研究課題/領域番号 |
23K00948
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03060:文化財科学関連
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研究機関 | 福井工業高等専門学校 |
研究代表者 |
嶋田 千香 福井工業高等専門学校, 電子情報工学科, 特命准教授 (20345599)
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研究分担者 |
小越 咲子 福井工業高等専門学校, 電子情報工学科, 教授 (70581180)
小越 康宏 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (80299809)
藤田 克志 福井工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (40190037)
古谷 昌大 福井工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (30737028)
松野 敏英 福井工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (40557443)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | トロロアオイ / 和紙原料植物 / 原植物 / 栽培条件 / 粘弾性 / 高分子分析 / 土壌微生物 / データベース / 和紙原料 / 粘液性質 |
研究開始時の研究の概要 |
歴史的な文化財材料の多くは天然物に由来し,現在その多くの入手が困難である。和紙の粘滑剤原料であるトロロアオイもその1つで,希少な材料の永続的使用のために,粘液の性質に影響する栽培条件の解明、並びに粘液を含有する根の保存の改善が重要である。 これらの解決に向け,原植物の解明,異なる栽培条件での栽培,栽培株から得られる粘液の物理特性・分子構造・微生物解明,更に,これらの結果のデータベース化を実施し,今後の栽培・保存研究に新たな指針を与えることを目指す。
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研究実績の概要 |
和紙抄造原料の1つ、トロロアオイの生産量は近年激減し、危機感を感じている和紙産地の1つ、越前和紙の漉き手の方々から要望・意見を見聞し、産地の助けとなる成果を目指している。 R2-4年度の成果、トロロアオイの名称で2形態の植物が存在すること、両者のネリ(根抽出液)の相違点(前者の方が劣化し難い)、栽培地によるネリの相違点(茨城県・福井県産では前者が劣化し難い)、栽培条件(施肥・コンパニオンプランツ・芽掻きの有無、潅水量の多寡、赤玉土への軽石への混入)は簡易的なネリ評価法であるロート通過時間に明確な影響を及ぼさないことを受け、R5-7年度実施の本研究では、(a)トロロアオイの原植物調査、(b)栽培条件・環境(気象・土壌とその微生物)とネリ(根抽出液)の科学的(主に粘弾性等の物性、高分子)関係、(c)R2-4年度の栽培・収穫データを含めたデータベース化を実施する。 R5年度では、(a)室町時代から現代の36点の絵画等に描写された黄蜀葵(トロロアオイの中国名)の形態を、「トロロアオイ」「ハナオクラ」と比較したところ、「トロロアオイ」と判断できる絵画は1点、「ハナオクラ」21点、中間型14点であった。元来の黄蜀葵は「ハナオクラ」である可能性が考えられたため、今後、紙漉き関連の図説の調査、遺伝子解析を進め、この仮説を検証する。 (b)粘材として利用される「トロロアオイ」根抽出液について、高分子分析を実施したところ、これまで発表されていた分子量の約10分の1である結果が得られた。これは冷凍されていたネリの使用がこの結果に影響した可能性があり、今後抽出直後のネリで再実験する。また、潅水量が異なる畝で栽培された2群の「トロロアオイ」では、潅水量が少ない群で、比較的低分子量の成分も併せて検出された。潅水量の違いで根抽出液の分子構成が異なる可能性が示唆され、これについても今後再実験する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(a)トロロアオイの原植物調査について、室町時代から現代の36点の絵画等に描写された黄蜀葵の形態を、R2-5年度に栽培された「トロロアオイ」「ハナオクラ」(越前では前者のみを粘材として使用。前者は、現在国内で最も使用されている茨城県産の種子に由来し、後者に較べて花や草丈が明らかに小型)と比較したところ、「トロロアオイ」と明確に判断できる絵画は1点、それに対し「ハナオクラ」は21点、中間型14点であった。ごく一部の領域だが両者の遺伝子解析を実施したところ、「トロロアオイ」「ハナオクラ」は全く同じ配列を示すことから、両者は近縁な植物と考えられる。今回の絵画調査で「トロロアオイ」と判別できた1点は昭和48年発行の出版物であった。仮説として、元来の黄蜀葵は「ハナオクラ」であり、近年の品種改良で「トロロアオイ」が作り出されたことが考えられた。 (b)粘材として利用される「トロロアオイ」根抽出液について、高分子分析を実施した。これまでに分子量500万程度と知られていたが、今回の結果は50万弱という結果が得られた。これは分析試料の根抽出液が冷凍保存されていたことに影響を受けた可能性がある(分析は実施していないが、「トロロアオイ」「ハナオクラ」の冷凍保存されていた根抽出液を比較すると、前者の劣化がより明確であったため)。また、潅水量が異なる畝でR4年度に栽培された2群の「トロロアオイ」では、潅水量が少ない群で、分子量20万程度の比較低分子量の成分も併せて検出された。潅水量が多い群では分子量50万弱のもののみ検出されたことから、潅水量の違いで根抽出液の分子構成が異なる可能性が示唆された。 これらの他、R2-4年度から実施している、根抽出液の物性を測定するための機械、栽培時の作業軽減に役立つ脇芽掻き機器の開発を継続した。
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今後の研究の推進方策 |
R5年度の成果を受け、(a)トロロアオイの原植物調査については、文献調査、画像解析、遺伝子解析を計画している。文献調査については、和紙抄造で使用されたトロロアオイを知る目的で、紙漉きに関する歴史的な図説と、「トロロアオイ」「ハナオクラ」の品種改良の歴史について焦点を当てる。画像解析は、R5年度の絵画調査の中間型14点について、圃場で生育する「トロロアオイ」「ハナオクラ」両者の葉の形態と比較し、判断する。この両者の違いを解明するため、遺伝子解析はR6年度も継続する。 また、栽培条件と根抽出液の関係解明のため、潅水量の異なる2群の「トロロアオイ」を同一圃場で栽培し、R5年度と同様の高分子分析を実施する。その際の試料は冷凍せず、生根から抽出された直後の根抽出液を使用する。 なお、高分子分析の他、物性(伸長粘度、曳糸性、表面張力)解析のための機器開発、土壌微生物解析はR6年度も継続する。これは栽培条件解明だけでなく、R2-4年度の目的の1つ、環境負荷の少ない根の保存のためにも(現在越前和紙ではクレゾール含有水溶液に「トロロアオイ」根を浸漬保存しており、より安全性の高い保存方法が現場で要望されている)根抽出液の基礎的な性質解明は必須であるためである。 R6年度より「トロロアオイ」「ハナオクラ」のデータベース構築を開始する。R2-5年度の栽培・環境条件、生育中の画像、粘弾性などの物性、高分子解析結果をまとめ、高品質の根抽出液を生産する栽培条件解明を目指す。
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