研究課題/領域番号 |
23K00988
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04020:人文地理学関連
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
中村 周作 宮崎大学, 教育学部, 特別協力研究員 (00305062)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2026年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 伝統的魚介類食 / 魚介市場 / 酒蔵 / 沖永良部島 / 臼杵地方 / 椎葉村 / 山形県 / 日向市細島 / 伝統的飲食文化 / 飲酒嗜好 / 魚介料理 / 地域振興 / 日本 |
研究開始時の研究の概要 |
今日、多くの伝統地方食が食材の入手難や摂食機会の減少などによって危機的状況にあり、それらの記録を残すことが学問上喫緊の課題である。伝統的飲食文化の中でも地域独自の食材と技術で作られてきた魚介料理と酒は、食文化の粋である。 本研究の目的は、①地域の伝統的食文化の根幹を成してきた伝統的魚介類食と酒の文化に関するデータベースを作成すること。②日本全域(和食としての共通性)、地方食、特徴的な郷土食といった地域スケールごとの伝統的魚介類食の展開を解き明かすこと、③伝統的飲食文化を活用した地域振興策を考案することで、日本の食に関する総合的な研究成果を著作『日本 酒と魚の文化地理』(仮題)として公刊する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、日本における伝統的魚介料理に関する基礎資料作成を目的に、2編の資料論文を作成・公開した(中村周作:「日本における伝統的魚介料理の地域的展開4 -福井~三重県-」、宮大教育学部紀要101、同:「日本における伝統的魚介料理の地域的展開5 -滋賀県~和歌山県-」、同102)。先に北海道から愛知県までを同シリーズの1~3にまとめており、今後中四国、九州・沖縄へと執筆を進めて日本全域を網羅する情報公開を行っていく。この基礎研究の他、いくつかの現地調査を実施した。具体的には、鹿児島県沖永良部島と大分県臼杵地方の魚介類食に関する調査、椎葉村や日南市南郷町における伝統食に関する調査を行った。このうち、沖永良部島の研究成果については、人文地理学会大会(法政大学)一般発表において公表(中村周作:「沖永良部島における基幹産業の変容と食文化の地域的展開」)し、その成果の一部を論文にまとめて成果を公表した(中村周作:「野間論文から45年を経たユリの島 甑島と沖永良部島」,ジオグラフィカ千里3)沖永良部島の魚介類食に関しては、別稿にまとめ、学会審査付き論文として投稿するべく準備を進めている。椎葉村での調査の成果は、日本地理学会春季学術大会(青山学院大学)一般発表において公表(中村周作:「宮崎県北山間地域における伝統食の摂食変化とその地域的展開」)した。こちらについても、学会審査付き論文として投稿するべく準備を進めている。このほかの臼杵地方と日南市南郷町における調査成果を取りまとめたものは、科研最終年度(2026年度)に執筆・公刊予定の著作(『日本 酒と魚の文化地理』)中において執筆・公開する予定である。このほか、本年3月に山形県の米沢~山形~酒田地域で、酒蔵(東光)、酒田での水揚げ魚介類調査、伝統食に関する調査を実施、日向市細島でも伝統的魚介類食に関する調査を行い興味深い成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は、日本における伝統的飲食文化をミクロ・メソ・マクロスケール各レベルで総合的に把握して、その特徴を明らかにする著作(『日本 酒と魚も文化地理』をまとめあげることである。今年度は、そのための1年目として日本全域を網羅する伝統的魚介類食に関する基礎情報を整理し、宮崎大学教育学部紀要に公開する作業を進めており、47都道府県中の30都道府県分を終えた。今後も継続的に作業を行っていく。 並行して各地域におけるトピカルな話題の収集調査を進めている。例えば沖永良部島では、戦前までほとんど魚介類食がなかったが、戦争直後隣接する与論島の過剰人口が移入して同島で漁業を始めた。が、魚食習慣のない島では魚が売れない。そこで、漁師が昼は漁業、夜、居酒屋を始めて「酒(おもに黒糖焼酎)と魚」をセットで提供することで、魚介類食の普及に貢献してきたこと、そのために魚食習慣は広がったが、居酒屋の利用率が高い男性と家庭食中心の女性(同島では女性の居酒屋利用が極端に少ない)とでは食する魚介に大きな違いのあることがわかった。 また、内陸山間の椎葉村でも、人吉方面から塩クジラ肉や酢だこが伝統的に入ってきて、ハレのごちそうとなってきた。現在でも食されるそれらの主要な摂食地域が、人吉からの街道沿いに集中し、同村内でも縁辺地域ではあまり食べられないなど、いろいろ興味深い新しい知見を得ることができた。 以上の基礎情報に関する研究と現地調査の成果から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度には、沖永良部島の魚介類食に関する論文を学会誌(『地域漁業研究』誌を予定)に投稿する。また、椎葉村における伝統食に関する論文を学会誌(こちらは『地理空間』誌を予定)に投稿し、研究成果の公表を図る。同時に進めている「日本における伝統的魚介類食の地域的展開」の6(鳥取県~徳島県)と7(香川県~佐賀県)、8(長崎県~沖縄県)を教育学部紀要に発表する。この他、伝統魚食に関する調査として、全都道府県の栄養士会に問い合わせて、現在それらがどれくらい食べられているのか、摂食現況調査を行う。酒に関する調査として、日本酒造組合中央会での聴き取り・資料調査を行う。この他、トピカルな話題を発掘するための現地調査も実施していきたい。 令和7年度には、日本の各地域に出向いての現地調査を重点的に行っていく。また、飲酒に関する基礎データとして国税庁統計である『酒のしおり』の分析を進めていく。6年度に行う全47都道府県を対象とする伝統的魚介類食の摂食現況調査と国税庁データをもとにした全国にまたがる飲酒データ分析をもとに、『日本 酒と魚の文化地理』の総論編を執筆する。 最終年度である令和8年度も、日本の各地域での現地調査を行っていく。これらの成果を『日本 酒と魚の文化地理』各論編として執筆、単著として公刊する(公刊に関しては、出版社の了解を得ている)。なお本著作は紙数が膨大になる予定なので、総論編および地方別の分冊(1.総論編、2.北海道・東北編、3.関東編、4.中部編、5.近畿編、6.中国・四国編、7.九州・沖縄編)での出版を考えている。 以上のような日本全域にまたがる伝統的飲食文化に関する詳細な分析に基づく成果を公開し、歴史・地理的側面から深みのある文化論を展開することが、たとえば世界無形文化遺産である和食に関する理論的なバックボーン形成に貢献することになる。
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