研究課題/領域番号 |
23K00903
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋場 弦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10212135)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 民主政 / ソフィスト / 政治思想 / ギリシア / 民主主義 / 古代 / 政治 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、(1)古代ギリシア民主政に固有の政治文化、および(2)民主政にいかなる価値があるかという問いをめぐる固有の思想、を総称して「民主政の文化と思想」と呼ぶ。それが具体的にどこから発生・発展し、どのように前4世紀のギリシア世界に拡散していったのか、またそれがヘレニズム時代以降の世界の中でどのように受容され、変容していったか。それを解き明かすことが本研究の課題である。代議制民主主義が機能不全に陥り、他方で国民投票など直接民主主義的手法がポピュリズムの危険性をはらむという現代の課題を一方の視野に置きながら、民主政という歴史現象の普遍性を解き明かすことに、本研究は最終的な目標をすえる。
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研究実績の概要 |
当該年度においては、主として古典期(前5世紀から4世紀)における政治思想と、民主政の成熟・拡散現象との関わりを探究することに集中した。古代ギリシアの政治思想は、前6世紀にイオニア地方で始まったいわゆるイオニア自然学にその濫觴があるが、ポリスの自由人住民全員に平等に参政権を分け与え、国制の主導権を一握りのエリートから広範な住民集団に委譲するという発想の源がどこにあるのか、という根本的な問題について、思想史の面から探ることには重要な意義がある。前5世紀半ばに活躍した歴史家であり「ソフィスト」の一人であったヘロドトスは、前520年代に、アケメネス朝ペルシアですでに民主政が議論されていたと説く(3巻80-82章)が、そこには明らかに後世のアテナイ知識人の発想が投影されており、史実と見なすことはできない。とくに抽選制の利点や、公職者の責任を追及することが民主政の特質であるとの論点は、あきらかにアテナイで役人抽選制が本格的に導入された前487年以降でなくては生まれ得なかったものであり、これを史実であると理解することはできない。続いて現れた民主政擁護の言説は、哲学者ではなく、一般市民が鑑賞する悲劇のテクストに現れる。前472年上演のアイスキュロス「ペルシア人」には、専制君主クセルクセスの母后アトッサの台詞として、ペルシア王は例え戦争に敗北して帰ってきても責任を問われることはなく、引き続き権力を行使する、との言葉がある。これは裏を返せば、公職者の責任を厳しく追及するアテナイ民主政の賛美である。さらに下って前420年代、悲劇「救いを求める女たち」でエウリピデスは、「貧しき者にも平等の権利を与える」のがアテナイ民主政の特質であると説く。これは貧富の差にかかわらず政治的平等を達成したアテナイへのオマージュであると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症流行が完全には治まらない状況で海外渡航による文献調査などは見合わせたが、内外の文献調査は順調に進んでおり、とくに政治思想と民主政拡散との問題については、古代思想の専門家との交流が有意義であった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、新型コロナ感染症流行が収束しつつある状況に鑑み、海外での調査研究も視野に入れて、研究に臨みたい。また細かな道具立てを用いた民主政の技法の研究については、各地での考古学的探査の成果を積極的に取り入れる予定である。
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