研究課題/領域番号 |
23K01016
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
三谷 雅純 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 客員教授 (20202343)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 医療人類学 / 失語症 / 聴覚失認 / 聴覚情報処理障害 / インタビュー / 逐語録 / 音声文字変換器 / 電子メモパッド / 生活世界 / 参与観察 / 高次脳機能障害 |
研究開始時の研究の概要 |
聴覚失認とは聴覚末梢系は正常なのに音が認知できない状態を指す。失語症のほか認知症や発達障害で見られる。重い聴覚失認者が生活世界をどう捉えているのかは医療人類学的には未知の研究領域である。しかし、これまでの聴覚失認者の研究から、工夫によっては 25 %以上、50 %未満の重い聴覚失認者が緊急災害情報などの言語音を理解できることが分かった(三谷, 2022)。この研究では三谷(2022)の技術を応用したインタビューによる応答から聴覚失認者の生活世界を描くヒントを得る。合わせて当事者の家族や介助者、言語聴覚士の語りを集め、また過去の映像情報なども参考にして当事者の語りを実体化していく。
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研究実績の概要 |
医療人類学のインタビューを行うに当たって、まず十分な信頼関係がある障害者団体や障害者個人に連絡し、研究内容に理解を求めた上で、失語症者や聴覚失認を含む聴覚情報処理障害者にインタビューによる応答が可能かどうかを確かめる必要があった。これまで被験者として参加してもらった障害者団体は聴覚情報処理障害者に対する情報保障の研究に参加していたので、いろいろな手続きが異なる医療人類学の研究を理解してもらうのには時間が必要であった。聞きなしが悪い場合は家族などの援助者や言語聴覚士も参加した。
結果として、インタビューには3団体から6名、さらに個人として2名の失語症者や聴覚失認を含む聴覚情報処理障害者が参加した。1人につき10問から12問の質問を用意し、インタビューは半構造化形式で行った。一回のインタビューでは約1時間半から2時間の時間が必要だった。ICレコーダーによる録音の後、1回ごとに逐語録に起こし、疑問点を整理して2回目以降の応答を行った。インタビューは1人につき3回から7回行った。またインタビューに合わせて、関連して借用可能な写真などの映像資料、可能な場合は病院など医療施設から渡された記録などを借りて参考にした。
結果は現在、論文にまとめているが、全体的に人生に否定的な回答よりも積極的に生きる方策を探しているとする回答が多かった。一方で医療機関には疑問を持っている場合もあった。また障害者団体の内部の人間関係は複雑で、場合によっては高次脳機能障害の種別による差別ではないかと思われる事例もあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
聴覚情報処理障害者、中でも聴覚失認者が世界をどう捉えているかという問題は、医療人類学的には未知の研究領域である。当事者の実感としては、聴覚失認のきわめて重い場合を除き「固定した障害」とは感じられない人が多く、体調によって「聞こえる」時と「聞こえない」時が共に自覚される場合が多い。そのことは、たとえ言葉は分からなくても「場の雰囲気」を感じ、言葉や環境音以外のコミュニケーション手段で自分の生活世界を作り上げていく聴覚失認者の内面を理解する難しさを示している。さらに将来の生活への期待感は聴覚失認の軽重とは関係しておらず、重い聴覚失認者がICT技術を使って地域コミュニティで活動している例があった。
失語症者の中でも人数が少ない失認者、その中でも視覚失認者に比べて人数が極端に少ない聴覚失認者に、その日常生活のスタイルといった類型的なことばかりではなく、価値観、宗教観、死生観まで語ってもらうには時間が不足していた。そんな中で3団体から6名、さらに個人として2名の失語症者と聴覚失認を含む聴覚情報処理障害者の参加が実現でき、1人ずつ逐語録を作成し、1人につき3回から7回のインタビューを実行できたことは、ある程度の研究の進展を可能にした。
現在は、障害者と障害者の間や障害者・援助者・言語聴覚士と障害者の間の人間関係をテーマにした論文と、「聴覚失認」「聴覚情報処理障害」などの術語と障害の社会的な意味付けについての論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
聴覚失認者の価値観、宗教観、死生観などをはじめ、その内面を深く知るために、2023年度と同様のインタビューを継続する。その際、比較のために聴覚失認ではないが聴覚情報処理障害はあるという失語症者、つまり一般的な聴覚性理解の低下した人へのインタビューも継続する。また、可能であれば失語症者以外の発達障害者や認知症者などの聴覚情報処理障害者にも同様のインタビューを試み、医学的な意味での聴覚失認者(純粋語聾、環境音失認)と聴覚失認者以外の聴覚情報処理障害者で生活する上での意識に違いがあるかどうかを探ってみたい。
現在のところ論文は二稿を準備している。一稿は障害者と障害者の間や障害者・援助者・言語聴覚士と障害者の間の人間関係をテーマにした論文で、失語症であり重い聴覚失認がある人のインタビューから考察する予定である。二稿目は「聴覚失認」「聴覚情報処理障害」などの術語と障害の社会的な意味付けについての論文を予定している。ここでは三谷(2022)が示した図3の「非聴覚情報処理障害者は今から大事な放送があることを知らせるチャイムによって多くの人が放送内容を理解した。しかし軽い聴覚情報処理障害者や重い聴覚情報処理障害者は、普通に聞こえる人もいたが、重い人はもちろん、軽い人でもあまり聞こえない人がいた」とする論点に新たな視点を付け加え、論考を深める予定である。
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