の追究に資すると考えている。そうした目録は今後の研究にとっても意義があると考えるので、将来的な公開についても念頭に置くことにしたい。 そうした史料をベースに、諸機関で具体的にどのような人員が、どのような形で研究を実施していたか解明する作業も進めていきたい。方向性としては、(1)各機関の研究人員のキャリア・パターンを長期にわたって明らかにするため、収集した各機関の事業年報などをベースとしたデータベースを作成・分析すること。たとえば水産講習所と朝鮮総督府水産試験場・各道水産試験場の間の人的交流について見通しを示すことを目指したい。(2)諸機関の提携による連絡試験の全体像を明らかにするため、研究課題のデーターベースの作成・分析を進めること。公刊された『漁業聯絡試験報告』のほか、農林省水産試験場の行政資料から有益な情報が得られる見通しがあるので、その閲覧と分析を進めたい。(3)個別の研究者を核とする公的・私的なネットワークのなかで研究情報がどのように流通していたか事例研究を進めること。2023年度に取り上げた岡村金太郎の事例をさらに深めるほか、他の人物についても事例研究が可能であるか瀬踏み的な調査に着手したい。具体的には朝鮮総督府水産試験場の中井甚二郎や富士川きよしなどが対象となりうると考えている。
|