研究課題/領域番号 |
23K01019
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
中島 成久 法政大学, その他部局等, 名誉教授 (80117184)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 屋久島 / コモンズの悲劇 / 沿岸資源管理 / 藻場 / イソモン / 藻食魚 / 漁業権 / モハミ / 海のコモンズ |
研究開始時の研究の概要 |
ハーディンによって提唱された「コモンズの悲劇」には様々な批判があるが、宇沢弘文は「社会的共通資本」論において、「ハーディンの説では資源の利用が制限されている実態が反映されていない」と批判している。確かに、コモンズの利用には厳格なルールがあり、そうした資源管理の在り方がコモンズ研究の中心であった。屋久島のイソモン採取は、例外的に、だれでも自由に利用できるものであった。屋久島が世界遺産に登録され、観光客が増加し、イソモンが商品化された結果、資源の枯渇がだれの目にも明らかになっている。本研究は屋久島の事例を通して、コモンズ研究で従来議論されることのなかった問題を検討し、さらなる発展を目指している。
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研究実績の概要 |
2023年度は関連する機関・専門家とのインタビュー調査のほか、講演会、藻食魚ブダイの「肝い」料理の試食会を行なった。 2023年3月交付決定後、鹿児島県水産振興課の田中敏博氏と屋久島における水産資源の管理のあり方についてインタビューを行なった。田中氏は20数年前に屋久島で水産普及員として4年間勤務した実績があり、現在は鹿児島県水産技術開発センター(水技センター)副所長の要職にある。5月に、西之表市にある鹿児島県熊毛支庁水産係の榊純一郎氏、西之表市役所農林水産課の上別縄守氏に種子島での藻場再生事業の詳細をインタビュー調査した。6月に鹿児島大学大学院連合農学研究科の寺田竜太教授に藻場研究の最前線のお話を伺った。7月には鹿児島大学水産学部助教(当時)の遠藤光氏に、種子島での藻場再生事業の詳細を伺った。 11月に、寺田教授による「屋久島の海の森:藻場の現状と将来」と題する講演会を実施した。会場は屋久島町役場フォーラム棟であり、40名の参加者があった。屋久島の地で、藻場に関する講演会が開かれたのは初めてのことであり、大きな関心を集めた。 2024年1月に、屋久島志戸子集落の伝統料理「ブダイの肝い」料理の試食会を行なった。全国的に藻場が消失しているが、その要因の一つが温暖化によって海水温が上昇し、ブダイなどの南方系の藻食魚が北方海域で越冬繁殖して、藻場への食圧が上昇して、藻場が減少するという負のサイクルがある。屋久島ではブダイのことを「モハミ」(藻を食む魚)と呼んで食べてきたが、様々な要因の結果それは廃れてきた。そういう中、志戸子ではブダイ料理が現存しているので、その普及を図れば、失われている藻場の回復が実現するとの仮定の下、この試食会を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
屋久島におけるイソモン(磯のもの)と呼ばれる貝類などの採取は海のコモンズへのフリーアクセスを前提にしていた。誰でも、どこでも、いつでも自由に採取できる、というものである。屋久島のイソモン採取は、春から初夏にかけての大潮時に行なわれる人々の娯楽であった。志戸子では集落を挙げて数百人が浜に繰り出し、イソモン採取を行なってきた。だが、1960年代から10数年続いた山地(国有林、薪炭共有林)の大面積皆伐によって山の土砂が海に流失した結果、屋久島の藻場は大きく衰退した。その結果藻場に依存してきたイソモンも減少した。 1993年の世界遺産への登録は事態をさらに悪化させた。世界遺産登録とともに観光客が増え、屋久島独自の食への関心も高まり、イソモンの需要が急拡大した。海のコモンズへのオープンアクセスを前提にする屋久島でのイソモンはその結果商品化され、オーバーユース状態に陥り、採れる量も減り、また取れる個体も小さくなってきている。 こうした状況下にある屋久島のイソモン採取は、ギャレット・ハーディンのいう「コモンズの悲劇」下にある。この危機を脱するためには、海の資源管理を徹底させることと沿岸資源の回復を図ることである。海のコモンズへのオープンアクセスが当然のことと思われている人々の常識を変えることは至難なことであるが、管理して、持続的に利用する、という理想を屋久島の中でどう定着させていくかが重要なポイントである。 さらに、資源としてのイソモンを増やすには、イソモンを育てる海の環境を改善すること、つまり、藻場を再生、造成することであり、また、藻食魚をうまく食べる食習慣を復活し、普及させることが肝要であり、またそうした活動に着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、屋久島の隣にある火山島口永良部島でのイソモン資源の現状とその利用の実態を明らかにすることを計画している。6月までの大潮時に渡島し、数泊して、関係者にインタビュー調査を行なう。口永良部島は屋久島と同じく、イソモンへのオープンアクセスは、藻食魚であるブダイ(モハミ)の中で、「タネモハミがおいしい」とよく聞く。それではタネモハミとは何か、種子島では一尾1,000円ともいわれるそのモハミをどのように利用しているのか、それ以外の藻食魚の利用実態はどうなのか、など明らかにすべき事柄が多数ある。また、現在進行中の馬毛島の基地建設工事によって、種子島の漁業資源、特にトコブシやアナゴなどのイソモン類にどう影響を及ぼしているか、を調査する。 さらに、初年度にインタビューを実施した寺田教授や田中敏博水技センター副所長などの方々との再度のインタビュー調査も企画している。
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