研究課題/領域番号 |
23K00976
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04010:地理学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西山 浩司 九州大学, 工学研究院, 助教 (20264070)
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研究分担者 |
細井 浩志 活水女子大学, 国際文化学部, 教授 (30263990)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 江戸時代の豪雨災害事例 / 災害伝承 / 洪水・土石流 / 災害アーカイブス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,江戸時代まで遡り,現在の九州北部・中国地方を対象に,詳しい被災記録が残る庄屋文書などの古記録を解読して顕著な豪雨事例の災害記録を編纂し,その空間的特性から被災地分布,豪雨域の範囲,気象状況を示した災害アーカイブスを構築することを目的とする.その取り組みを通して,気象庁が命名した豪雨事例(例:令和2年7月豪雨)と同様,江戸時代の豪雨を「嘉永3年7月豪雨」のように命名し,江戸時代まで遡った豪雨事例の記録を紹介できるようにする.そして,当時の災害記録を現在の災害リスクを結び付けることで,地域防災の取り組みに繋げることができるような災害アーカイブスの構築を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究では,現在の九州北部・中国地方を対象に,詳しい被災記録が残る庄屋文書などの古記録を解読して顕著な江戸時代の豪雨災害事例の記録(洪水・土石流)を編纂し,その空間的特性から被災地分布,豪雨域の範囲,気象状況を示した災害アーカイブスを構築することを目的とする.その取り組みを通して,当時の災害記録を現在の災害リスクを結び付けることで,地域防災の取り組みに繋げることができるような災害アーカイブスの構築を目指す. 令和5年度に行った主な研究の取り組みでは,令和5年(2023年)7月10日に発生した耳納山土石流災害の被害状況を調査し,300年を隔てて起こった享保5年(1720年)大規模土石流災害と比較することで,その規模や発生箇所などの特徴に関して取りまとめた.享保5年(1720)の土石流では,災害伝承「壊山物語」によると,耳納山地全域の30以上の谷が崩壊して土石流化し,人家や田畑のある山麓の村々まで到達する深刻な被害をもたらした.一方,300年を隔てて発生した2023年7月10日の土石流では,久留米市竹野地区(三明寺・富本行政区など)が被災し,今回と同様の場所で,土石流の特徴や人的な被害状況が類似した災害が300年前に起こったこともわかった.また,今回の災害は、過去最大級だった享保5年の土石流災害と比べると遥かに小規模だったため,想定外ではなく,「想定内」の出来事だったことを示している. 享保5年の土石流災害に関しては,既に,HP「災害伝承から防災へ -享保5年7月九州北部豪雨-」(作成者:九州大学 西山浩司)が,九州大学,うきは市,久留米市から一般に公開されている.その災害アーカイブスは,耳納山麓の過去の災害記録を詳細に示して現在の災害リスクを住民に伝えるものであるが,今回の災害は,それを裏付ける結果となった.つまり,耳納山麓では,土石流災害が繰り返し起こることが明瞭に示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)HP「災害伝承から防災へ -享保5年7月九州北部豪雨-」(作成者:九州大学 西山浩司)の対象地域で令和5年7月10日に土石流災害が起こったことを踏まえて,繰り返し起こる土石流災害の特徴について検証した.その結果を通して,現地の災害リスクだけでなく,実際の起こったリアルな災害の特徴,将来起こるであろう災害に備えた防災についても,被災地の近隣住民に対して説明することができた. (2)享保5年(1720)の佐賀県鳥栖市・基山町の土石流災害,嘉永3年(1850)の福岡県糸島市西部と広島市太田川流域の河川氾濫と土石流災害,天保11年(1840)の山口市椹野川流域,広島県三原市沼田川流域,岡山県倉敷市高梁川流域の河川氾濫に関して,被災記録の収集と現地調査を実施した. (3)鳥栖市・基山町と糸島市西部の災害に関しては,福岡県・佐賀県内の図書館等に所蔵されている記録が乏しく,災害の詳細はわからなかった.一方,対象地域が江戸時代に対馬藩(宗家)が支配していた飛び地であったことから,長崎県対馬市にある対馬歴史研究センターに所蔵されている宗家文書の文献調査を実施したところ,大量の災害史料や関連資料が発見された.それらの資料は,現在の災害リスクを裏付ける貴重な史料であることがわかった. (4)嘉永3年当時の広島城下で大半の地域が浸水して,太田川流域で38人の犠牲者を出す災害となった.1945年の原爆で多くの古文書が失われたため,その詳細は不明であるが,周辺地域の史料や原爆当時広島市内になかったと思われる史料,当時の廣島市史(災害史料の出所不明)から嘉永3年の災害の詳細が明らかになってきた. (5)享保5年の鳥栖市・基山町の土石流災害に関しては,九州大学西部地区自然災害資料センターニュース発行の享保 5 年(1720)に発生した福岡県筑後地方耳納山地の土石流 災害の記録「壊山物語」に公開された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で目指す災害アーカイブスは,江戸時代に起こった災害の被災地分布,豪雨域の範囲,気象状況を示した上で,現在の災害リスクと組み合わて住民に発信する情報である.また,気象庁が命名した豪雨事例と同様に,「嘉永3年西日本豪雨」のように名付けて,時間軸に沿った特定の地域の防災ではなく,規模が大きな線状降水帯のような豪雨域に対応するように,江戸時代の災害記録から広域で起こった被災状況をイメージできるようにするコンテンツである. 令和5年度の研究の取り組みでは,当時の災害記録,現在の災害リスクだけでなく,対象地域で最近起こった災害を含めることで,住民の方々が災害リスクを強くイメージできることがわかった.従って,対象地域で最近災害が起こった事例があれば,その特徴を調査して,災害が繰り返し起こることを強く意識させる方向で災害アーカイブスの構築を目指す. 本研究の対象としている嘉永3年と天保11年の豪雨災害は被災地が非常に多い.それらの多くは,くずし字で書かれた古い記録から明らかになったもので,町誌や市誌などの自治体発行の地域の歴史には載っていないことが多い.そこで,令和6年度は,多くの災害史料の記録が残っていると考えらえる広島県立文書館,または,山口県立文書館を中心に,くずし字で書かれた文献の発掘とその解読を実施する.また,天保11年に芦田川流域で60名以上の犠牲者を出した広島県福山市など,古文書の災害史料の具体的な内容に基づいて,中国地方の被災地の現地調査を実施する. 嘉永3年と天保11年の災害については,当初想定していた以上の被災地とその詳細な記録があることが判明し,その災害記録を全て災害アーカイブスに反映させるためには膨大な時間がかかる.そこで,災害が顕著だった事例から災害アーカイブスに反映させ,小さな災害記録を追加していくような形態にする.その取り組みは令和7年度に実施予定である.
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