研究課題/領域番号 |
23K00892
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 創 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50647906)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2027年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | ローマ帝国 / 儀礼 / キリスト教 / 歴史的記憶 / 歴史叙述 / 称号 / 地中海 / 古代ローマ史 / 古代末期 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、4世紀後半から6世紀半ばにかけてのローマ皇帝の称号や図像表現の変化、各種儀礼に関する情報を収集・整理する。これに加えて、5世紀中葉のカルケドン会議などの教会会議の開催手続をケーススタディとして扱い、内外で政治的危機を迎えていた後期ローマ帝国において、皇帝が各地方都市や各地のキリスト教会を儀礼行為などを通じていかに統合し、自身の求心性を保とうとしたのか、その仕組みを実証的に把握することを目指す。これらの作業を通じて、古代から中世にかけて変化していく皇帝観・王権観の一端を解明することを試みる。
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研究実績の概要 |
本研究は、4世紀後半から6世紀半ばにかけてのローマ皇帝の称号の変化、各種儀礼に関する情報を包括的に収集することを通じて、後期ローマ帝国において、皇帝が各地方都市や各地のキリスト教会を統合し、その求心性を保とうとした仕組みを実証的に把握しようとするものである。 その準備段階として、帝政前期から7世紀前半に至るまでのローマ皇帝称号において中心的な役割を果たした「アウグストゥス」(正帝)称号の変遷を「アウグストゥスのゆくえ――ローマ帝国統治の模索」(佐川英治編『君主号と歴史世界』山川出版社、2023年、所収)において公表した。この論考において、皇帝権力の存在が社会内で広く認知されるにつれ、アウグストゥスという個人名が称号として抽象的なものになり、さらに儀礼や表象などと結びついて、帝国支配における重要な側面を担っていったことを明らかにした。 また、5世紀半ばに開催されたカルケドン公会議前後に発送された皇帝やアウグスタの書簡について、写本伝承ごとの収録状況を整理した。これは、集成ごとに伝わる皇帝像の差異を分析するための予備作業としての性格を持っている。現段階ではあくまで写本間の書簡の対応関係や各写本ごとでの「語り」の全体的な理解に留まっているが、次年度以降、この分析を深めていくことを計画している。 これに関連して、東と西のローマ帝国におけるギリシア語とラテン語の言語利用の差や翻訳事情を調査し、皇帝の権威を示す公文書がどのような形で帝国内に流布され、東西においてラテン語原語の持つ響きが権威を伝える意味合いを持っていたのではないかという仮説のもと、史料の分析・調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①皇帝儀礼・表象に関する基礎情報の収集・分析、②5世紀中葉の教会会議関連史料の批判的分析、の二つを研究対象とすることを目指している。2023年度は、①については「研究実績の概要」で述べた論文がアウグストゥス称号に関しての大まかな見取り図を描いたが、並行して教会関係資料に収録されている皇帝書簡や、ギリシア語碑文上に現れる称号の収集を進めている。現段階ではまだ網羅的なレベルにまでは達してはいないものの、アウグストゥス称号のみならず、他の皇帝称号についても分析する準備を整えている。これに加えて、碑文史料の事例からは、書体や言語の差異を利用した皇帝権限の表象が展開されたことを通時的に説明できないか検討している段階である。 ②については、「実績の概要」欄で述べたように、カルケドン会議前後に皇帝によって発送された書簡史料を、写本伝承の観点から整理している段階である。また、本研究の主たる研究対象であるCodex Encycliusについてもそのギリシア語テキストの読解や写本伝承、研究状況に関する調査を進めている。加えて、カルケドン会議以降の一連の教義論争の歴史的受容の観点から、553年に開かれた第二次コンスタンティノポリス公会議議事録や教会史史料が執筆・編纂された歴史状況について基礎的な情報を収集した。 いずれについても、計画で予定していた段階に大きな相違はなく、おおむね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、具体的な成果発表として、2024年度は、所属組織が開催するシンポジウムでの発表機会を利用し、ギリシア語・ラテン語の東ローマ帝国における利用状況について現段階での考えをまとめたいと考えている。また、8月初旬にイギリス・オックスフォードで開催される教父研究会Patristic Studiesで、4世紀末での都市アンティオキアと帝国政府間の儀礼関係に関する報告を行う予定であり、その機会に欧州圏の研究者との情報交換の機会を持ちたいと考えている。 調査・事例収集の面では、2023年度中に進めていた碑文史料や教会会議関係史料での皇帝表象の事例収集を継続しながら、さらに貨幣資料の事例についても図像や銘文などの情報を集めていくことを予定している。事例数が多いため、関連史料全体をまとめるのは2025年度までと見込んでいるが、作業を確実に進めるためにも、今年度中にさらに必要な文献の手配と国内外の所蔵状況を調べておきたい。これらの基礎的な情報をもとにしながら、2025年度以降は教会会議開催による中央政府と地方都市のコミュニケーションの在り方をCodex Encycliusの事例を軸にしながら、読み解いていくことを計画している。
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