研究課題/領域番号 |
23K00940
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 奈良県立橿原考古学研究所 |
研究代表者 |
平井 洸史 奈良県立橿原考古学研究所, 企画学芸部学芸課, 主任技師 (50884251)
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研究分担者 |
岩越 陽平 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 主任研究員 (60815067)
小倉 頌子 奈良県立橿原考古学研究所, 企画学芸部資料課, 主任研究員 (50966273)
木村 理 岡山大学, 文明動態学研究所, 助教 (10881485)
上田 直弥 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 助教 (70823780)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 群集墳 / 渡来系集団 / 漢人系渡来人 / 古墳時代 / 対外交流 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、古墳時代の大きな社会変化を表象する集団墓である「群集墳」に焦点を当て、考古資料に基づく考察により、その被葬者集団の実態を明らかにするものである。 方法論的停滞がみられる近年の群集墳研究に対し、本研究は、多量出土品の悉皆的資料化を基礎として、複数視座による構造分析や、日韓比較、自然科学分析の導入によって問題を克服する。出自や政治的関係など様々な要因で結びついた群集墳の被葬者集団像を新たに構築する。 本研究の成果は、日韓交流史に新たな視点をもたらすとともに、擬制的同族関係にもとづく集団組織論や、原初的官僚制の議論とも関連し、それら仮説に対し考古資料から実証的に迫りうるものとなる。
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研究実績の概要 |
初年度は、本研究の主たる分析対象である大阪府一須賀古墳群の検討に着手した。7月1日には、橿原考古学研究所附属博物館会議室にて第一回の科研検討会を実施し、研究代表である平井が「群集墳科研検討会」と題して本研究の方針や既存関連研究の成果を整理し、つづいて研究協力者である李東奎氏より、一須賀古墳群との深い関係が指摘されるソウル近郊の古墳群の紹介を行った。 また、12月23日には大阪府立近つ飛鳥博物館にて、第一回館蔵品検討会が実施され、一須賀古墳群より出土した金属製品の検討が進められた。そこでは、研究代表の平井が「一須賀古墳群の鉄製品」と題して既往の研究を踏まえた最新の成果を発表し、協力者の市川創氏ならびに東藤隆浩氏より一須賀古墳群の現状と課題について発表を行った。一須賀古墳群のなかでも初年度に注力したのは、最初期の支群であり、なおかつ百済王族が被葬者との説もある高井田山古墳との関係の深いI支群である。そのうち特にI-18号墳の鉄製品を中心に資料化を進めた。実測図及びその検討成果は、令和5年度分の近つ飛鳥博物館の『館報』に掲載されている。 とくに注目すべき成果として、I支群の鉄釘のなかに、百済中枢の古墳群で主流にもかかわらず、王権中枢地域においてはほとんど確認されていなかった形態のものが含まれることを明らかにした。この形態は、百済系の木棺である釘付式木棺の導入期において稀なもので、高井田山古墳を除きほとんど確認されていない。一須賀古墳群と百済中枢部との関係に加え、高井田山古墳との関係を示唆する資料を得られたことは、本研究の目的に向け一歩前進する成果といえる。 なお、研究組織には、分担者のほか協力者として、大阪府立近つ飛鳥博物館の市川創氏、東藤隆浩氏、久永雅宏氏、大阪府埋蔵文化財センターの森本徹氏、廣瀬時習氏、堺市博物館の肥田翔子、漢城百済博物館の李東奎氏に加わっていただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の最低限の目標である、研究組織立てと成果公表への順路立ては達成された。研究組織としては、綿密な連絡体制を基礎として、主たる研究対象の一須賀古墳群出土資料を収蔵する大阪府立近つ飛鳥博物館の方々を協力者に迎え、資料化および研究意義への理解を得ながら研究計画を進めることができた。7月と12月の計二回の研究会を実施することで、研究組織内の役割分担および本研究の目的意識の共有等も本年のうちに図ることができた。また、来年度以降の計画にかかわる調整業務も大阪府並びに奈良県の関係諸機関と進めたことで、円滑に資料調査を進める素地を形成している。 上述の関西で開催した二回の研究会には、韓国の研究者協力者にも参加してもらい、韓国の資料状況について意見交換を実施した。来年度以降の本格的な日韓比較研究に向け、必要な比較対象の情報を得ることができた。また各研究会の翌日には、一須賀古墳群ならびに平尾山古墳群の踏査を実施し、立地環境をはじめ石室の構造などの理解を深めた。 また、成果公表の面では、口頭発表に数本に限らず、初年度より遺物実測図など、資料化の成果を刊行できた点は大きい。本年度の資料化の進捗としては、資料全体に対する割合として1割程度にとどまったが、調整業務があらかた終わり、軌道にのった二年目以降は速度を上げて進めることができる。分担研究者についても王権中枢地域の群集墳出土資料の調査および検討を進めており、来年度以降の成果公表にむけた準備を進めた。 その一方で、本研究の柱の一つである日韓比較研究や群集墳研究を見据えた本格的な研究成果の公表は、二年目以降へ持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は、継続的かつ頻繁に資料化の機会を設け、本研究が基礎として位置づけた「悉皆的な資料化」を実践する。とくに資料化は金属製品を主体としており、一須賀古墳群の最古段階の支群であるI支群およびB支群、D支群、WA支群の資料を対象に、図化および検討を進める予定である。金属製品のうち量的に多くを占めるのが鉄釘や鉄鎹といった木棺に関わる器物である。その成果の一部は初年度にも好評されたが、二年度目以降も検討範囲を拡げ、その成果はまずはじめに令和6年度分の近つ飛鳥博物館『館報』に掲載する予定である。 また、7月に計画している第二回「群集墳科研検討会」では、分担者の岩越陽平氏より土器と群集墳を中心に据えた発表を、協力者の廣瀬時習氏より玉類と群集墳をテーマとした発表をおこなう。また、初年度に引き続き、大阪府立近つ飛鳥博物館の第二回「館蔵品検討会」が、一須賀古墳群出土遺物を対象として実施される見込みであり、当科研メンバーより遺物検討をベースとした発表を行う予定である。その他、分担者および協力者についても、各々の担当とする分野にて検討を進める予定である。 1年目の研究状況を鑑みて、早めに日韓比較分析を実施する必要性が感じられたため、本年度のうちに韓国の百済地域へ訪問し、協力者案内のもと比較研究を進める予定である。とくに比較を必要とする対象は、漢城百済期の古墳群であり、城南市の板橋洞古墳群や河南甘一洞古墳群などが代表例である。これら資料との比較を通じて、王権中枢地域の大型群集墳である一須賀古墳群の造営背景を探っていく。
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